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5.新人訓練と任務地にて

 機内が暑い、季節は4月、春の陽気で暖かいものの絶え間なく汗が流れるほどではない、激しく揺れる機体は暴れ馬か暴れ牛に乗っているような、そうロデオのようだ・・・いやそれ以上だ。

そこまで揺れるのには訳があった。


「うっ吐きそう」


 本来機体には衝撃緩和材、衝撃吸収装置などなど、機体の揺れを80%はカットすることができるほどの措置がほどこされている。

だが今は


「動きが止まってきてるぞ、ちょっと緩和材を取り外した程度でそれか!」


 教官の声。ちょっと? 衝撃緩和を半分以下にしたのがちょっとなのだろうか、真紅はぐるんぐるん回る頭をなんとかとどめながら機体を進ませる。



 正式入隊後、新人育成期間として1ヶ月、上官による地獄のような訓練期間が設けられる(期間中は教官と呼べとのことだ)。

 僕とヨハネ君はまだ試験を受けている隊員より先に訓練を受けていた。

内容としては、午前中は基礎体力づくりとして走らされたり、筋トレしたり、ヨハネ君は「こんなの操縦には関係ない」とブツブツいいながらも淡々とこなしている。そして午後からは、緩和材カットマラソンと称された、過激ロデオを永遠とやらされていた、これがまた地獄だ、地獄の方がましなのではと思えるほどに。


 都市の周りをぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、走る後ろを教官がついてくる。さすがのヨハネ君でもこれは苦しいのか、さっきから小一時間程だんまりだ。


 「あと一周!」まさしく熱血漢な教官のその声も、このときだけは天使の歌のように聞こえた。




 時刻は午後4時、目の前には敵。


「エリーどうだ?」

「視界良好、いつでも援護いけるよ」

「了解、仲間を射つなよ」

「射たないよ〜」


 チームEDENは通常部隊員を数名つれ、レジスタンス掃討にきていた。

 レジスタンス、ファイアボールと対峙する、俺と数名の隊員、その遥か後ろの山腹にはエリーが電磁ライフルを構えスコープで望遠している。


 掃討の理由は町村での強盗行為および器物損壊、その他もろもろ、対政府組織とは名ばかりの、ただの犯罪グループだ。


 そんなレジスタンスどもに対して、いつも通り2つの選択をせまろうではないか。


「さて、あなた達には2つの選択を与える、1つは抵抗せず大人しく捕まる、もう1つは抵抗して無理やり捕まるだ、無論後者は罪が重くなる」


 このときばかりは優しさなどいらない。 だがレジスタンスのリーダーである男は怯む様子はなく、自動小銃を構える。


「捕まる? この状況を見ろよ、俺たちが負けるわけねーだろ」


 こちらは、エリーとその他隊員を合わせて全6機、対するファイアボールは約30機はいる。

 素人が! ちょっとかじった程度の奴らが30人集まったところでなにができる、くだらないな、せいぜい今のうちに笑っとくんだな。


「エリー撃て」


 右アームを持ち上げる、それが構え、そして手首を振り下ろす、とほぼ同時に後ろから青白い閃光が通過する、それが敵の機体、一機をいとも簡単に撃墜する。


 機体は炎とともに地面に倒れる。どこからだ! というレジスタンスどもの声。

おまえたちの選択は2択だ。


「数は関係ない、お前達にはその2択しかない、もう一度聞く、大人しく降伏するか、無理やり捕まるか、さぁ選べ」


 今の一撃と、その言葉が開戦の合図になった、30もの機体は一斉に動き出す、その瞬間さらに5本の閃光、それが敵機5機をまたも簡単に撃墜する、動きだしていた機体は時が止まったかのようにその場に静止している。


「もう一度チャンスをやる、抵抗するな大人しく捕まれ!」


 もはや、2択を迫る必要はない、それ以上ブースターの音は響かなかった。





 レジスタンスファイアボールの人数は多かった、さっきの約30機の機体に乗っていた人の数と、それ以外の数を合わせて、全部で60はいる。もちろん、それだけの数をたった6機に全員乗せられるわけはなく、本部から増援を待つことになった。


