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2.get back the taste.―13


 一人はしゃぐ日和に、さんきゅー、と礼を言って、龍二は再び春風に視線をやる。

「まぁ、そういうこった。皆でその祭りに行こうぜ。そん時に浴衣着せてやるよ」

 龍二のその言葉に春風は目を丸くした。手にもった花火は春風の視線の外でバチバチと火花を立て、どんどんその寿命を削っている。

「いいの?」

「いいに決まってんだろ」

「でも、そろそろ本題を進めた方がいいんじゃない?」

「いいんだよ。春風だってせっかくこうやって学生生活送れる様になったんだ。これくらい楽しめ」

「龍二……」

 僅かにだが瞳を潤ませた春風を敢えて無視した龍二は、俺もやるかー、と適当なごまかしを呟いて開封した花火を積んだ山の中から適当なモノを取り出す。いわゆるネズミ花火だった。龍二はそれを手にしてちらりと日和を見た。日和は龍二が手に持つそれに気づいていないようだ。新しい花火に火を点けた所である。

 日和が蝋燭から離れると、龍二は足音を殺して静かにネズミ花火に火を点けに向かって、火の点いたネズミ花火を日和の足元めがけて投げたのだった。

「ちょ、ひっ、きゃああああああああああああああああ!?」

 その後、日和の甲高い悲鳴が大音声で辺りに響いたのは言うまでもない。




    17




 翌日。エッツァが予定通りに神代宅へと訪れてきたのだった。事前に春風には話しておいたため、簡単な茶菓子に茶を用意してもらい、春風にも同席してもらった上でエッツァをリビングへと招き入れた。龍二の隣に春風が座り、龍二の正面にエッツァが座っているという状態だった。

 早速、龍二が切り出す。

「で、エッツァ……だったか……。お前は親父達とどういう繋がりがあんだよ?」

 強気の態度で威圧する龍二。だが、殺意までは見せていない。勘ぐって、疑って、最悪の場合を想定しての態度だ。仮に相手が殺し屋であれば、味方であろうと敵であろうと、年功序列など関係はない。この態度に出る意味は間違えていないだろう。

 静かに、エッツァは語りだす。

「私は、生前の浩二様と美羽様にの友人でした。正確に言えば、『アドバイサー』として私が彼らの補助をしていました」

「アドバイザー?」

 春風が眉をしかめる。隣の龍二も同様だった。

 殺し屋は普通、実働役と後援役の二つの役割を分担した二人以上で組み、一つの殺し屋とされるのだが、その中で『アドバイザー』なんていう立場は聞いた事がない。二人とも、なかったのだ。

「アドバイザーって、主に何を?」

 龍二が訝しげに問う。

「浩二様達は知っての通り、神代家として常に他の殺し屋団体とは違う大きな仕事を抱えていました。そのため、彼らだけの手には逐えない状況になる事もしばしばで、私が相談役を買ったり、手を貸していた、という事です」

 その話を聞いて、春風は目の色を変えた。

 そして、言う。

「じゃあさ、美羽さんが作ってた武器について、何か知らないの?」

 春風の発言に龍二も目の色を変えた。そうだ、彼が本当にアドバイザーなんて立場であれば、もしかしたらあの謎の武器の事も知っているかもしれない。そう、思ったのだが。

「はて? 武器が何か?」

 困った様に眉を潜めるエッツァを見て、結果はすぐにわかった。

 あの武器は特殊で、異質だ。本当に彼がアドバイザーで、浩二達がアドバイザーを頼っていたとしても、その情報を秘密にしているのは何ら不思議ではない。

 仕方ないか、と龍二は話を続ける。

「で、エッツァ。お前は一体何をしに我が家まで来たんだよ?」

 本題へと導くが、まだ、探り合いは続いてる状態である。訝しげに眉を潜める龍二の表情からそれは明らかであった。表情でエッツァにもその心境が読み取られるだろうが、今、その心境が読み取られた所で何の不自然さもないため、問題はない。

