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1.open it.―8

 店内は想像通りに静まり返った。静謐な空気が漂い、先程までの喧騒は何処に行ってしまったかのか、と思う程に。

 龍二達二人も集まる注目を無視しながら席に腰を落ち着かせる。春風は時折、先程助けに入った三年の不良共に視線をやりながら、オズオズと龍二に問い掛けた。

「……『頭』って?」

 もの凄く申し訳なさそうな春風に龍二は「面倒な事になったな」と思いながらも、静かに答える。

「あいつ等が勝手に言ってるだけだよ。俺はあいつ等みたいな不良でもなければ、あいつ等をまとめてるわけでもない」

「でも、今の状況じゃそれは通じないよ?」

 的確な突っ込みだった。龍二は春風を度胸のある女だな、と思いながら、仕方なく、嘆息まじりに応える。

「……昔、あいつ等の喧嘩に巻き込まれた事があったんだよ。そこで、ちょっとやらかしただけだ」

 短絡的に、面倒な事は避けるように、龍二は言葉を制限して応えた。これ以上は話せない、話さない、という雰囲気が彼の表情から醸し出されている。また、聞くな、と言っている様でもあった。

 だが、春風は態度と裏腹に興味をそそられるか、表情を伏せ、上目遣いで申し訳なさそうな視線を送りつつ、まだ、突っ込む。

「やらかした?」

 だが、

「それ以上は内緒な」

 龍二はそう言って、食事に手を付け始めた。そんな龍二の態度でやっと、春風も諦めがついたか、春風も食べかけのドリアに手を付け始める。

 また、静かな空間を得てしまった。周りは徐々流れる時間のお陰で再び喧騒を作り始めていたが、龍二達二人の席は、どうしても喧騒の一部にはなれなかった。

 龍二には春風を探る、という使命があったが、最早そんな事が出来る空気ではなくなっていた。

 その後、二人も時間を掛けつつも雰囲気を取り戻し、無事にデザートまで平らげ、退出する事で場は終了した。

 またな、じゃあね、という適当な挨拶で、帰路の途中で極普通に別れたのだった。




    4




 翌日。空は曇っているが、どうしてもまだ、夏の暑さは拭えないでいた。

 教室。放課後を迎えた三年二組は徐々に人の影を失う。

 龍二は自分の席で、不貞腐れるように肘を付いて、視線を投げていた。その視線が向かうは春風、そして礼二だ。

(……さぁ、行動に出てみろ)

 龍二は睨む。龍二は今日の昼休み、礼二に男子トイレに連れて行かれ、そこで『聞いた』。

 ――礼二が、春風に放課後、呼び出された。と。

 告白か、と一人ぬか喜びをして舞い上がっている礼二だったが、龍二はそれを『別の何か』と思い、警戒していた。礼二こそ喜んでいるが、普通に考えても、スカートの中を覗く様な、まだ出会ったばかりの人間に告白をするはずがない。

 それに、どうにもおかしい。全てが普通に見えて、事実は全くおかしい、という様な違和感を覚える。どうにも納得がいかない、そんな胸を鷲掴みにする様な違和感が龍二を襲っていた。

(春風の態度、行動はどうもおかしい)

 龍二は春風が席を立ち、礼二に微笑みの一瞥を向けてから教室を出たのを確認して、視線を窓の外に投げる。窓際の席から見るその先の光景、校庭には、帰路に着く生徒達がまばらに見えた。皆、夏の暑さにやられているようで、大変気だるそうに思えた。

 ガタ、と視界の外から、礼二が席を立つ音が響いた。龍二は見向きもしないが、確認する。

 礼二と春風を着けよう。そう、覚悟して耳を澄ませる。礼二の足音が徐々に遠ざかり、教室の扉が僅かに開く音と同時に聞こえなくなる。そして残るのは教室内に僅かに残る生徒達の喧騒。

 龍二は静かに視線を教室内へと戻す――と、

「わぁ!」

「っ、」

 目の前に、日和の悪戯な笑顔。

 龍二を驚かせた事に満足できたか、日和はにひひと笑みながら静かに近づけた小さな顔を引いて、笑い混じりの明るい声色で言う。

「たまには一緒に帰ろうか?」

「あぁ、ごめん。今日は無理だ」

 即答。タイミングが悪かった。

「ちょっと! 久々に誘ったらこの様ですか!?」

 むっとふくれる日和。だが、本当に、タイミングが悪かった。

「ごめんごめん。明日。そうだ、明日一緒に帰ろう!」

 慌てて謝る龍二だが、

「明日休日ですから!」

 龍二のバカー! と漫画の展開の様なテンポの良い言葉を吐き出して、日和はそのままバタバタと去っていってしまった。申し訳ない気持ちに苛む龍二。

「はぁ……。まぁ、こんな日もあったりなかったり」

 そんな自虐めいた事を呟きながら、龍二も席から立ち上がり、礼二達の後を追い始める。




「は、話しって何かな?」

 心躍らせる礼二は妄想が止みそうにない。まだ、告白されると思っているようだ。場所は屋上の入り口から見て最深部。一番奥だ。フェンスに春風が背中を預け、その手前側三メートル離れた位置に礼二は突っ立っている。気持ちが舞い上がっているからか、礼二は僅かずつ春風に詰め行っているようである。

 そんな礼二の気持ちを察知しているのか、いないのか、春風は特に表情を変えず、ただ、自分の話しを進めようとする。

「話し……の前に、聞きたい事があるんだけど良いかな?」

「何?」

 本題から話しが逸れる、という突然の出来事に戸惑いつつも、快く頷く礼二。今の礼二は、春風の言う言葉には全て答えてしまいそうだった。

 春風の態度は至って普通。照れてるようでもなく、とても告白する状況には見えないが、礼二はそれに気付く事が出来ない。強風が吹き荒れる中でも確かに耳に届くくらいにハキハキと喋っているのも、また違和感の塊でしかないのだが、舞い上がった礼二には気付けない。いや、舞い上がっていなくとも礼二では気付けないだろう。

「神代君の事なんだけどさ」

「龍二がどうしたって?」

 突然龍二の話題を振られて呆気に取られ、間抜けな表情を見せてしまう礼二。挙句、突然他の男の名前を出され、僅かに同様までしてしまっていた。

 無意味な咳払いをし、ブレ過ぎた気持ちを落ち着かせようとする。

 そんな礼二を待たずして、春風は言う。

「昨日――、」

 春風は昨日、龍二とファミレスに言った時の事を話す。不良に絡まれた事、そこにまた別の不良があらわれて止めた事、龍二が『頭』と呼ばれた事。そして、龍二から聞いた事を。

 すると、礼二は何に納得がいったのか、「あぁ」と自己解決したかの如く満足そうに唸って、応える。

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