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6.NABA、特別な機体

 声は聞こえるというよりは直接頭に話し掛ける、あるいは朦朧とした意識の中で聞く人の声というような感じだった、だがまるで外国語、いやもしかしたらこの星の言語ではないかもしれない言葉で話すので全く聞き取れない。もう一度声を聴こうと耳を澄ます、だが声は聴こえない、そのかわりに別の声が耳に入ってくる。


「何をしている真紅」

 

「紫音さん」


 急だったので、悪いことしているわけではないのだが肩がビクッとなる、声の主は紫音さんだった、機体を前に突っ立っている僕の横に立って、同じように機体を見上げる。


「シャーロット」


 と機体を見て紫音さんはいう、その綺麗に整った横顔、見ていると目が離せなくなる、彼女に何を惚けたことを、と言われるのを覚悟して言うことにした。


「なんだか、話しかけられた気がして」

「話しかけられた?」

「あはは、そんなはずないですよね、疲れてるんです、きっと」


 昨日と今日のハードな訓練で疲れている、今思えば声が夢だった、立ったまま少し寝ていたのだと、ホントにそう思えてきた、だが紫音さんは笑うことなく、からかっているのか? とも言わなかった。


「声か」


 はそこまで言うと言葉を紡ぐ、話題を変えようと口を開きかけたとき、彼女は続きを話し始めた。


「そういえば、ハザックもそんなことを言ってたな」

「声が聴こえる?」

「あいつは、しゃべっていたよ」

「BAと?」


 声が聴こえたのだ、喋ってもおかしくないのかもしれない、しかしそれはとても不思議な状況だ。


「こいつはBAじゃない、特別な機体だ」

「確かに普通じゃないですね、装甲も見た目、柔らかい感じですし、全体的に丸みを帯びていて、機械というよりは、巨大な人…」

「軍はこの機体をNABAと呼んでいる、私も詳しくは知らないが、私が軍に入る前にある男がエンドリーコードと呼ばれ場所から採掘してきたとか」

「へぇ〜、ある男って?」

「月咲昴、私の憧れていた男だ」

「その人って…」

「昔の話だ、憧れていたのはな、今は違う」


 またしばらくの沈黙が続く、よく機体を見ていると機体は傷ひとつなく、光沢が不気味に輝いている。

よほど丁寧に整備されているのか、今は全く乗られていないためか、などといくつか傷のない理由を考えていた。

ふと横を見ると紫音さんがこちらを向いている。



「そういえば、ハザックって人はいったい誰なんですか?」

「前にこの機体に乗っていた男だ、今はもういないがな」


 はそこまで言うと、腕時計を見て、そろそろ時間だと付け加える、昼の休憩はあと5分で終わる、もう一度だけ機体を頭部から順に見下ろしていき、僕もその場をあとにした。





 平日にも関わらず街には若い人の姿が多く見える。もちろん、最初に入った店にもちらほらと若い人がいる、といっても自分もまだ若い、なんせ10代なのだから、それはエリーも同じだ、といっても彼女は若いというよりは幼い。

服を選ぶ目も、選り好みをするというよりは、好奇心いっぱいに珍しい物を見ている感じだ。そんな表情のまま、おもむろに服を一式持ってきて差し出す。


「はい」

「エリー?」


 これを俺に着ろと? 屈託のない笑顔でさらに突き出してくる。


「はい」

「はぁ〜」

「はい」


 なかなか受け取らないまま、差し出された服となおも変わらない表情を交互に見る、エリーの手には・・・。


「帰る」

「わ〜、嘘、うそ、冗談だよ、じょ〜お〜だ〜ん」


 帰ろうと踵を返す俺の軍服の裾を引っ張り、エリーがそれを阻止する。


「ちゃんと選ぶから」


 そう言って、手に持ったコスプレと言っても過言ではない服をもとに戻す。


 また彼女は服を選び始める、帰った方がいいのではという、気持ちになってきたが、次に彼女が持ってきたのはまともなものだった。



「そういえば、何か聞こえない?」

「何か?」

「BAのエンジン音みたいな」

「聞こえないなぁ」


 と言ったが、すぐに「いや、聞こえる」といい直した。

音は徐々に近づいてくる、空に響くこもったようなエンジン音、それは1つや2つではない。単位が違う、間違いなく数百はいる。

外に出て、空を仰ぐ。

遠くから近づいてくる、黒の塊。機体のフォルムがわかるほど近くなると太陽は隠され大きな影を作っていく。


「レジスタンスか?」

「たぶん…、軍用機じゃないし、統一性もない」

「レジスタンスでこれだけの数、複合レジスタンスといったところか、とりあえず本部に報告したほうがいいな、一旦戻るぞ」

「えぇ〜〜〜〜〜ぇ」

「えーじゃない、行くぞ」




「声が聞こえるか・・・」


 真紅がそういうなら彼にはその資格があるということか・・・

 指令室には6人しかいない、しなくても良い雑務をこなす、正確には部下の仕事を手伝っていた。紙には補給品の一覧がかかれている。訓練以外のときはこうして雑務をすることが多い、それゆえに部下からの信頼も厚かったりする。走らせるペンはいつもより幾分ゆっくりだ、真紅のこと考えていた。だから部下が私の名を呼んでることになかなか気づかなかった。


「紫音さん」

「ん、どうした?」

 2、3度呼ばれたところでようやく顔を上げる。

「通信です」

「誰からだ?」

「チームEDENからです」

「繋げ」


 総司令官も副司令もいない、今は私が軍の仮の総司令官だ、小さなノイズの後にゼロ声が入る。


「こちら、チームEDEN、部隊長ゼロです」

「紫音だ、何かあったのか?」

「約200機程の、複合レジスタンスと思われる機体が上空を通過していったので報告を」

「何時のことだ」

「一時間ほど前です、飛んでいったのは南西の方なのでそちらに向かっていないのですが、前の件もあるので一応連絡を」


 前の件とは、一年ほど前の軍襲撃事件のことだ。


「うむ、警戒しておく、お前たちは今、ニンフルにいるんだったな」

「はい」

「わかった、何かあったらまた折り返す、任務に戻ってくれ」


 声が途切れるとまた小さなノイズが入る。


「管制塔にレーダーを広域にするよう伝えてくれ」

「ニンフルから南西にある街、遺跡なんか、がないか調べてくれ」

 続けてそう命令すると、また別のところと通信をはじめる、なにか嫌な予感がする。それだけのことだが、それをほっておくわけにはいかない。




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