3.最強無敵の新人隊員
会場内は試合で動くBAの音以外はほとんどなかった、審査は始まっている、ほとんどの人は一戦、一戦を食い入るように見ていた。だかスバルはというとそんな一戦、一戦は全く目に入らない、ただ唯一入るものそれは試合を見ながら何かをチェックしている髭をはやした中年の男だった。
「使えそうな人はいますか?」
雷瞬はハザックの近くにあるマルイスを自分の方に引き寄せると、足を組み座る。
「よう、雷瞬、来てたのか…いまんとこは微妙だな」
同じようにマルイスに座り、足を組むハザック、違う点と言えば試合の様子を事細かくメモしているところだ。
「でしょうね、全くいい音が聞こえない」
ハザックの言葉に納得したようにそういう。
「音?」
「コニカ(軍用機)はブースター音が独特なんです、うまい人が乗ればまるどオーケストラの演奏かのような綺麗な音が響くんですよ」
「うえ、気持ちわる」
「なっ何がですか!」
「綺麗な音が響くんですよだぁ〜、詩人か! ブースターからそんな音が聞こえたら怖いっての」
「ほっといてください、例えの話です」
ハザックはゲラゲラ笑う、それを見て雷瞬は小さな声で呟いた。
「だからこの人は好きになれないんだ」
「なんだって?」
「いいえ、それより気をつけた方がいいんじゃないですか」
「あぁ?」
「さっきから痛いほどにあなたに向けられてる視線の主にですよ」
と雷瞬は目線をそちらに向け、誰のことかをわかるようにした、ハザックは嫌そうな顔をした、雷瞬の見ている方を一瞬だけみるとすぐに試合のほうへ目を向ける。
「ああ〜、手でも振ってやりゃ、いいのかね」
「さあ、どうでしょう、案外喜んで振り替えしてくれるかもしれませんよ」
嫌がってるハザックを見て雷瞬は少し嬉しそうな顔をした。
「ふんっ、やめろぅ、俺は男に興味ねーよ」
「ふッ」
「むかつく笑い方だな、こんなところで油うってないで仕事してこい」
「今日は休暇をもらってます、彼とあなたの試合を見ていきますよ」
「はっそーかよ、さてと、準備してくっかな」
ハザックは立ち上がり、ペンとノートをイスに置く。
同時にスバルも立ち上がる、人をかき分け、1番機から30番機まで並んだ機体を見て言う。
「俺が乗るのはどれだ?」
端から端まで並んだ機体に目配せしながら、近くにいた30代ほどの女性に話しかける、服装からして機体の整備をまかされているメカニックといったところだった。
「君、次の人?」
彼女は少し驚く、試合前の候補隊員はみな緊張してここにくるが、彼からは全くその気配が窺えなかったからだ。
「おうよ!」
「じゃ14番機ね、設定は好きに変えていいから」
「ん? あんたどっかで見たことあるなぁ」
「あらそう、これから毎日会うようになるわよ、審査に通ればの話だけど」
「ふーん、じゃあ名前教えてよ、俺絶対受かるから」
「ふふ、鞠亜よ、神成鞠亜」
「俺は月咲昴、これからよろしくな、じゃあまた」
「ふふ、まるでもう隊員になったみたいな言い方、なんだか面白くなりそうだわ」
と機体に乗り込むスバルをみて少し笑った。
スバルは機体を前にすすませ、ハザックの機体の前に立つ、選んだ武器はナイフだけだった。
「小僧よろしく頼むぜ」
「早く、始めようぜ!」
「ハハハ、威勢がいいなぁ、好きなタイミングでこい」
「なら遠慮なく行くぜ」
少し高めのブースター音が響く、そこそこの実力の隊員達は一斉に目を見張る。
「ハッハッハ、おもしれぇ」
ハザックの機体はスバルの機体と大きく距離を取っている、隊員候補の攻撃などたかが知れていた、受け止めることなど呼吸をするほどに容易い、しかしハザックは本能的に攻撃を避けていたのだ、初撃を受け止めるつもりでいた、彼にとってそれは予想外の結果だった。
「小僧、所属と名前は?」
「月咲昴、サイサルニー所属だ」
「月咲…、父親は雲雀か?」
「親父を知ってるのか?」
スバルの声色は驚いてるようだった、父が軍の隊員だということは知っていたが、父を知っている人間がいきなり見つかったことに対しての驚きである。
「入隊したころによくしごかれたぜ」
思い出したくない、いい思い出だとハザックは続ける。
「てことは親父の部下?」
