2.get back the taste.―6
そこからは早かった。たった二人。上からの攻撃を避けるのは今までと変わらない。逃げながら、右手に掲げた銃で頭を打ち抜くだけだった。
二人はあっという間に倒れる。その様子は確かに上にも伝わったはずだが、特別なアクションは見当たらなかった。ここまでなるとは想定していなかったのだろう。場を離れる際に死体に目をやる龍二。だが、死体に通信機は見当たらなかった。本当に、ここまでの事を想定していなかったのだろう。
このサイレンサーなしで無駄に発砲音を鳴らしている中で、統率者の声が全員に聞こえるというわけはあるまい。
龍二は再び動き出す。上から降り注ぐ銃弾の雨を交わしながら、銃声に耳を劈かれながら龍二は出口へと向かう。なんとか進み、更衣室等を通り抜けて彼は二階へと上がる階段を一気に駆け上がる。ここまですれば、奴らもアクションを起こさねばならない。階段を上っている途中で、彼らの姿が乗り出してきた。
「ふっ、」
華麗な動作で龍二は銃のトリガーを引き、あっという間に顔を覗かせていた連中を片付けた。腕はなまっているとはいっても一流と言っても良い技術を持っていた彼だ。多少腕がなまった所でウルフ程度の相手なら容易く片付けられるという事だった。
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「おい。久々に見る顔がいるぜ」
「ん? おぉ……アン時の先輩さんじゃねぇですかぁ……」
「この前の復讐のチャンスじゃね? 拉致ろうぜ」
「そうだな。人見当たらねぇし。丁度車だしな」
「オイオイ、拉致ってやばくね?」
「大丈夫だっての、ほら、あの港の廃工場あんだろ?」
「あぁ……」
「つっても拉致なんてさ……」
「大丈夫だっての。ほら、あん時俺らの事を舐めやがった先輩いんだろ? 確か、神代って奴」
「いたな。あいつがどうしたっての?」
「あいつっていうか、あいつ関係で、一回あの廃工場で似たような事があったんだよ。なんか女取られて神代が踏み込んできたとか」
「おっ、じゃあいけるかもな?」
「オイオイ、待てよ。お前あの時の話知らねぇだろ?」
「は? 何よ?」
「話じゃあいつ、一人で、しかも無傷で女取り返したって話だぜ?」
「そんな馬鹿な事あるかよ。噂が一人歩きしただけだっての」
「でも、あいつ確かに強かったし」
「偶然だっての、とにかくやるぞ!」
「……おう」
12
「おぉおおおおおおおおおおお!!」
二階に出てからは隠れる場所なんてない。倒した敵を盾にしながら、龍二は銃で確実に一人ずつ倒して行った。
そうして――、
「待たせたな」
龍二の手からどさり、と銃弾でボロ雑巾のようになった敵の死体が落ちる。落ちたその瞬間に血液が嫌な音を発てて落ちる。
勝敗は明らかだった。二階の右側部分から左側部分にまでいた敵を、正面から迫る敵をも相手しながら倒してみせたのだから、それは最後の一人に取り残されたモノは畏怖してしまう。
龍二の目の前の黒髪の男は、膝を笑わせ、銃を構えてはいるが銃口はぶれているし、発砲してくる様子もない。強がってこそいるが、負けを理解している様子だった。
「だっさ」
龍二は思わずそう吐き出した。龍二は銃を構えて等いない。銃口は下に落ちている。それどころか視線すら外している。彼との距離はおおよそ一メートル強。この距離であれば、こんな相手であれば見ていなくてもトリガーを引く瞬間が分かる。
「は、はは……流石神代、や、やるじゃないか……」
男は気取った様に口角を釣り上げながら、震える声で言う。強がってはいるが、結局の所は畏怖している。それを隠しきれていないのだ。
そんな男に呆れる龍二。追跡してきていた時はあんなに気取っていたというのに、今では失禁してしまいそうな程に震えている。
「声も体も震えてんぞ」
龍二が視線をやってそういうと、男は急に表情を変えた。
「ふっざけんなぁ!」
急に表情をこわばらせ、銃口の先を確かに龍二の額に向けた。だが、龍二は微動だにしなかった。真っ直ぐ正面を見据え、銃口を額につけてやるくらいの勢いで言う。
「ふざけてんのはそっちだろうが」
ギンと睨みつける龍二。その殺気と、恐ろしい程の何かがこもった眼光に、男はもう『完全に負けを悟った』。
「ふ、」
「あ?」
「ふはははははははははっ!」
すると突然、男は大音声で笑い声を上げたのだった。あまりの大音声に工場内は声を反響させてその不気味な笑い声に包まれた。突然の狂ったような男の様子に、龍二は思わずたじろいだ。
恐怖で狂ってしまったか、とまで思ったが、殺し屋であろう人間が恐怖にやられるとは相手がウルフでも、そうは思えなかった。
と、そんな龍二に男は確かに視線をやって、こう笑ったまま、こう告げた。
「流石神代の人間だなぁ!」