「帰るのが遅くなりそうだ」


 とりあえず本部との通信は終えた。エリーがいる横に座る。


「なんで?」

「本部のほとんどが出払ってるみたいだ、残ってるのはsneakとrising、それと通常部隊の第三隊と第六隊だ、risingは明日から任務に入るからこっちに人をよこせないみたいだ」

「ふ〜ん、やっぱりこういうときって新しい決まりが厄介だね」


 常に特殊部隊1隊、通常部隊2隊以上を残す、レジスタンスグループ『月影』襲撃の後に決まった軍の規則。


「まあこればかりは仕方ない、あれは軍にとって最大の屈辱だ、繰り返すわけにはいかな」

「そうだね、あのあと、ひとつき休みがなかったし」


 それからエリーは立ち上がりこちらに視線をむける、めずらしく真剣な眼差しだ。


「明日、買い物にいこうよ、近くの街にずっと行きたかったお店があるの」


 その表情に似合うことをいえば、少しは尊敬の念を抱いたものを・・・


「エリー、明日も任務中」

「ケチッ」


 と一言エリーはその場を後にする、それと入れ替わるように通常隊員の男が1人やってくる、というよりかは頃合いを見計らい、俺を冷やかしに来た、が正解だろう。


「あ〜あ、デートの誘い断っていいのかよ」


 正解、ニヤニヤ笑う彼は俺やエリーにとって同期であり、親友だ。


「デートって…からかうなよ」

「からかってねーよ、どうみてもエリーはお前のこと好きじゃねーか」

「ねーよ」

「ねくねーよ」

「ねく…ちゃんとした言葉で頼む」

「ちゃんとした?」

 同期の男はんー、と少し考え、また口を開く。

「お前、鈍感」

「うるせーよ」


 沈黙、俺とエリー、彼との会話で自分たちの話をすると必ず思い浮かべてしまう一つの名前、それが表情を曇らせたのだろう、彼は心配しているような素振りで聞いてくる。


「ロアのことか?」

「…ああ」 


 ロア、彼もまた三人の同期で親友、しかし彼は・・・


「あいつも、エリーのことが好きだったからな」


 からな・・・か、過去形のその言葉がどうにも胸に突き刺さる。空気が重いよ、まったく。


「お前もだろ」


 彼はプッと吹き出す。


「そうだな、俺ら3人、みんなエリーのことが好きだった」

「でも、ロアはもうエリーに気持ちを伝えることができない」

「そうだな」


 追い打ちのように突き刺さるような沈黙、重くのしかかるの事実、同期の男は立ち上がり、頭上にあるもやもやした空気を払いのけるかのように手を振り回す。


「がぁー、もうこういう暗い話しは無しだ、無し、いいな、次したらお前をぶん殴る」

「話を振ってきたのはお前だろ」

「俺にそんな話をさせたのはおまえだ」

「勝手だ」

「そうだよ、勝手だよ、そんな俺の性格を一番知ってるのはおまえだろ」


 思わず、吹き出しそうに、エリーにしても彼にしても性格は身勝手で強情で自由奔放だ、だが今までそれにどれほど助けられたか。


「そうだな」

「おっエリーが戻ってきた、邪魔者は消えるとするか」

「ありがとう、サク」


 彼は「気にするな」のかわりに、後ろ向きのまま片手を上げ去っていく、そのあとすぐにエリーが帰ってきた。


「サクと何話してたの?」

「たいしたことじゃない」

「ふ〜ん、あっねぇねぇ」


 言いながら彼女は俺の腕を掴みそれを揺すりながら横に座る、顔が近い、俺には少しばかり刺激が強すぎる。思わず体を反らすが、紐で引っ張られるかのように同じ分だけ顔を近づけてくる。