「そうなるな」
「なら、俺はあんたより強いな」
「ほ〜、なぜそうなる」
「俺は親父より強い!」
「ハッハッハ、まじかそりゃ、」
「まじだこりゃ」
「そうかい、なら本気でいってやる、お前も本気でこい」
「俺ははなかはらそのつもりだ!」
再びブースターが火を噴く、スバル操るコニカは一瞬での移動距離が他の操縦するそれの比ではなかった。
「こんなとこまで!」
ハザックは目測を誤る、予想より深く入り込んできた機体から逃げるには、少しばかり反応が遅れすぎた。
スバルは左から右へナイフを振り抜こうとする、後ろに飛びながらハザックはそれを左アームにて受け止める、意図も簡単に吹き飛んだアームが地面に落ちると同時にスバルは2撃目を仕掛ける。
右、左、前、後ろ、一瞬の内にハザックは、攻撃への対処を何通りもシュミレートする、選んだ選択は前だった。
突っ込んでくるスバルに突っ込む、当然機体同士はぶつかる。
「ぐっ!」
激しい揺れが2人を襲う、気がつくとスバルは笑っていた。
「さすがだ、分かってるよあんた、退くものに勝利はない」
「前にでるものに勝機は生まれる」
ハザックの機体の横ギリギリをスバルが突き出したナイフが通過していた、それを払いのける、ナイフは飛び、地に落ちる。
「どうだ、小僧!」
「だからなんだよ!」
スバルは殴りかかる、がハザックはそれを上手くいなしてから一旦、距離をとり、ナイフを手に持つ。
横を見て落ちているナイフの距離を確認した、
ナイフは遠い、スバルからハザックの距離よりも遠かった。
「次はどうでる」
ハザックはスバルの出方を窺っているのか動かない、かなり慎重になっていた。
まさか候補隊員にここまでてこずらされるとは思っていなかった。
「候補隊員にしてはよくやった、だが、次で終わりにしてやる」
暫しの沈黙、スバルは今だ動こうとしない、打つ手に困っているのか、何かを狙っているのか、どちらにしろ動かねば戦況は揺るがない、ハザックは、次の手を仕掛けようとアクセルに力を込めようとした。
が、先にスバルの機体が動き出す、落ちているナイフの方へ、ブースター全開で向かう。
「ふん、簡単に拾わせてたまるかよ!」
ハザックはそれを阻止すべく動き出す。
スバルは速い、だがハザックが追い付いつくには十分な距離だ。
「後ろががら空きなんだよ!」
スバルの機体がナイフの間合いに入る、ハザックの勝利、見ていた誰もがそう思った、が簡単に終わらないのがスバルだった。
隙を狙っていたのだ、ハザックがナイフを振り上げた瞬間、スバルは進む方向を落ちているナイフからハザックの方向へ変える。
「甘いよ!」
勝利を確信していたハザックは予想外の状況に気が動転していた。
「なんだと」
ハザックの振り上げたアームをスバルは掴む、ナイフは振り降ろせない、さらにそれが絶好の好機になる、ハザックの機体は左アームがないのだ、片腕を押さえられると攻撃の手段はなかった。
逆にスバルはがら空きの脇腹に攻撃を仕掛ける、ハザックは避けようとするが腕を掴まれているため上手くよけれない。
「やばい!
そう思った時にはスバルの一撃が脇腹に直撃していた、それが意識の飛びそうなほど、強烈な衝撃となってハザックに襲いかかる。
同時に蹴りによる二撃目が飛ぶ、景色が一巡する、目には高い天井がぼんやりと映る、ハザックの機体はバランスを崩し倒れていた。
「とどめ!」
スバルがナイフを拾う、ハザックは起き上がろうとしない、そのときだ、雷瞬が大きな声を発した。
「そこまでだ!」
会場の視線が雷瞬に集まる、スバルも思わず動きを止めた。
「時間だ」
気づくと試合時間の20分は過ぎていた、だがここまできて止めるのは不自然、さすがにguardianの隊員が完全に負けたとなれば品位に関わると思ったのか、はたまたハザックの面子を守ろうと思ったのか、雷瞬の考えは定かではない。
確かなことは協力な新人隊員が現れたことだ、後にも先にも候補隊員が現役のguardian、しかも特殊部隊隊長を倒したのはスバル以外にはいなかった。
余談だが、スバルにまけ機体から降りてきたハザックは悔しそうな表情は一切見せず、笑ってこう言った。
「世界ってのは広いな」