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1.真紅の瞳

 海からの風がビルの隙間を抜け木々を揺らす、手を伸ばし触れる扉は彼の心を奮い立たせた。


「つッ、ついに来てしまった、guardian 本部ノア…」


 黒い髪、黒い瞳、細身で背は160そこそこだろうか、性別は男、そんな彼はguardian本部、ノアの前で目にした光景に感動し、立ち尽くしていた。

その扉は彼にとってとても大きな存在に思えた、一歩踏み込むと自分の知らない世界が広がっているのだ、一呼吸置き、扉を開こう、そう決心したときだった。



「おい、邪魔だ」


 カードキーを通すより僅かばかり早く、そんな言葉が耳に入る。

扉の前に立ち尽くしていた彼は通行の妨げになっていた、もちろん後ろから近づいていた背の低い少年にも気づかないわけで。


「えっ、あ! すいません」


 そこにいた少年はギロッとした目付きで自分を睨み付ける、自分と同年代ほどであったが、その威圧感はそうとは思えないものだ。


「あの〜guardianの方ですか?」


 その少年の目に少し、臆しながらも彼は横を通り過ぎようとする少年に、おそるおそる質問をしてみた。


「今日からな」


 カードキーを通し、扉を開く、開いた扉からは新鮮な空気を感じた。

それはさらに彼の心を奮い立たせる、彼もまた同じようにカードキーを通す。


「じゃあ、新人採用試験に受かった人ですね、僕もなんです」


 まるで雲の上でもあるくかのようにふわふわした気持ちで、背の低い少年の後ろについていく、彼の気持ちとは正反対に通路は暗い、足下を照らす誘導灯を頼りに進む、窓はなく春の陽気を遮っているので少し寒く感じた、鉄の壁はひんやりしている。


「ふーん」


 少年は愛想がない、くだらないとでも言いたいように一言そういいながら、黙々と歩く、通路はときどき別れているが、会場という字と矢印がかかれている張り紙のおかげで迷うことはない。

別れているところまでくると少年は立ち止まり、張り紙を確認した、誘導灯の光でぼんやりとしか見えないそれであったが、矢印は蛍光色であった。


「…、えっと真紅です、よろしく」


 歩いていく少年に追い付きながら彼は握手を求めようと左手を差し出す。


「ああ」


 握手が帰ってこない、差し出した手を引くタイミングを失しなったまま彼はまた質問する。


「あの君は?」

「ヨハネ」

「ヨハネ君か、よろしく」



「えっと、不親切ですよね、招いておいて電気もつけてくれないなんて」

「出身はどちらですか?」「会場まであとどのくらいでしょう」


 名前以外の質問に返答は無かった、以前握手を求めるその手に返ってきたのは冷たい言葉だった。


「あのさあ、別に君と仲良くするつもりはないんだ、黙っててくれないかなぁ」「あっ、ごめん」

 

 彼はゆっくり手を下ろし少年の後ろを静かについて歩いた。





 会場となっているノアのとてつもなく広いホールには百数十もの人がいた。


「これがみんな新人隊員、多いですね」


 見回すかぎりの人、それが未来には共に戦う仲間になるのだ、落ち着いてはいられない、だがあえて落ち着こうとそう心に決める。


「君は何も知らないのか、ここにいる人、全員がguardianの隊員になれるわけじゃないんだぜ」


 彼がポツリと呟いた言葉に反応して話しかけてきたのは何故かサングラスを掛けている、おそらく年上の男。


「えッ、そうなんですか」

「ほんとに知らないみたいだな、しょうがない心優しきこの僕チンが教えてやろう」


 一人称が僕チンって…、と思う真紅だが親切を無駄にしてはいけない、そう思った。


「ほんとですか、ありがとうございます、あっ僕は真紅といいます」

「ジョボルだ、さてここにいるのは新人隊員ではなく新人隊員候補だ君や僕チンも含めてね」


 真紅は手を差し出す、さっきとは違いギュッと握り返えされる。


「候補?」

「そう、候補、僕達がここに集められたのはその候補から新人隊員になれるかどうかをテストするためなんだよ」


 真紅は再び会場内を見回す、いわれてみると皆の表情は険しい、忙しなく動き回る人、壁にもたれ何かを念じるように目を閉じている人、余裕を見せているのかさっき会ったヨハネという少年はあくびをしている。