「それは昨日申し上げた通りで、龍二様の面倒を見るためでございます」

「必要ない」

 龍二はきっぱり言い切った。答えも早く、昨日の発言を覚えていてあらかじめ答えを決めていたようだった。

 龍二のその拒否の色にエッツァは表情も変えずに、一息付く間を空けて答えた。

「そういうと思っていました」

 そこまで言ったところで僅かに眉端を下げて、

「龍二様はご両親が亡くなられてからも全部なんとかしてきたと知っています。それに、お金に困っていないという事も。今ではこうやって、」春風を一瞥して、「仲間も手に入れたようですし、正直、私の存在も必要はないとわかっています。ですが、」

 エッツァはいつになく真剣な表情で龍二を捉え、

「ですが、私も浩二様との約束がありますので」

「約束?」

 龍二がエッツァの真剣な態度を無視し、単純に気になったワードを問うと、

「そうです」頷いた。

「浩二様から、もしも自分に何かあったら、龍二様の事を頼む、面倒をみてやってくれ、と言われていました。ここまで遅くなってしまったのは、私自身も殺しの世界にいて、埋まっていたスケジュールを片付けていたためです。言い訳がましいようですが、事実なので。本当に申し訳ないと思っています。本来なれば浩二様達の葬式の前に貴方様の下に来て、世話を始めるべきだったのですが……」

 龍二は、このままでは埓があかないな、と思った。話を聞けばありそうな話である。だが、嘘で固めたようにも思えた。神代家自体が協会にしられているのは周知の事実だ。故にいつ襲撃があってもおかしくはない。目の前のエッツァの様にこうやって近づいてくる輩がいてもおかしくはない。襲撃がないのは、殺し屋としての『暗殺』がし難い住宅地にこの家があるからだ。

 協会は、いや、野良含めた殺し屋全てには暗黙の了解として一般人を巻き込んではいけない、その存在を一般人に知られてはいけないというモノが存在する。ウルフの様にそれを破ってしまうモノもいるが、ルールで定められていなくても罰則を與羅琉。

 だから、龍二はとにかく最悪の想定に備える。

「話はわかった。だがよ、俺からすれば信じる理由はないんだ。殺しの世界に入れば分かるだろ? だから帰ってくれ、そしてもう来るな。親父との約束を守りたいって気持ちはわかるが、俺には身を守る理由がある。親父もそれくらい分かってくれるさ」

「そうですか……」

 龍二の言葉にエッツァは眉端を下げ、僅かにだが悲しげな表情を見せた。そして立ち上がり、

「わかりました。諦めましょう。……龍二様、これからも生き残ってください。ご両親のためにも」

 そして礼を言って、エッツァは去っていったのだった。

 あまりにもあっけない結果だった。断った際に何かしらの強硬手段での襲撃でもあるかと身構えていた龍二だったが、それがなかったために少しだけホッとしているのだった。

「どう思う?」

 エッツァが手を付けなかったお茶菓子を片付けながら春風は龍二に問う。

「敵だとか味方だとか関係ねぇよ。攻撃してこなかったのも事実。だが、安心できる存在じゃない事も事実。俺は拒む事しかできないっての。それに、親父達が俺の面倒を頼む程の存在ってなら、事前に俺にその存在を親父達が教えてないと不自然じゃないか? 俺だって殺しの世界にいんだしよ。その前からの知り合いでも、俺が殺しの世界に入った時点で教えておくべきだろ」

「そうだねー。やっぱりそこが気になるよね」

 台所に余った茶菓子をおいてきた春風は戻ってきて、先ほどまでエッツァが座っていた席、つまりは龍二の正面の席へと腰を落ち着かせて、言う。

「でも敵だったとしてさ、何が目的なんだろうね? この家の中も玄関あらリビングまでしか確認できてないし。武器とかはアトリエにほとんど隠してあるし、盗聴器とかを仕掛けた様子もなかったね。私の見落としがなければ怪しい素振りなんてなかったし」

 龍二は頷いて返す。

「そうだな。俺も怪しい素振りは見つけられなかった。が、俺たちの気づかない所で何かした可能性ってのもあるな」

「そうだね。一応暫くは注意しておこうか」

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