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2.二人のルーキー

 闘技場に2つ機体が向かいあう、一機はヨハネが乗り、もう一機には紫音が搭乗している。


「少しは耐えてくれることを期待しているぞ、ヨハネ、君のタイミングで始めてくれ」


 強気の口調でそんな言葉を飛ばす紫音、無論、新人隊員に負けるなど微塵も思っていない。


「guardianってのはもっと強いやつらがいると思っていたが、勘違いだったようだ」


 人に見下されるのが嫌いなヨハネ、彼は挑発の言葉を投げかけるが


「ん?」


 ほんとに聞こえなかったのか、はたまた軽く流したのか、紫音は挑発に簡単にのるような性格でない。


「チッ、じゃあ、行かせてもらう」


 その言葉と同時にヨハネは機体を走らせる。

早い!

 紫音がそう思ったころには機体はその手に持ったナイフの間合いに入っていた。誰もが目を疑った、ヨハネの振り上げた一撃は鉄同士のこすれ合う音と、ともに見事に紫音の機体の胸部装甲板に横すじをいれる。


「浅かった!」


 ヨハネは一旦距離をとる、ヨハネの一撃は確実に紫音を捉えた、だか紫音の攻撃もヨハネを捉えていた、胸の装甲板、同じところにナイフの傷痕が残っている。


「初速のこの速さ、今まで見た候補隊員の中では最速、なかなか良いものを持ってるじゃないか、ヨハネどこの所属だ」


 全隊員と候補隊員が驚くなか、とうの紫音は落ち着いた様子でそんな質問をする。


「サイサルニーだ」

「誰に操縦を習った!」


 サイサルニー、紫音はその言葉に強く反応してしまう。


「あんたらが躍起になって探している、月咲昴だよ」

「ふふッ」


 やはり、とでも言いたげな不適な笑みを浮かべる紫音、面白いと小さく呟く。


「あんたらには、あいつを倒すことは無理だ、だから俺が倒す」

「師ではないのか」

「あいつはサイサルニーの面汚しだ、もう師でも何でもない」

「ふん、ヨハネ、私はいま月咲昴捜索隊の作戦隊長だ、そこでだ、ここで私に勝てたならば、月咲討伐隊の指揮をお前に譲ってやろう、もちろん審査は合格だ、どうだ」

「やってやるよ」


 紫音からさっきまでの冷静さは消える、わっかていても体がいうことを聞かない、月咲スバル、その言葉が彼女を奮い立たせる。


「紫音さんいいんですか、そんなこと勝手に決めて」

「パパル、私がこんな小僧に負けるとでも、笑わせるな!」




「あの人凄い」

「たしかに、それにしても月咲ってたしか元特殊部隊で今は第一級危険レジスタンスの人だったな」

「僕も聞いたことあります、アークを襲撃したとか特殊部隊の隊員3人を相手に勝ったとか」

「軍は情報公開をあんまりしないからな、どこまでホントかはわからんけど、僕チンにも解るほど有名な人が師ってことは相当の実力者かもな」




「ヨハネ、特殊部隊の実力を見せてやる、本気をだせよ」

「ふん」

「次は私から行かせてもらう」


 その言葉を放った刹那、紫音機体はまるで時間を止めたかと思うほどに一瞬でヨハネとの間合いを詰める。


「!」


 高いブースター音が響く、それに遅れて再び鉄同士のこすれ合う音が轟音となって響いた、ヨハネは反撃できずに、後退する、紫音の攻撃は見事に機体をとらえる、しかも先ほどヨハネがやったことと同じ攻撃で。


「自惚れているようだが、この程度の攻撃、私にも可能だ」

「ちっ」


 この程度、彼女はそういい放つが彼女のした攻撃はヨハネのそれとは比にならない速さと威力だった、警戒していたはずのヨハネだがいとも簡単に攻撃を受け、舌打ちをする、宣言されていなければ避けきれなかったであろう一撃。


