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1.open it.―18


「で、どうなってんのさ。教えてくんねぇかな」

 龍二は状況とは思えないような気さくな問いをかける。友人に語りかけるような、そんな気さくな言葉。緊張が全くと言っていいほど感じられない。龍二が元殺し屋でありながら、まだ、場馴れした感覚を持っていると見れる。

「冥土の土産に教えてあげよう」

 ふふん、と得意げに笑んでみせるキバ。彼もまた、まだ余裕があると見える。お互い、一応の警戒をしつつも、相手を格下に見ているのだ。互いが互いを格下に見ている。これは、本当に実力の高い方が相手を負かす、という事実。

 さぁどうぞ。とでも言いたげな龍二の表情を確認したキバは話始める。

「最近になって突然、協会から協会所属の一部の殺し屋団体、殺し屋に通達があった。内容は分かるな? 神代家の血を継いだ殺し屋がいるってな。そこからは団体や個人によって様々だ。詮索して神代家の技術を継いだ誰かが現れたって考えて動いてる殺し屋が大半だろうな。協会が神代家は滅ぼしたって発表したんだしな。だが、俺たちウルフは敢えて本当に血を継いだ『家族』がいる、とふんだ。そして後は流れのまま。偶然この高校の副校長の息子に関係する仕事ができた。そしてここは、神代家の息子が『通っていた』とされた高校。まさかな、とは思ったらビンゴ。経歴も消さず、転校もせず、身を隠すこともなく堂々と通学するお前を今、見つけたってところだ」

「説明どーも」

 キバの長広舌に龍二は適当な感謝の意を吐き出す。あくまで形だけ、だ。そして考える。

(協会の上層部が何か動き出したって事か。親父達が何かをしたって考えは間違ってない、としても……、なんだ。よくわからなぇな)

 考えても無駄だな、と一人頷いた龍二は表情を上げる。

「じゃああれだな。俺の事は殺したいわけだ」

 単純な答えだ。神代家はもとより狙われる立場だ。殺し、首でもぶらさげればそれだけで名が上がり、仕事が増え、金が入る。その神代家は滅ぼされたと言われていたが、今、存在が確認された。その今、そのチャンスを逃す理由はない。

「あぁ、そうだよ」

 キバはニヤリと笑んで懐から拳銃を取り出す。それを両手で構え、龍二に銃口を向けてまた笑う。

 余裕がある、と言いたげだ。相手が神代の人間だろうが、所詮は子供、と思っているようである。単純に龍二の実力を知らないが故の態度だろう。ウルフは神代家の『血』を引いた龍二が生きていた、と考えている。血で、あり、技術でない、と思っているのだ。こうやって堂々とキバの前に現れた事である程度の技術はある、と予測はしているのだろうが、まだ、真実には至れていないようだ。龍二が現役の殺し屋である春風をいなした、という真実には。

「少しでも動けば撃つよ。どちらにせよ、数秒後には撃つけど」

 そう言って演技めいた口調で脅すキバ。まだ、気づけない。

「…………、」

 敢えて何も言わず、言葉に従うかの如く動かない龍二。視線はキバに固定されている。動かず、闇夜を通り抜ける冷たい風を感じながら、まだ、動かない。

「ま、堂々と正面から来たのが悪いってこった。相手を疑わなすぎだな」

 そう言ったキバは、早速、発砲する。トリガーを引き、縦断を放つ。サイレンサー付きの拳銃だ。音は全然発たない。僅かに響く程度で、数メートル離れれば気づけない程の僅かに甲高い発砲音が炸裂する。素早く腕を振り、風を切ったような音。そうして、弾丸はまっすぐ放たれる。

 だが、弾丸はまっすぐ進み、屋上入口の壁に突き刺さって、静止した。

 は、と言葉を漏らすまでもなかった。異質だ、異常だ、とあっという間に気付いた。動いてはいけないのは、自分自身だったのだ、と『キバ』は気付いた。

 油断した、では済まされない事実が、背後にあった。

「動けば殺すよ」

 背後から聞こえる闇夜よりもまた暗く、重い声がキバの耳に突き刺さる。そして、首筋に冷たい感触が添えられる。

 見るまでもない。ナイフの鈍く輝く刃が首下に添えられている、と気づく。

 喋る事は出来なかった。動くな、と言われて眉一つ動かさなかった龍二の姿を正面で見ていたからこそ、本当に指先一つ、視線すら、動かす事ができなくなっていた。

「銃を落とせ。手を開くだけだ」

 背後からの冷た過ぎる指示にキバは従わざるを得ない。反撃を伺う気持ちすら生まれなかったのだ。

 感じ取れる完全に隙が埋められた圧倒的な威圧。空間自体が変わってしまったのではないかと思う程に充満し、キバを押し殺そうとする殺気に、キバはただ、存在する事しか出来ない。

 カタン、と屋上の硬いコンクリートの床に落ちる拳銃。何度か跳ね、あっという間に静止してしまう。

 そして、丸裸の状態へと陥るキバ。他の装備もまだ、ある。だが、それを手に取る事ができる状態ではなかったのだ。

「質問に答えろ」

 指示。頷く事も返事をする事も出来ない状態だが、指示だ。命令なのだ。答えはイエスの他にない。もし、ノーと答えるならば、指一つでも動かすならば、死を導くだろう。

 背後から、若干の吐息の熱混じりに龍二の質問が投げかけられる。

「ウルフの規模は」

 ここは声を発して良いのだ、と自身に言い聞かせ、キバは静かに口だけを動かして答える。

「50人程度の『ランクB』の団体だ」

「ランクBね」

 協会所属、野良に関係なく、名が知られる殺し屋、団体にはランクが付けられる。その仕事の成功や手際の良さ等で評価され、下はランクFから上はランクSにまで分けられる。が、多方は協会の判断によるものであり、殺し屋として活動し、恐ろしい程の成果を残していながら存在を秘匿にしたまま活動を続ける事のできるすご腕の殺し屋はランク付けをされないため、余り意味のない格付けでもある。

「じゃあ、次だ。仮にお前が春風を連れてウルフに帰還するとして、春風の待遇は?」

「殺処分以外にないだろう」

「なるほど。次。俺が今からお前を殺す。そうしたら、ウルフはどう動くと思うか」

「アイリスに続いて俺までが帰還しないんだ。次の殺し屋を派遣して調査に移るだろう。先も言ったが神代家の存在の可能性は十分にあるんだ。きっと総力を上げてくるだろう」

 キバも命は惜しいのか、すらすらと答えを吐き出した。いや、殺されるとわかっていて、すべて吐き出してしまおう、という考えなのかもしれないが。

「次」

 龍二はまだ、質問を続ける。

「もし、俺がお前を生かしたまま、開放したとしたら、どうする?」

「!?」

 この質問には、キバも思わず言葉を詰まらせてしまった。当然だ。殺し屋が殺し屋と正面から相対して捕まった状態で、生かして返すはずがない。なのに、龍二はその有り得ない事を質問として突きつけたのだ。あまりに予想外の言葉にキバでさえ、思わず怯んだのだ。

(アイリスが生きている理由も……これか?)

 キバは勘ぐる。首筋に突きつけられる冷たい刃が皮膚を僅かにこすって急かしてくるが、少しだけでも考えよう、とキバは必死に頭を回転させる。

(アイリスも恐らく、同じ状況になって同じ質問をされたんだ。そして、『正解』を答えた。だから、今、生きている。恐らくはコレだ)

 実際は違う。だが、キバは現状から読み取ってそれしかない、と短い時間で答えを出した。

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