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1.open it.―13


 続けて、春風は目を細めて武器を見ながら、吐き出す様に言った。

「……直せ、ないんだね」

 春風の言葉に、龍二は静かに頷いた。

 全て分かった。春風は龍二の返事を待たずして続ける。

「神代君がいくら実働だって言っても、武器のメンテくらいは教えてもらってるはずだし、出来るはず。なのに、武器がこんなにボロっちい状態って事は、やっぱり直せない、メンテできないって事なんだろうね。……その、本当に、素材がわからなくて」

「そうだ。俺は武器を直したいんだ」

 龍二は返事をすると、部屋の壁やアチコチに綺麗に並べられ、飾られた恐ろしい数の武器を見渡す。釣られて春風も部屋中を見渡して、思う。この武器の殆どもまた、今自身の手中にある武器と同じでメンテナンスが出来ていないのだろうな、と。

 事実、そうだった。龍二はみなまで言いやしないが、全てがハッキリとした。

 両親が残した龍二の『身を守るため』の武器は、どうしてか、謎の素材で作られていて、メンテナンスも修理も出来ない状態なのだ。当然、そこまでくれば新しい武器を揃えれば良い、という考えも出てくるが、まがいなりにも龍二にとってこの武器の数々は形見同様なのだ。それに、使い慣れたモノをそうそう手放すわけにはいくまい。

「成る程……聞くだけ無駄だと思うけど、えーっと、後援はお母さんの方かな? 何か伝言なりこの武器と素材について書いたモノを置いてたりしないの?」

 春風の一応の問いに龍二はすかさず首を横に振った。春風はやっぱり、と僅かに落胆する。

 春風は、まぁわかったよ、と手に持っていた武器を投げ返す。龍二はそれを華麗に片手で受止め、近くの壁に立てかける。そして、

「で、どうするよ? 協力してくれるか? 殺し屋じゃなきゃ、この話はできねぇしな。お前が着てくれて俺にとっちゃいいチャンスだったんだ。どうだ?」

「……、さっき、私の事『殺さない』って言ってたけど、私がこの頼みを断ったらどうするの?」

 一応、と、また春風は聞く。

 だが、龍二は呆れ顔の春風とは対象的な、明るく、いかにも高校生らしい笑顔で、答えた。

「所謂監禁コースだな。ここで」

「ここは湿っぽくて嫌だわぁ……」

 龍二が始めに、自身が神代家の人間だ、と認めたのも、ここまで考えたが故の行動だったのかもしれない。策士め、と春風は嘆息する。

「……何にせよ、私はこの家から出られないってわけね」

「あぁ、そういう事。まぁ、俺も鬼じゃねぇよ。暫く、な。武器さえ直ってしまえばどんな連中にも対抗できるしな。お前が俺の名前持ってウルフに帰っても問題なくなるから、そん時は帰すよ」

「大分長くなりそうね……」

 げんなりする春風。だが、悪い気はしてないようだった。呆れた様な吐息も、また、どこか演技めいていて、悪くないように思えたのだった。




「学校はいけるのか? ウルフとはこれから一切連絡取れなくなるわけだけど。金が必要なら出すぞ?」

「いいよ。それくらいのお金はあるし。問題は、私が帰還しないのに報告もない。様子を見にウルフが学校に来たりココが知られて調査されたら、ってのが面倒だよね」

「そこのところは何か考えとかないとな」

 そんな会話をしながら、彼等は元のリビングへと戻って来た。彼等が完全にリビングへと出ると、彼等を感知して開いた扉があっという間に閉まり、ただのフローリングへと戻る。その間数秒もなかったか。これなら見られても気付かれにくいな、と思いながら、春風はテーブルに戻る。一方で龍二はオープンキッチンの奥へと向かい、アイスティーを二つ用意し、テーブルに戻り、先のグラスを片付けてからまた戻って、やっと腰を落ち着かせた。

 貰ったアイスティーの半分を一気に飲み干した春風は一言。

「いくら私がお手伝いの身だからって、変な事したら許さないから。これだけは言っておかないと!」

 ふんす、と春風。

 彼女も裏の世界で殺し屋として生きる人間だ。だが、まだ若い。これくらいの貞操概念が合っても不思議ではないだろう。

「安心しろ。そんな事ぁしねぇよ」

 ぶっきらぼうにそう龍二が言った時だった。

 何故なのか、リビングの外から、階段をゆっくりと降りる足音が聞こえて来た。龍二と春風以外に、この家に人間はいないはずなのだが。

「誰? まさかこんな時に泥棒なわけないよね?」

 足音で、殺し屋ではない、と気付くか、春風はアイスティーが半分入ったグラスを持ったまま、首を傾げた。

 その問いに対して龍二は、面倒だな、とでも言わんばかりに頭を抱えたのだった。

「龍二ー」

 と、甲高い声と共にリビングに進入する闖入者は――当然、日和だった。またあの窓から入ってきたのだろう。どうせ日和しか入ってこない、と空けっぱなしにしている龍二も悪いのだが、どうどうと入ってリビングまで降りてくる日和もまた異端である。

 家着姿の日和は、リビングに進入したとことで、足を止めた。

「お、春風さんじゃん。なになに? 龍二に連れ込まれたの?」

 何も知らないとはなんと気楽なものか、春風を認識したとたん、日和は笑顔になり、パタパタと駆け寄って来て、春風の隣の席に腰を下ろした。

「そうなのー。神代君に無理矢理つれて来られて」

「ノリノリだな、オイ」

「アハハ、龍二こうみえてムッツリだからねー」

「オイオイ!」

 あっという間に日常的な会話、雰囲気に戻る空間。春風は見た目がコレだ。ウルフに所属し、殺し屋として動いてきた今までも、表に出て、どこかに進入して、溶け込んで、という任務も多かったに違いない。これだけ雰囲気が変わったというのに、何一つ違和感を感じさせない切り替えっぷりだった。




    5




「『アイリス』からの定時連絡が途絶えた」

「……ただの高校に侵入して情報集め、そしてターゲットを殺す。オプションはたったの一個。……それに、ターゲットの始末は終わっている……。一体何が?」

「ただのミスだろう。アイリスはまだ若い」

「若さ云々で済む話なら表に出せねぇだろうが」

「誰か様子を見に行ってくれないか?」

「……俺が行こう」

「『キバ』か。まぁ、お前ならいざ何かあっても安心だな」

「ただの高校に何かもクソもあるかよ」




    6




「きた……。あの建物の影。いるね……。ウルフの『キバ』だ」

「成る程な。行動が早いのは良い事だ。やっぱり、定時連絡が切れたからだな」

 早朝。普段よりも、早く学校へと足を運んでいた龍二と春風は教室の隅から外の様子を覗いていた。早朝という事もあり、この三年二組には二人以外の影はなく、傍から見れば変な様子の二人だが、誰もその行動に突っ込みやしない。

 二人の視線の先は、窓の外、校庭のさらに先。正門の前の通りのさらに向こうに見える建物が並ぶ場所の一角。常人では気にも留めなければ視認する事すら難しい場所だが、二人にハッキリと見えている。

 ――その建物の影から、こちらの様子を伺っている人間の影が。

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