「どうだ、guardianを見直してもらえるだろうか」


 紫音のその言葉は、再び機体が地面を蹴る音を発生させる、ヨハネに次の一歩を踏み出していた。


「お姉様本気だわ」

「紫音さんを煽ったヨハネって奴が悪い、てかまたお姉様になってるぞ」

「はっ、ついうっかり」


試合は時間一杯にまで達した、最終的に勝ったのは紫音であったが決してヨハネが劣っていたわけではなかった、しかし結果は誰が見ても紫音の圧勝。


「はぁはぁ」

「残念だったなヨハネ!」

「あんたは強いよ、だが」

「スバルにはおよばないか、わかっているさそんなことは」



「隊長、やりすぎっすよ」

「済まない、どうも私はスバルという単語に強く反応しすぎてしまうようだ」

「隊長」

「頭を冷やしてくるよ」




「凄かった」

「ああ、それよりも次は君だろ他の試合に見とれてる場合じゃないだろ」

「あっそうだった」


 対戦相手は柴隊員ということだが、どんな人だろう、そんあことを考えながら機体の方へむかう。


「あの」

「ん、どうした?」

「僕、タイプ式操縦なんですけど」

「なら、あの28番機に乗れ」


 ずっらーっと並んだ機体、その一番は端の機体を指さし言う。


「設定いじっても大丈夫ですか?」

「ああ」



「28番ってことはタイプ式か」


 パパルは28番機に乗り込む候補隊員を珍しそうにみる、軍にタイプ式操縦の隊員は雷瞬を含め数名しかいない上、今年は真紅のみであった。


「真紅か」

「誰ですか?」

「私の推薦だ、彼はいい動きをする」



機体をいじる真紅、〈タイプ操縦、Bセッティング、タイプ反応速度最速〉

機内モニターに文字が表示される。


「こんなもんかな」




 それから試合はすぐに始まる。


「柴だ、よろしく」

「真紅です、よろしくお願いします」

「君のタイミングで来てくれ」

「はい、じゃあ行きます」


 真紅は真っ直ぐ走り出す、だがすぐに機体を止めた、ナイフをペイント銃に換え放つ。


「いい判断だ、柴は接近戦が強い、あのままいけば勝負は一瞬だったな」

 と紫音。


「普通わかるもんですかねー」

「重心、微妙な動き、関節の曲がり具合、ナイフに手をかける動作、今見てとれる情報はそれぐらいだが、それだけ見れば相手の行動と力量を予測することはできる、普通の候補隊員では無理だろうがな」

「結構場数踏んでるんですかね」

「あいつは私と師が同じなんだ」

「そうなんですか」

「ああ、そして相手の観察は戦闘訓練で一番最初に習う」




「敵を見極め、先を読む、判断を誤ること即ち敗北、戦場では死」


 真紅は師から言われた言葉を復唱する。

緊張は消え、辺りはしっかり見えていた。


「近寄るのは危険、このまま距離を保つ」


 柴の回りを弧を描くように動きながらペイント銃を放つ。


「距離を詰めさせないつもりか」


 精密で機械的な真紅の動き、まるでジュースを作る生産工場のようなブレのない攻撃。

だがその攻撃は単調でリズムを掴みやすかった。


「あらら、少しはやる奴かと思ったが、タイプ式にありがちな事だな」


 とパパルは言う、実際そうだ、タイプ式操縦はこと細かく行動を指定できるが、あまりに精密すぎると、逆に単調で読みやすい動きになってしまう。


「そだね、あんなに単調だと柴も直ぐに行動にでるかな」

「パパルもナギサも本当にそう思うか? ただの単調な攻撃だと」



「ここだ!」


 ナギサの言うように柴は直ぐに行動にでる、同じリズムを刻む攻撃に垣間見える僅かな隙、柴はそれを見極めた、完璧に柴の間合いに入る。


「狙ってる、真紅っていったか」


 ヨハネがポツリと呟いた、次の瞬間突き刺さったのは柴のナイフではなく、真紅のカウンターナイフだった、その一撃に連動して二打、三打と真紅の攻撃が決まる。



「誘ってたのか!?」

「さっきの真紅の攻撃に対して、近距離戦しか狙わなかった柴の攻撃できる隙はただのワンパターンのみ、真紅はそれに攻撃をあわせただけ」

「けど狙って簡単にできることじゃないっすよ」

「そう、例え真紅が柴の動きから接近戦しかないとみて罠をはり誘い込んだとしても、柴のあの瞬撃に対処するのは難しい、だが彼はその攻撃を辛うじてどころか腕を上から突き刺さして相手の攻撃を封じるという完璧な形で押さえた、彼も見ない間に随分成長したようだな」


 試合はもちろん真紅の勝利となった、

 残り数試合を消化し、審査は終了した、結局現存隊員を倒せたのは真紅だけだった。

 会場はざわついていた。

「緊張してきました」

「お前は大丈夫だろ、唯一勝ったんだから、俺なんて俺なんて…」

「大丈夫ですよ、ジョボルさんもきっと受かってます」

「も、ってなんだ、も、って!」




「今年はなかなかの粒ぞろいのようだな」

「雷瞬か」

「月咲を越えるやつはいそうか?」

「どうだろうな、2人威勢のいいやつはいるが」

「あいつの最終審査の話しでもしてやろうか」


 雷瞬はそういいながら紫音の横のイスに座り、机に背を持たれかけさせる。


「いらない」


 そういってその場を離れようとするが、すぐ戻ってきてイスに座り言う。


「…やっぱり、少し聞きたい」






 話しは数年前に遡る、最終審査は例年通り、候補隊員と現存隊員の試合によって行われていた。

審査は数年間不作で雷瞬という天才的な隊員以外はからっきし良隊員がでていない状態であった。

そんときに彼、月咲昴はやって来た。



「23番だ!」


 スバルは勢いよくクジを引いた、呆れたようなそして残念そうな表情で検査官は言う。


「君、名前なんて言ったっけ」

「ん? 月咲っす」

「君運ないよ」

「なして?」

「23番はハザックさんだ」

「誰だよ」

「さっき舞台上で説明してた人だよ、特殊部隊リーダーだ、何もさせてもらえずに…どうした」


 スバルは笑っていた、それは自然と


「なんだ全然、運なくないじゃねーか、むしろ超ラッキーだね」

「…」

「もう行っていいかい?」

「…」

「聞いてる?」

「…ああ、構わないよ」


 上機嫌で部屋をあとにするスバル、気楽にも鼻歌を歌っている。

そんなスバルと入れ替わるようにして雷瞬が入ってきて、ポカーンとしている検査官にいう。


「なんて顔をしている、そんなことでは候補隊員たちに失礼だ、気を引き締めろ!」

「はっ! すいませんつい」

「何かあったのか?」

「さっき入ってきた少年がハザックさんと戦うことが決まって落ち込むどころか喜んでいるものですから、驚いてしまって」

「ほぉ、名前は」

「月咲昴と言っておりました」

「月咲、おもしろそうだな」

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