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1.open it.―1


 打ち込みで作られた電子の起動音が部屋に僅かに響き、ゲーム機が起動され、テレビ画面にゲームのホーム画面が映し出される。最近のゲームはすごいな、とも思わなくなっていた龍二だが、この起動の早さには未だに関心はしている。

 早速、と龍二が今や世間一般にも定着しつつある黒光した両手に馴染む形のコントローラーを持ち上げたところで、

「龍二ー」

 来訪者だ。聞いたその場で女性だと分かる声と同時に響いたのは窓を叩く音。当然、龍二の手は止まり、自然と首が動いて視界の中心にはこの部屋唯一の窓が映し出される。

 窓の先に見えるのは、隣の家から器用に身を乗り出して龍二の部屋の窓を叩く黒髪のポニーテールの女の子の影。制服姿だ。それも、龍二と同じ神埼高校の物である。

日和ひよりか。開いてるぞー」

 女子学生の姿を一瞥で確認した龍二は視線と意識をゲーム画面に戻して、そう言った。

 すると、日和と呼ばれた女子は手を一杯に伸ばして窓を開け、よいしょ、と器用に龍二の部屋へと入ってきた。

 驚愕の光景だ。だが、龍二は決して驚く様子はないし、日和もこれが当然といわんばかりに部屋へと進入し、龍二の側で腰を下ろす。

 というのにも当然理由はある。

 彼女は椎名日和。龍二の幼馴染であり、同じ高校の同じクラスに通う同級生で、隣人である。その付き合いは長く、物心付く前から二人はすぐ側で育ってきているし、互いの両親も面識があったくらいだ。故に、龍二にとってこの程度の事は日常の一部でしかない。

「どうした?」

 コントローラーを操作して、予めゲーム機本体に入れっぱなしにしておいたゲームを起動させ、オープニングの演出を飛ばしながら、龍二は日和に視線もやらずに問うた。なんとも抑揚の感じられない呑気な声色である。日和を警戒していない、という信頼の顕れでもあるが、どうにも詰まらない。

「ママが一緒にご飯食べないかだってさー」

 一方の日和は龍二とは対象的な声色で喋る。さばさば、とでも言うか、ハッキリとした言葉の放ち方が印象的な喋り方だった。整ってこそいるが派手ではない顔とはイメージのギャップが感じ取れる。

 日和の言葉。ママ、というのは当然日和の親を指す。当然だ。龍二は両親が居ない。一年前に失ったのだ。

 と、考えれば日和の誘いも分かるだろう。高校生男子が一人で暮らしている。隣人、幼馴染がたまには、暖かい家庭においで、と誘う。それだけだ。

 聞いた龍二は何時の間にか始まっていたゲームを進めながら、僅かに考えるように、

「あー。……分かった。どれくらいでそっちに行けば良い?」

 釣られて視線をテレビに移しながら、日和は一八時半ばを指したデジタル時計を一瞥した後に応える。

「八時でいいよー。っていうか、それ、新しいやつ?」

 不意に日和はゲーム画面を指差して、話題を変えた。

「おう。昨日買って来た」

「え、ちょっと。私にもやらせてよ。二人プレイ出来るんでしょ?」

 素っ気無く応える龍二とはやはり対象的な日和。

 テレビには銃を持った人間二人が襲い掛かってくるバケモノを打ち倒して進む光景が映し出されている。

「いや、二人でやるには一旦メニューに戻らないといけないから。ちょっと待ってろ」

 日和のリクエストに応える気はあるらしい龍二。だが、一旦ゲームを終了しなければ二人でのプレイは出来ないようで、龍二はセーブポイントまで極力急いで進めようとし始めた。

 そんな龍二の横で、テレビ画面に視線を釘付けにした日和が何気なしに呟く。

「っていうかさ、このゲームも変わったよね。最初の頃なんて固定カメラ、ラジコン操作だったじゃん。それが何時の間にかTPSでアクションバリバリの別ゲーみたい。それに、協力プレイなんてついちゃって。その方が売れるんだろうけどさ」

「まぁ、俺も昔の方が好きではあるけどなー。やっぱここまで有名な作品だとタイトルで買っちゃうよ。中身が伴ってなかろうが、期待以下だろうが。……っつっても、これは結構面白いぞ。以外にいける」

 と、ゲームの会話を進めている内にどうやらセーブポイントまで辿り着く事が出来たらしい。現在のプレイデータをセーブし、一度終了させ、メニュー画面に戻ったところで龍二はテレビ台の下からもう一つのコントローラーを取り出して、軽く投げるように日和に渡した。

 おっと、といいながら日和は綺麗にコントローラーを受け取り、コントローラーの電源を入れる。最新のゲーム機だ。コントローラーも無線である。

 日和のコントローラーが接続されたのを確認すると、二人プレイのモードを選択し、龍二はまた、ゲームを始めた。

 こうして、日和はゲーム好きの龍二の近くにいたがため、近年の女子にしてはゲームについて豊富な知識を持っている。ただ、自宅には所持していないため、腕は龍二にはどうしても劣ってしまうのだ。が、負けず嫌いな性格が彼女の腕をじわじわと上げていて、古くからあるゲームでは龍二と同等の技術を持っているともいえる。

「あ、横」

「きゃあ!? カバーしてよ! あ、横。って何よ! もう!」

 ゲームは進む。一人で黙々とやっているとどうしても無口になりがちだが、こうして二人でプレイすると、互い共声を漏らす光景が見れる。これが昔っからの光景だ、というのは今や日和の両親と当人達くらいしか知りえないだろう。

 ゲームを進めながら、日和はふと疑問を口にする。

「でもさぁ、前々から思ってはいたんだよね。今までの作品だとどうしてか仲間と別々に行動するじゃん? スペック上しかたのなかった事ではあると思うんだけど。でもさ、バケモノだらけの場所で仲間と意味なく別れて一人でゴー。なんてのはやっぱり違和感あるよね」

 日和の疑問に龍二は相変わらずの素っ気無い態度で応える。

「そうだな。普通に考えりゃ仲間とは互いが見える位置にいた方が安心するし。いくら主人公達が特殊部隊所属だからってやっぱ違和感あるよなー」

「実際、一人で行動するそういう人っているのかな?」

 日和の新たな疑問に龍二は眉を顰める。

「そういう人、って?」

「んー。特殊部隊とか……スパイとか!」

 テレビ画面からは銃声とバケモノの呻き声が響く。二人が操作する主人公達の悲鳴が聞こえないあたり、二人の腕は確かだ、と思えた。

 また、一匹の雑魚キャラをあしらった所で、龍二は主人公の装備品を整理しながら答える。

「よく、わかんねぇけど。いるんじゃね? スパイなんかは映画とかだと遠くにいる上司から無線とかで指示貰って一人で行動するしさ。あと、忍者とかもそんな感じするわ。特殊部隊ってなると団体のイメージが強いけど」

 その言葉を言い終わると、龍二の操作する主人公は道具の整理を終え、立ち上がり、再び奥へ奥へと進みだす。

 そして、だけど、と龍二は言葉を続ける。

「何にせよ、バックアップがいなきゃなりたたねぇと思うけどなぁ」

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