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2.get back the taste.―11

 日和は言った通り着替えに戻る様だ。リビングを出て、二階へと向かって行った。

「まぁ、でも遠いからタクシー使おう。呼んどくわ」

 そう言って龍二は携帯を取り出し、タクシーを呼んだ。日和が着替えて戻ってくる頃には丁度良く来るだろうか。

 春風も龍二も出かけ支度はすぐに済ませる。あっという間に済ませると、そこに着替えた日和が戻ってきた。

 幼馴染である日和を見て龍二は思う。大分、大人びたな、と。日和は見かけは小さいが、それでも年頃の少女だ。化粧をして、お洒落をしてとしたくなり、と見た目がガラリと変わったモノだ。当然、幼馴染としてほぼ毎日一緒にいるため、機微な変化は見逃す事が多いが、見た目の変化は大きい。今や一人の女性だった。化粧をしてしまえば、薄めとはいってもあどけなさは消える。すっぴんのあどけなさが消えるだけで、人が変わった様にまで思えた。が、龍二は特別気にしないのだった。

「お待たせ」

 と、春風が戻ってきたと同時、龍二の携帯に連絡が入った。タクシーが家の前に到着したらしい。三人は最後に財布等の忘れモノをチェックして、出かけるのだった。




 都会では珍しいとも言えるホームセンター。今、龍二達が訪れているこのホームセンターは龍二達の地元から大分離れた場所にある。そのために、彼らはタクシーを使ってわざわざ赴いたのだ。

 敷地面積は広大で、一見しただけでは分からない程に広い。駐車場も二階建てでかなりの数を保有できるようになっているし、中も中で相当に広い。家具等の一品一品が大きなモノを揃えるのだ、スペースもなければ仕方がない。

「広いねー」

 クーラーが効いているのかどうかわかりずらい程に大きな敷地に入った龍二達。春風は素直にそう呟いた。殺し屋がホームセンターなんて来る機会等ないだろう。もしかしたら、春風がこういう場所に来るのは、もしかしたら初めての事なのかもしれない。そう考えると春風の感心は純粋に見えた。

「久々に来たけど大きいね。花火売ってる場所どこかな?」

 一方で日和は慣れた様子で辺りを見回す。外の暑さから(タクシーからの降車と入口までだが)解放されて、満足なのか、調子の良い感じできょろきょろと花火売り場を探している。

 入口付近、レジ周りには見当たなかった。恐らく奥の方にあるのだろうな、と三人は進む。家電売り場、カー用品売り場等の今の三人には関係のないコーナーを通りすぎて、売り場を一周するが、花火売り場は見つける事が出来なかった。入口前にまで戻って龍二達は一度戻る。

「この時期だし、ないって事はないだろうがなー。ここならいろんな種類あると思ったんだけど」

 まいったな、と頭をボリボリと掻く龍二は眉を潜める。

「二階じゃない?」

 日和が辺りを見回して言う。二階へと続く階段を探しているようだ。

「そういえば二階とかあったな」

 思い出した様に龍二は頷く。

 龍二も日和もここには来たことがあるようだ。二人が辺りを見回していると、龍二の方が先に見つけた。

「あった。二階行こう」

 見ればエレベーターも階段もすぐ近くにあった。三人はやたらと幅の広い階段を上がって二階へと進む。

 二階は一階に比べて少しだけ狭くなっているが、それでも広大な敷地に変わりなかった。

 どうやら二階にはホビーやゲーム機が置かれているようで、夏休み前だが休日という事で家族連れで溢れかえっていた。

 二階に上がると花火をまとめた売り場をすぐに見つける事が出来た。龍二の予想どおり、そこらの店では買えないような様々な種類の花火が陳列されていた。シーズン直前という事でコーナーも大きく場所を取っており、選ぶには申し分のない状態だった。

「沢山あるねー」

 春風は目を見開き、視線を色とりどりな花火へとさまよわせて興奮している。そんな春風を見ていると、恐らく花火もした事がないのだろうな、と思う龍二だった。

「花火初めてか?」

 並べられた花火を眺める春風の横にそっと寄り添い、龍二が聞くと、春風は素直に頷いた。

「うん。物心ついたころにはアッチの世界にいたからねー。出来が良くなかったからずっと下っ端だったけど」

「なるほどねぇ。……好きなの選べよ。金ぁあるから」

 そうとだけ一方的に言って、龍二は日和の方へと向かっていった。

 龍二は龍二なりに春風を気にかけているのだ。ただ、遺品の調査をさせるだけでなく、自身がそうした様に、日常の中も生きて欲しいと思っているのだろう。

「そういえばだけどさ、どこで花火するの? 場所によってはできないのもあるだろうし」

 と、巨大な打ち上げ花火の類の商品が陳列されている場所の目の前で、日和は呟く様に問うた。

「考えてなかったな。庭でもいいけど」そこまで言った所で龍二は目の前の巨大な花火が並ぶ棚を見て、すぐに日和へと視線を落として、「まぁ、遅い時間じゃなければ公園でもいいけど」

 日和がこういう類の花火をしたがっているのは見て分かる。龍二の家は大きいが、庭はそこまで大きくない。家のサイズを見れば普通よりも少し狭いくらいなものだ。三人で花火をするには十分な広さではあるが、流石にその中で打ち上げ花火は、家庭用とはいえ、できない。

「うーん。でも夕食をウチで食べるんでしょ? もしかしたら遅くなるかもだし……、龍二の家で出来る方がいいよねー」

 そう言って、自身の内で暴れる大きな花火を打ち上げたい症候群を抑え、日和はすたすたと歩いて春風の方へと向かっていった。

 二人は適当に話ながら花火を選び始めた。そんな二人を見て龍二は、花火選びは二人に任せればいいか、とその場を離れ、一階へと一人向かっていった。

 一階へと下りると龍二は目的もなくうろうろと店内を歩いて回った。

 龍二はあの大きな家に春風と二人暮らしだ。故に、こうやってホームセンターに赴けば何か気になるモノがあれば買おうと思っている。大きな家を持っているのだ。それに、その家を自由に出来る。ちょっとばかり大きな家具を買っても問題はない。

 春風が来た事で質素だった家も大分雰囲気が変わった。それに合わせてまた家具等も雰囲気にあったモノへと新調したり、買い加えたりしなければならない、と龍二は感じているのだった。

 そんな龍二がやってきたのはソファーが並べられるコーナーだった。

 龍二宅のリビングは広いキッチン前のスペースはテーブルセットで場所をとっているが、まだ半分程スペースが余っていた。そこにテレビを見ながらでもくつろげそうなソファーを置こうと考えたのだ。

「こうやって見ると種類が多いんだなー」

 大小様々なソファーを眺めながら歩き、龍二はふとそんな事を呟く。暫く歩き、自宅のリビングに合うL字型のソファーを見繕って購入。自宅に配達を頼むと、龍二は二階へと戻ろうとした。

 が、そこに見覚えのある顔が現れた。

「あ」

「げ」

 龍二の前に現れたのはこの前、礼二を拉致したヤンキーの内の一人だった。

 ヤンキーは龍二に気づくやいなや、即座に踵を返して走り去る。店内を走る不良の姿は滑稽だったが、もう手出しはされないのだな、と一安心する龍二だった。




 二階へと戻ると、不良三人組に絡まれる春風達の姿を見つけた。


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