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2.get back the taste.―3


 龍二の力でなんとでもできると過ごしてきた今までと、殺しを辞めて過ごしていた今までがまずかったのか。龍二はここで素直に「そうだな」と言って身を引く事が出来なかった。

 暫く殺しの世界から離れていた事、そして、意地でも両親が残した武器を直してやろうと思っていた事がこの自体を招いたと思い出した。

 どうすれば良いか、わからなかった。いや、違う。正確にいうなれば判断しきれなかった。殺しの世界から離れようと『あの仕事』を請負い、そして見事に辞めて日常を得たのだ。だが、わがままで、形見として残る武器を見捨てる事が出来なかった。

 そんな龍二が、そんなわがままを持つ龍二が、今すぐ日常を捨てるなんて選択をできるはずがなかった。

 龍二が言葉に困っている事を察したか、春風は静かに話だす。

「まぁ私はもともと学校なんて興味ないし、仕方なく神崎高校にも通ったわけだし、どーでもいいから、『判断は龍二に任せるよ』」

 春風はそう言って微笑む。そんな春風を龍二は静かに見つめた。

 判断を任せる。その言葉がやけに龍二の胸に引っかかって離れなかった。




    10




 事は翌日起きた。

 ――日和がいない。

 そうまどかから聞いたのは昼過ぎだった。その場ではとりあえず『探してみます』と言って引き取ってもらったが、龍二、春風はすぐに気付いた。

「ウルフの仕業か……!!」

 そう気づくととどまっている事は出来なかった。春風もすぐに龍二の怒りを感じ取り、準備に掛かる。

 二人ともアトリエへと下りる。その歩の速度が普段よりも早いのは気のせいではない。それに伴って、アトリエへと続く階段に響く足音も大きくなっていた。

 アトリエで装備を整える二人。

 事前にウルフの情報はある程度収集してある。が、どこにいるのかどうかはわからなかった。だが、それは問題でないと思っていた。日和を拐ったという事は、人質にして龍二を脅すという事。必ず挑戦状が届けられるはずだ。

「こんな昼間から動けるの?」

 がちゃがちゃと銃器やナイフを装備しながら、春風は問うた。

「勿論カモフラージュはしてくさ。とにかく今は一刻でも早く日和を取り戻す事が大事だ」

 龍二は昨日の事もあり、恐ろしく責任を感じていた。自分が、関わったからこうなったのだ、と。暢気に日常を過ごす事等許されるべきではなかったのだ、何を不抜けていたのだ。辞めたからといって逃げ出せる世界でもないのに。そう自身を攻めていた。

「甘かったな、自分に」

 殺し屋云々があったとはいえ、彼もまだただの高校生だ。こういった甘さによるミスもまた、あるものだった。

 二人は颯爽と準備を終えて家を出る。格好は普段の私服だ。夏の暑さのため、厚着はできないが上手いこと上着を羽織、その下や中に数々の武器を隠している。身体検査でもされれば即座に捕まる様な状態ではあった。

 二人はとりあえず連中が連絡をとってきそうな場所、という事で春風の住みかであったマンションを目指した。その間の歩もやはり僅かではあるが早くなっていた。

 が、その道中、住宅街を抜けてちょっとした街道へと出た所で、ソレは届けられた。

「あ、あの」

 背後から呼び止められる二人。振り向くと、そこには小学生くらいの男子三人が申し訳なさそうな表情で龍二達を見上げていた。

「何かな?」

 春風が優しく微笑み、しゃがみ、視線を彼らと合わせて問うてやると、小学生一人が片手に持っていた手紙を春風に差し出した。受け取らずとも気づく。ウルフからの挑戦状だ、と。

 手紙を受け取った春風はそれに何も仕掛けられていないかどうかを触診で確認し、龍二へと回す。

「これどうしたの?」

 優しい笑顔を崩さず、春風は一応問う。すると小学生は一度振り返って、

「なんかね、おじさんがお兄さん達に渡してって。もういないけど」

「そう。ありがとうね」

 春風がそう言うと小学生連中はぎゃあぎゃあと騒ぎながら去っていった。恐らく、お小遣いでももらったのだろう。何も知らない彼らにとってはそれだけの事実が重要なのだ。

「で、どう?」

 立ち上がり、振り返る春風。

 龍二は広げた手紙をくしゃりと握りつぶして、どこか遠くへと視線をやった。

「……街の外れに、廃工場がある。そこだ」

「わかった」

 そうして二人はまた、進みだす。すぐ近くにウルフの使いがいるとは思っていたが、今仕掛けた所で何も意味はないと思い、敢えて何もしないで彼らは進みだした。

 場所までは二十分程掛かる。

 早足で進みながら、会話をすすめる。

「まさかとは思うんだけどさ」

「ん?」

 突然の言葉に龍二は首を傾げる。

「今から向かう場所ってさ。その、龍二が前に『大暴れ』した場所なんじゃないの?」

 春風は敢えて、それを聞いたようだ。先程の微塵も同様は感じられないあの仕草から春風はそれを感じ取り、気付いたのだろう。龍二は素直に頷いた。

「そうだ。だからってどうって事はないしな。実際、ここら辺でそういう事をするに適した場所はあそこ一帯しかねぇんだし」

「でもまぁ。同じ場所、同じ被害者。そう考えるとなんかイロイロと思う事もあるよね」

「…………、」

 春風の言葉には何か裏があるように思えて、龍二は何も言い返せなかった。

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