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2.get back the taste.―8




    14





「で、実際どうだったの?」

 アトリエにて、武器を整理している龍二の横に付く春風が問うた。どうだったの? とは先の一件の事だろう。

 言葉に反応して龍二は春風を一瞥してすぐに視線を戻し、手入れの終わった銃を壁にかけながら答える。

「殲滅して終わりだよ。帰りに偶然ヤンキーが礼二を拉致してきたところとぶつかってな。助けてさいならーって」

「死体とかは?」

「見られてない。あとは協会が片付けんだろう」

「そうだねー。まぁあれだけの事をしたんだし、協会がウルフを潰すだろうね。殺し屋としては最悪の行為だし」

「そうだね」

 今回のあの戦いでウルフが全滅した事はないだろう。だが、ウルフは神代の首をとろうと殺し屋としてあってはならない行為に出てしまった。その行為を協会が許すはずがない。野良ならまだしも、ウルフは協会所属の殺し屋団体だ。粛清され、今後の活動はできなくなるだろう。残った連中が野良となって活動する可能性はあるが、暫くは大丈夫だ。団体を築き上げるのにも時間は要する。

 銃をしまい終え、デスクへと戻ってナイフの手入れへと移る龍二。アトリエからは外は見えないが、時刻は深夜一時過ぎ。礼二と日和が帰るまで時間が掛かったため、この時間になってしまったのだった。

 春風はアトリエをウロウロしながら言う。

「でも、これでやっと一段落だしね。形見の話も進められるでしょ」

「そうだな」

 そっけない返事に春風は眉をしかめながら龍二を一瞥するが、すぐに視線を適当な位置にさまよわせて、言う。

「で、学校はどうすんのさ?」

「行くよ」

 即答だった。

 龍二は基本的にわがままだ。友達付き合い等でそれを発揮する事はないが、根本的な性格はわがままなのである。

 だから、龍二は学校に行きたいと願う。龍二も様々な経験を積んできたが、結局は一人間、一少年なのだ。漫画や小説の主人公のように出来た人間ではないのである。

「そう。じゃあ私も行くから」

 そんな性格を理解した上で、春風はそういう。と、龍二はただ頷いた。

 アトリエには龍二はナイフの刃を手入れする音が響く。

 手入れ、とは言っても刃を研ぐことは出来ない。こびりついた血を拭き取り、グリップとの接合部を締め直すくらいだ。刃に至ってはやはりどうしようもなかった。そのため、やはり切れ味はどんどん落ちて行く。今回の戦いでなおさらそれを感じ取ったのだった。

(早くどうにかしないとな……)

 手元の血を拭き取ったナイフを見ながら、龍二は嘆息する。

 製造され、こうやって手元にある以上、製造元が存在するはずなのだが、それが分からないのだ。どこかに資料でもあれば、とは思ってアトリエの詮索をしたのだが、当然見つかるはずもなく、現状、というわけだ。

「でもさ、この武器を管理してた後援役だったお母さんは、この武器の製造方法なり管理方法を知ってたんだよね? じゃなきゃ後援なんてできないしさ」

「そうだな。資料の一つくらいは残っててもいいモンだけど……ねぇんだよね」

「処分した、でいいのかな」

「さぁ、どうだろうな。最初からなかった可能性だってある」

「両親がまだいる時、見て事ないの?」

「ないから言ってんだよー」

「そう」

 そこまで会話が終わったところで、龍二はナイフの手入れを再開し、春風はアトリエをぶらぶらとし始める。あた再び暫くして、ナイフの手入れを終えた龍二が春風に声を掛ける。

「先寝てていいんだぞ?」

「何その夫婦みたいなモノ言い」

「……なんでもないです」

 龍二は机から立ち上がり、じゃあ先いってるから、と言って階段をアトリエを出た。と、そこに春風が続く。暫くリビングへと繋がる階段を登ったところで龍二は立ち止まり、振り返る。と、眼下すぐ目の前に春風。

「何か様子がおかしくねぇか?」

 龍二は眉を潜めて問う。

 どうにも様子がおかしく感じた。

「別に何もないよ?」

「? そうか」

 そうして、二人はリビングへと出る。

 静かな音を発ててアトリエへと繋がる階段を隠す扉が締まる。と、

「何か夜食食べる?」

 春風が不意に提案。

 龍二はその提案に「あー」と僅かにうなって壁にかけられた時計を見る。時刻は深夜二時前。寝るべきか、と一考の後、龍二は「頼むわ」と答えて椅子に腰掛けた。

「りょーかい」

 そう言った春風はすたすたと歩いて行き、台所の中へと消える。とは言ってもオープンキッチンなため、姿が見えなくなる事はない。

 くつろぎながら、龍二は不意に春風へと視線を向けて、戻してから言う。

「つーかさ、なんでお前俺に着いてんの?」

「ん?」

 何言ってるのかな、という表情の春風に龍二は追撃する。

「ウルフからホントテキトーに引き抜いて、裏切りもせずにこうやって夜食作ってくれてありがとうって言ってんだよ」

 恥ずかしそうにそういう龍二はすぐに視線を斜め下へと落とす。そんな龍二を遠目に見て、春風は密かに笑いながら、こう返した。

「まだ短い期間だけどね、私は龍二を信頼してんだよ。こうやって普通に学校に通えるってのも龍二の御蔭だしね」

 言いながら、春風はケーキとミルクティーが二つのったトレーを持って出てきた。

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