「どうした?」


 たぶん顔が紅くなってる、顔を背ける。


「通常部隊の人に話したらね」

「何を?」

「さっきの話し、でね、レジスタンスは責任もって見てるからゼロと買い物行って来いって!」


 なんて嬉しそうな顔をするんだよ、俺は行くなんて言ってないぞ。


「たくッ」

「ね、いこうよゼロ」


 断れるわけがない、なんせ俺は、サク曰くエリーが好きなのだから。


「絶対楽しいから!」

「はぁ~、わかったよ」


 エリーの説得になかば折れるような形で了承するものの、内心は満更でもなかった。なにより、彼女が笑っていることが嬉しかった。そんな彼女が機体から雑誌を持ち出し、何処から行く? と言い出したのはすぐあとのことだ。


「なぁ、エリー、もしかして初めから買い物行くつもりだったの?」

 

 そんな俺の問いもエヘッ、と笑って誤魔化すだけだ。




 翌朝は早かった、俺達チームEDENと任務に同伴した通常部隊、第9隊は一晩を軍で過ごした、ここでいう軍は多国家集合軍つまりguardianではなく、いわるゆる地方軍、その基地だ。

レジスタンスを一時的に捕らえておくには最適の場所だった。


 時計を7時に鳴るようにセットしておいたが、それが鳴るより早くエリーの姿を見ることになった。エリーはノックすることなくドアを勢いよくあける、同期とはいえ、俺はチームEDENの隊長だ、つまりエリーにとっては上官である。


「おっはよー!」


 朝から元気な彼女は、軍服でも、軍支給の戦闘服でもなかった、普通の女の子な格好でそこにいた。


「エリー!」


「早く着替えて来てね、私はあそこで待ってるから」


 一つ怒鳴り付けてやろうかと思う気持ちを知ってか知らずか、エリーは窓の外、基地の門のところを指差していう。

言ったと思うとすぐに部屋を出て、ドアから顔だけを出し念を押す。


「はやく来てね!」


 嵐のように去って行くエリー、閉まった扉を呆然と眺めている自分がいる、やっとのことで起き上がり、洗面台の方へ、とぼとぼ歩いて行った。


「何を着ていこう」




「なにそれ」


 彼女はあからさまに不満そうな顔で、声でそう言った。彼女がそうなるのも仕方がない、しかし俺にしても仕方がないのだ、誰が仕事の途中で遊びに行くことになることを予想できようか。


「私服なんて持って着てないって」

「さすがに軍服は…」


 エリーは少し考えて、ポンッと手を打つ。


「よし、先ずはゼロの服を買おう!」


 軍服でいいと言おうと思ったが、やはりエリーに従うことにした。

軍服は目立つ、それに軍の給料は国から、つまりは国民様から出ているのだ、平日の昼間から買い物などしていたら、どんなふうに思われるか、どんな顔で見られるか目に見えている。

2人は荒野の基地から街へ向かって歩き出す。



 新人訓練の午前のメニューを消化した、そのあと1時間の休憩が与えられている、その時間を施設内探索に当てることは一昨日の晩に決めた。

昨日は訓練場周りを探索した、今日は機体格納庫を見ようと歩くこと約5分、全部で23ある格納庫の内の一つ目を見つけた。

一つ目といっても見つけたのは三番格納庫だった、むろん目指していたのは一番格納庫であった。


 だがなんの迷いもなくそこへ入っていく、というよりも何かに引っ張られる感じがした。


「これも何かの縁だ、もしかしたら将来使うかも知れないし」


 中には機体が5機収容できるスペース、入り口の方から見ていくが、機体はない、だが最後のスペースに一機だけ残っていた。

だがその機体は初めて見るタイプの機体だ。


「すごい」


 光沢のあるボディに魅力を感じる、威厳というのだろうか、とにかく見入ってしまう。そんなとき深く重みのあるような声で話し掛けてくる声が聞こえた。


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