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1.open it.―20


 話を聞いた春風は「ふーん」とため息を吐き出すように吐き出した後、わざとらしく首を傾げて日和に問うた。

「恋愛感情とかないの? 龍二に」

「うーん。内緒」

「含めた言い方をするな!」

 そんな高校生らしいからしくないかも分からない会話を延々と続け、夜が更け、そして、何故なのか、日和も龍二の家に泊まって行く事になったのだった。




 翌日。学校は休みだった。

 朝、普段よりも少しだけ遅く起きて、無駄な夏の暑さをクーラーで人工的にかき消したリビングにて三人が集まる。

 夜中の間に龍二達はアトリエにて片付けを済ませたため、特別、本当にやる事はなかった。日和もいる事だし、休みだし、何かしようか、と龍二は考えながら、リビングの食卓に腰を下ろした。

 食卓には既に朝ごはんが並んでいる。キッチンに日和が立っている所を見ると、日和が用意したモノなのだろう。春風は既に食卓についているが、まだ、ご飯に手を付けてはいないようだった。

「おはよう」

「あぁ、おはよう。日和もおはよう」

「おはよう」

 春風の若干眠そうな挨拶から始まって、カウンターから食卓に戻ってくる日和の挨拶で全員が揃った。いただきます、と適当な挨拶をして、少しだけ遅い朝の食事が始まる。

 外は夏らしい爛々とした天気だ。洗濯物がすぐに乾いてしまいそうな程感想した日だと感じる。つまりそれは、一歩でも外に出れば蒸し暑さから逃げる事の出来ない状態に陥るという事を表している。

 窓から見える外の景色を眺めながら、龍二は考える。

(今日は何しようか。日和といれば殺し屋関係が仕掛けてくる事はないし、なぁ。でも、暑そうだ。外)

 殺し屋の中で、暗黙のルールとして、何も関係のない一般人は巻き込まない、というモノがある。よって、春風と二人で行動している時ならまだしも、全く殺しの世界に関係のない日和がいれば、襲撃などはありえないという事だ。当然、何らかの事態に巻き込まれてしまえばどうしようもないが、それは仕方のない事で、考えにはなかった。

 視線を外の真夏の光景から引き戻して、龍二は食事を取りながら提案する。

「休みだしどっか行かないか? 礼二も誘ってさ」

 礼二を誘う、という考えは一瞬龍二の中で抵抗をうんだが(春風がいるため)春風は特別気にしていないようで、礼二を誘う、という決断に達したようだ。

「そうだねー」と日和は行き先を考えるように顎に手を当てる仕草を見せる。

 ちらりと龍二は春風を一瞥するが、春風は特別意見はないようで、何も言わずに黙々と食事を勧めている。が、文句を言わないところを見ると外出には賛成のようである。

「どこか行きたいところはないのか? ほら、春風こっちに越して来たばっかりだしさ」

 そんな春風の様子を見ながら、敢えて龍二は話を振った。

 すると、春風もまた、日和のような仕草を見せて、答える。

「電車があんまり好きじゃないからなー。歩いて行ける所がいいかな」

「春風さん電車苦手なんだー。じゃあ私もどこか近場でいいや。特に行きたい場所もないし」

「そうか」

 春風の言葉に便乗した日和の意見まで聞いて、龍二は携帯を取り出し、礼二にメールを送った。

 そうして食事は進み、朝食を終えた辺りで龍二の携帯に礼二から返信が来た。内容は単純明快なモノで、『春風さんいるの? じゃあ行くわ。場所は適当に考えてて』との事である。

 礼二に集合場所と時間のメールを返信した龍二は、朝食を終えて片付けまでして、自室に戻り、準備を始めた。当然、念のため、として自室に僅かに隠していた武器の数個を隠して携帯しておく。

 準備を終えて部屋から出ると、自宅に戻るために来た日和と目が合う。部屋の窓から自宅に戻る辺りが異常だが、彼らの中では日常なので、特別何もなく二人は簡易な会話だけを交わしてすれ違う。

 リビングへと戻ると、準備万端の春風がいた。いつ準備したのか、『日常用』の私服を纏っているその姿は、実に可愛らしかった。こうしてみればやはり、ただの年頃の女子高生である。

「準備万端だな。アイリス」

 からかう様に龍二が笑いながら言うと、春風はわざとらしくだが頬を膨らませてグチグチと照れ隠しの様な文句を吐き出す。

 しばらくして日和が準備をした状態で戻ってきて、三人は外へと出る。礼二に伝えた集合場所は商店街の一角の小さなカフェの前だ。そこまで遠くもなく、時間に余裕があるため、三人は急ぎもせずゆっくり歩いて進む。地面に反射する熱が月桃の体に汗を滲ませた。殺し屋云々以前に龍二も春風も人間だ。この自然の熱からは逃げれそうになかった。

 暑いな、と文句を吐き出しつつ、暫く進むと目的地へと到着する。休日という事もあってか、商店街には見覚えのある神崎高校の生徒達が数名確認できた。そして、普段よりも少しだけお洒落を決めた礼二の姿も見えた。

 礼二は春風を見るなり、目を見開かせ、三人の下まで駆け寄ってくる。

「おまたせ!」

「いや、それはこっちのセリフだから」

 そんな適当な挨拶を交わした三人。どこに行こうか、と話した結果、礼二の提案で少し離れた場所にあるゲームセンターへと行くことになった。一応都会ではあるが、いわゆる都心から少し離れているためか、すぐ近くに娯楽はないのだった。

 バスを使うか、歩いていくか、という話になったが、春風が歩きたいと珍しく提案したため、歩いていく事になった。余談ではあるが、その提案に対して礼二はノリノリであった。

 十数分歩いて隣町に近づくと、ゲームセンターが見えてきた。それなりに大きな施設で、都会と呼ばれる街にありながら、巨大な駐車場も完備している。早速中へと入ると、クーラーの冷たい風が彼らを包み込んだ。

「ゲーセン来たは良いけど、何するよ?」

 龍二が辺りを見回しながら問うと、礼二が答える。

「四人いるしな、個々で動くわけにもいかないし、四人で遊べるモン探して適当にやろうぜー」

 そう言って進みだす礼二。通い慣れているのか、礼二はさくさくと人ごみを避けて進む。そのため、龍二達は自然と礼二とはぐれてしまった。それなりに広い敷地内だ。それに、駐車場完備のゲームセンターで、休日だ。人混みが多く、ちょっと探しただけでは礼二を見つけられそうになかった。

「はぐれちまったなー」

 そう呟いて龍二が、どうする? と振り向いてみると、

「あはは。春風さんともはぐれちゃった」

 困ったように笑う日和だけが、目に入った。

「はぁ」

 嘆息する龍二。だが、春風がこのままいなくなって、また別の協会所属団体や殺し屋、ウルフに願えるとは思わないのか、気楽ではあった。気配で人を察知するほどの恐ろしいセンスを龍二は持っている。だが、この隙間という隙間を埋め尽くそうとする人混みだ。気配は混線していてそれは難しそうだった。

 結果、なるようになると自身に言い聞かせ、龍二は提案する。

「二人で適当に回るか。そのうち二人とも合流できるだろ」

「そうだねー」

 龍二は楽観的だった。もとより龍二と日和は幼馴染で、一緒にゲームをする中だ。ゲーム好きの二人で動いた方が、動きやすいと考えたのである。

 そうして二人はなぜか熟れた動きで人混みを避けながら、音ゲーと呼ばれるリズムゲームのコーナに向かった。

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