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1.open it.―19


 そうして、考えた結果、キバが吐き出した結論は、

「おとなしく、お前の監視下に降ろう」

 降伏宣言。だが、龍二の瞳の色はその言葉では変わらなかった。

 そもそも、言葉に信憑性等ない。それは、どういう発言をしても、この状況がそうさせてしまう。龍二も当然分かって問うている。分かっているからこそ、『タチが悪い』。

 龍二には、キバを助けてやろう。見逃してやろう。春風と同じように傘下に加えてやろう。という気持ち等、ハナからないのだ。だが、敢えて、嫌味ったらしく、キバが推測するであろう事まで想定した上で、龍二は問うたのだ。

 そもそも、龍二は既に『吹っ切れた』状態だ。もうどうとでもなれ、誰でもかかってこい。と構えている状態だ。そしてそんな龍二の目の前に現れたウルフのキバという存在。

 ただ、殺す以外になかった。

「そうか」

 龍二が静かにそう吐き出したと同時だった。闇夜に溶けるように落ちる影。真っ暗闇の中に確かに響き渡る水々しさを感じさせる何かが吹き出す空気を爆発させたような音。

 単純明快。キバの喉元が掻っ切られた瞬間だった。

 バタリ、と余りに容易く、それが人間だったのかと疑う程自然に、前に落ちたのだった。

「……後片付けも面倒なんだっての」

 龍二は足元に落ちた、現在進行形で血溜まりを作るキバの俯せに倒れる死体を見下ろしながら、吹き抜ける夜風に流されてしまいそうな声でそう呟いたのだった。





    8




「早いじゃない」

「お、」

 龍二はキバを始末した後、自身の自宅へと向かった。そこで、思わず感心してしまう。

 春風が、待っていたのだ。

 季節は夏。夏休み前の七月で、まだ肌寒さなんかは感じない季節だ。夜だとしても同様。だが、一人、元は敵である女の子一人が大人しく待っていた事に龍二は密かに和んでいた。こいつは裏切らないだろう、という自分の確信を改めて確認したのだった。

「待たせたな」

「早く家に入れて。一人外で待つのは辛すぎた」

 演技めいた口調でいう春風だが、実際一人で外で待つのは辛かろう、と龍二は早速自宅へと春風を入れる。合鍵でも渡すか、と考えながら進み、玄関を上がり、リビングへと向かう二人。

 が、そこに、

「あ、お帰り。遅くまで何してたの? ……って春風さんも一緒?」

 日和が居た。パジャマ姿でリビングの食卓でくつろいでいる。棒状のアイス片手にくつろぐその姿だけ見れば完全にこの家の住人だった。

「あ、こんばんは」

 言い訳は龍二に任せようとでも考えているのか、春風は龍二の発言よりも前に率先してそう日和に挨拶し、日和と向き合う位置に腰を下ろして「つかれたー」と適当な事を呟く。

 と、当然の如く日和の視線はリビングの入口で棒立ち状態の龍二に向かう。

 龍二はここまで考えていなかったのだった。馬鹿だな、と自負しつつも、思う。日和がそれだけ、身近な存在に自分の中でなっているのだ、と。家族同然の存在。そうなんだな、と改めて実感する。

 だが、それ故、春風の存在を日和にどう告げるか迷ってしまう。

 大切な家族のような存在ではあるが、実際の家族のように、『殺しの世界』に関わらせるわけにはいかないのだ。真実を告げるとなると、どうしてもそうなってしまう。つまり、言い訳を考える必要があったのだった。

 何してたの? 春風さんと。と言いたげな日和の大きな瞳に吸い込まれてしまいそうになる龍二。

 気だるそうに後頭部を書きながら龍二は春風の隣に腰を下ろして、一度、深呼吸。そして、覚悟を決めて告げる。

「言い忘れてたけどさ、春風は遠い親戚なんだよ。だからこうして俺が面倒みてるわけ」

 余りに変な、場違いな言い訳だった。だが、

「へーそうだったんだ」

 純粋な気持ちでそれを信じてしまう日和だった。

(これで日和には春風と一緒にいる事をとやかくは言われないか)

 一安心する龍二。その話を聞いて、春風は一瞬ギョッと目を見開いたが、日和に悟られる前に席を立ち、親戚の如く勝手に台所に向かってアイスティーを三人分準備し始めた。あっという間に準備を終え、それを持って席に戻り、配る春風。

「さんきゅー春風さん」

 気楽にそう言い、アイスティーの入った縦長のグラスを受け取る日和。アイスをあっという間に平らげ、アイスティーに口を付ける。

「そういえばさ」

 不意に、春風が切り出した。

 なんだなんだ、と龍二と日和が視線をやると、春風は二人を一瞥して、問うた。

「二人って付き合ってるの?」

「付き合ってないよー」

「幼馴染だ」

「へー」

 春風も殺し屋と言えど一応は年頃の女の子だ。どういった理由で今の質問をしたのか定かではないが、こういう事を聞きたくもなるのかもしれない。

「でも、結構噂では聞くよ? あの二人は付き合ってるからねーって」

 春風はどうしてか、追撃をかける。視線はチラチラと龍二に向く。何か意味を含めた視線だった。

 そんな視線を受けて龍二は、嫌がらせか、と頭を抱えそうだった。春風ならば、実際に付き合ってないという事はすぐに把握して、そういう類の噂を聞き飽きていると気づくだろう。だが、敢えてそういう話をしているのだ、と気づく。そもそも、春風は龍二が危険な世界のすぐ側にいたと知っている。恋人等作れない事は重々承知だろう。

「付き合ってないっての。みりゃわかんだろ」

 春風の真意を察した龍二は素っ気なくそう言うが、春風はきょとんとした表情で言い返す。

「互いの家を自由に行き来できるって関係だよ? 恋人だと思っちゃうよ。そりゃあ。でも、いいなー。私もそんな関係の人間が欲しいかも」

「あはは。私が厚かましいだけだよ」

 日和は笑う。今更、かしこまる必要等ない関係だ、と示していた。

 そうだ。龍二と日和、それに礼二は幼馴染なのだ。それに不良達絡みのあの事件とも言えるような一件も共に乗り越えてきている。この程度の関係、彼らにとっては当然なのかもしれない。

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