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1.open it.―22


 視線の主を探そうと龍二は礼二と会話をしたまま気を張るが、無駄にできてしまた野次馬の気配が龍二の捜索を邪魔していた。殺しの腕は一流であっても、このような詮索スキルは極普通。中の上程度だ。この中から無理やり主を探そうとするのは難しかった。

 もう一度、春風にアイコンタクト。当然だが、春風も主を探せはしなかったようで、すぐに視線はそれぞれの向かう先に向かう。

 この場には日和に礼二もいる。それに、それなりの野次馬、一般人もいる。相手が手を出してくる事はないだろう。だが、懸案だ。

(何もなきゃいいけどな)

 恐らく、視線の主はウルフの殺し屋だろう。視線は一つしか感じ取れないが、もしかしたら気配を消して身を隠しているのかもしれない。これは早々に解散した方がいいな、と龍二は考える。気を張ったまま、遊ぶのは面倒なのだろう。

「さて、次どこ行こうか。まだまだ時間はあるしね」

 何も知らない春風は言う。時間、という言葉を聞いて龍二は今更になって携帯を取り出し、時刻を確認する。まだ、昼過ぎだ。ここで龍二は思う。視線の主はどこまでついてくるか? と。ただの様子見であれば、どこか飲食店にでも入れば姿を消すかどこか遠くで見張るにとどまるだろう。そして、飲食店から出た時、視線を感じなければそれはそれでまた次の襲来を予測できる。と、とにかく、今の相手の意図を掴もうと龍二は提案する。

「時間も時間だし、飯でも食いにいかないか? 全員分奢るぞ」

 奢る、という言葉に目を輝かせる礼二。申し訳なさそうに互いに視線を合わせる春風と日和。礼二も日和も、ずっと、不思議に思っていた。龍二は金を持ちすぎている、と。この歳で両親がおらず、一人暮らしをしているのだ。親戚の援助がある、と答える龍二だが、それを聞いた全員が全員、信じ込んでいるわけではない。かと言って歳が歳、悪い事をしている、と詮索する者もいないのだが。

「悪いよ。龍二。お金くらい自分でだすよ」

 そういう日和だが、龍二は適当に「いいっていいって」と断り、近くに何か店はないかと歩き出した。

 追求はしなかった。どうせお金を払おうとした所で、龍二が断るのは見えている。そう言わんばかりに日和は押し黙った。

 暫くコンクリートジャングルを歩くと何処にでも有りがちなファミリーレストランを見つけ、全員の賛同を得た上で、そこへと足を踏み入れた。

 メイド服の様な制服を纏った店員に案内され、龍二達は適当な位置の席に案内される。そのままそれぞれがメニューを開いて談笑しながら注文を決める。

 そうしている間だった。

 視線が、店に入ってきた。

 すぐに気づく事が出来た。男だ。三人組で、視線の主はその中心に立つ人物。黒髪のオールバックに視線をわざとらしく演出するようなサングラス。アロハシャツに短パン、そしてサンダル。ヤクザのような見た目だった。連れてる二人は演出なのかスーツを纏っていて、且つ厳つい雰囲気を醸し出していた。どうみても裏稼業の人間だった。

 その男達はどうにもわざとらしく、時折龍二に視線を投げていた。少しおどおどとした店員に案内された男達は龍二達から離れた位置に腰を落ち着かせる。

 すぐに、挑発、宣戦布告だと気付いた。

 この場には日和と礼二がいる。同席している。そのため、春風に今、彼らの事を聞く事は出来ない。一度、確認のアイコンタクトだけを送って、龍二達は日常を演じ始める。

 学校がどうのこうの、ゲームがどうのこうの、時折礼二が春風に色目を使うのを龍二が止めて、とお普通に会話は進む。だが、視線が止む事はなかった。

 連中は龍二達を時折ちらりと一瞥するだけだったが、敵意丸出しの視線はずっと続いていた。ちらりちらりと一瞥をするためか、その視線には日和、礼二も気付き始め、居心地が悪くなり、食事をし、四人はすぐに退店する。

 退店すると、視線は止んだ。連中がただ、挑発してきていたのだな、と勘づく。

(……かかってこいよ。相手をしてやる)

 龍二は一人、ファミレス店内から一般人としてカモフラージュされた視線を投げかける男を睨み、そう心中で吐き出した。

 龍二の殺し屋としての姿勢が、戻ってきた瞬間だった。

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