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 朝は苦手だ、と呟く学生はどれほどいるだろうか。

 季節は夏。熱されたコンクリートから照り返す熱はその上をただの革靴で歩く学生共の身体を煽る。汗が噴出し、登校中だというのに返ってシャワーを浴びたいという衝動を発生させる。

 感じるのは誰とて変わりはない。

 並木道。有触れた並木道だ。都会と呼ばれる都に住んでいれば何処かで見ているであろうそんな景色。それが、神代龍二の通学路。自宅から高校が近い距離にあるが故の通学路だ。バス、自転車と使わないが故、季節が夏、冬と天候の両極に移る時の通学路は神代の体力を削る。

 あちぃ、と言葉が漏れてもしかたがない。

 周りを見れば、肌に浮かぶ汗が白いシャツを透かした学生が数多く見れる。神代が此処にいるように、学生の登校時間だ。この光景は当然だろう。

 並木道に沿うようにして並ぶ様々な店舗はまだ活気を持たない。仕込みの時間なのだろう。飲食店は二四時間営業のジャンクフード店しか開店していないし、薬局やブティック等その他諸々の店舗はまだシャッターがしまっている光景も見れる。

 木々の梢が僅かに影を生み出し、コンクリートの地面に形を作っているが、そこに潜った所で照り返す熱からは逃れられそうもなかった。

 そんな道を暫く進み、僅かにこの街――結城市から外れたところに、神代やその周りで歩く学生が通う、私立神埼高校がある。

 門は通りに面した表と住宅街の一歩手前に出る裏の二箇所。当然表が大きな構えをしており、裏は普段は閉まっている。表の門の前には広大な敷地を誇る校庭。入れば右手に巨大な体育館があり、正面には荘厳な構えをした校舎がある。この校舎は表と裏に二つ聳えており、通路と渡り廊下で繋がっている。四階建てで、職員室は二階表側校舎にある。

 登校中の生徒の一人として神代龍二は校庭を歩く。広いとどうにも面倒だな、と感じつつ進むと、表側校舎の正面にある下駄箱へと辿り着く。極普通のそれを極普通の行動で通り抜け、校舎へと侵入。

 教室は表側校舎に並んでいる。

 現在高校三年である龍二は最上階の四階へと向かう。階段を上るのは苦ではないが、それでもエレベーターが欲しいと思うのは学生としての当然の我儘だとい言えよう。そうして階段を上りきって出た白を基調とした廊下を進み、龍二はやっと、自身の所属する三年二組に到達する。

 教室はいたって普通。が、クーラーが空調しているのはある種の特徴か。この時代、高校でもクーラーがない場所は面白いほど沢山存在する。

 適当な挨拶をし、クラスの連中と存在を確認すると、龍二は窓際の真ん中である自身の席へと腰を下ろす。

 普通。それが、普通。これが、普通。

 神代龍二はそんな普通の中で生活していた。

「龍二。ちょっと相談があるんだけどさ!」

 不意に、一限目の準備をしていた龍二に声が掛かった。

 龍二が気付いて顔を上げると、クラスメイト数人の顔が目に入った。爛々と目を輝かせている様子。何か頼みごとか、と問うた龍二に一番前に入る前原雄介という男が龍二にそれなりの大音声で言う。

「お前確か一人暮らしだろ? 夏休みさ、皆でわいわい騒ごうぜって考えてたんだけど、場所貸してくれねぇか!? もちろんお前も参加で! 場所貸してくれるなら参加費もまけちゃうわっ!」

 前原のその言葉に眉を顰める龍二。

「俺ん家? 盛大にやりたいならどっか施設の一部屋借りればよくね?」

「いやー。やっぱ俺達学生じゃん。節約したいし」

 と、語る前原に龍二は少し時間を貰って考える。

 前原の言葉の通り、龍二は珍しくも一人暮らしだ。彼は『一年前、両親を失い』、親族の援助を得て、両親が購入した二階建ての一軒家に住んでいる。

 前原達はそこに目を付けたのだろう。当然、最初から龍二を誘うつもりで、ではあるが。

「詳細は? 日時とか決まってんの?」

「おう!」

 威勢良くそう言った前原は龍二に予め決めておいた日時や計画の詳細を話しだした。その全てを聞いた上で、龍二は結局頷いたのだった。




    1




 神代龍二は高校三年生。そして、夏。この時期になると、それぞれが進路を決め(決めきれてない者もいるが)、それに向かって努力をしている。つまり、今度訪れる夏休みという長期休暇は最後の遊び場となるのだ。

 前原のいう事は良く分かった。最後だから、派手にやろう、と。それが高校生という枠から逸脱していても、最後の思い出に、と。つまりは青春だ。大人になってかでは出来ない体験を得ようとするのは当然の事だろう。

 ――放課後。此処までの道程は平坦だった。退屈だ、と思いながら授業を受け、昼休みを友達と過ごし、また退屈だ、と思いながら授業をこなし、放課後を迎えて長かったと欠伸をする。

 龍二は部活動に所属していない。していても、既に満期を終えてる生徒もいるので一概には言えないが、放課後を迎えた時点で帰宅する生徒はそれなりに多い。そのまま帰る者も入れば、学校終わってまで勉強に勤しむ者達もまたいる。龍二は前者だ。友達と遊びに行く予定もないのか、一人で真っ直ぐ帰路に着く。帰りになれば、自宅が歩いて帰る事の出来る位置にある事を感謝しそうにまでなった。

 帰る頃もまだ日は昇っていて、それなりに暑い。が、登校中とは気分は間逆だった。

 来た道を辿り、戻り、数十分で龍二は自宅へと着く。

 外から見れば白塗りの一軒家。二階建ての普通の一軒家だ。中に入ってもまた然り。玄関、も普通。廊下も、リビングも、自室も、普通。強いて言えばこれだけの家ながら庭が狭い。

 龍二は返って早速二階にある三部屋の内の一部屋である自室に篭る。

 六畳程の部屋。パソコンの乗った机と漫画と僅かな小説で埋まった本棚。テレビにゲーム機。服を閉まっているカラーボックスの様なデザインの箪笥。それと電気と窓。見れば目にはいるのはそれくらいだ。壁の色は白で、普通の洋室だ。

 早速、と龍二はテレビ台に綺麗に収めてあるゲーム機とテレビの電源を入れる。

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