「つまり、まだ僕達はguardianになれると決まってない...と?」

「そう、全てはこれからだ」

「…あの」

「なんだ、何でも聞いてくれ、この物知りジョボル様に」


 ジョボルは威張った風に言う、なんとも胡散臭そうだったが人の親切は無駄にしてはいけない、少なくともそう教わってきた真紅はとりあえず聞いてみる。


「えーとっ、この手はいつまで握っていればいいんですか…?」

「ん? おお、すまん、すまん、つい」


 離れた手は少し汗ばんでいた、威張っている彼もどうやら緊張している様子だ、おおかた緊張をほぐすために誰かと話をしたかったというところだ。


「おっ来たみたいだぜ」


 ジョボルの言葉で真紅は振り返る、その場が一斉に静まり返った、綺麗な長髪をなびかせながら現れたのは鳳・紫音おおとり・しおんだ。


「紫音さんだ」


 真紅の表情は華やいだ、というのも彼がguardianに入りたいと思ったのは紫音への憧れからであった。

紫音は会場内を一通り見渡すと口を開いた。


「ようこそノアへ、私はguardian、sneak部隊で隊長をしている鳳・紫音だ」


 身が引き締まるような彼女の力強い声が場内に響きわたる。


「さて、君たちは世界中から集められた精鋭だ、だがguardianで生き残るにはただの精鋭ではだめだ、君たちには精鋭中の精鋭になってもらわなければならない、そこで唐突だがこれより君たちにはguardianに所属している隊員と試合をしてもらう、君たちに精鋭中の精鋭になりうる力があるのかを見るためのものだ、勝ち負けは関係ない、だが強いやつ、これからに期待できそうなやつ以外には申し訳ないが帰ってもらうことになる、つまり事実上の最終審査だ心して挑んでくれ、さてあとは彼に説明を任せよう」


 誰もが彼女から目を離せなくなっていた、退場して変わりの男が入ってくるまでは。


「みんな盛り上がってるかぁ〜」


 緊迫した会場は一気に凍りつく、皆、目を点にしていた、拡声器を片手に訳のわからないハイテンションででてきたのはパパル・アブソーバだった。


「あれ? どうしたテンションが低いぞ」

「あんたが高すぎんのよバカ」


 パパルに次いで蹴りを入れながらナギサ・アブソーバもでてくる。


「兄に向かってあんたとはなんだ! バカとはなんだ!」


「パパル、早く説明をしろ」


 横から紫音の声もはいる。


「すんません隊長、え〜コホン、ではただいまより適正試験を兼ねた模擬戦闘を行います、1試合20分でそれぞれguardianの隊員と戦って貰います、え〜機体は軍支給のもの、自機の持ち込みは認めません、武器はナイフと、各種ペイント銃の中から1つ選んで貰います、試合はナイフによる行動不能かペイント銃を五ヶ所以上確実にあたった時点、または20分経過で終了となります、え〜対戦相手についてはクジで決めます、隊員候補カードの番号が若い順に呼ぶので、呼ばれたら前の扉より部屋に入ってください、なお何か他に質問がある場合はクジを引くときにお願いします以上、それでは番号001の人、前の部屋にどうぞ」


 扉をあけるのに使用したカードキーには番号が振り付けられており、その番号の若い順に呼ばれ、次々に個室へ入っていく、しばらくしてヨハネねが入ったあと真紅の番号がよばれた。


「66番の方、どうぞ」


「あっ僕だ、ジョボルさんお先です」


 部屋に入ると中には、机、箱そしてその前に検査官が1人、後は何もない。


「失礼します」

「どうぞ、一枚引いてください」

「はい」


 机の上の箱に手を入れる、引き取った紙には数字が書かれてあった。


「23…番」

「お〜、命拾いしたな」

「えっ、どういうことですか?」

「この箱には1から26までの紙が入っていて、24、25、26は対戦相手が順にパパルさん、紫音さん、ナギサさんになってる、つまり特殊部隊の人と戦うことになるんだ」

「それって」

「そう、そうなりゃ何もさせてもらえず、試合が終わるだろうな」

「あぶなかった」


 くじ引きが終わると別の部屋へ誘導される、そこにはすでにくじを引き終えた者が緊張の面持ちで対戦の時を待つ、その中で1人不適な笑みを浮かべる男が1人、ヨハネである。


「わっ笑ってる、よほどの自信があるんだろうか?」

「真紅どうだった?」


 そんなヨハネを観察していると、クジを引き終えたジョボルが話しかけてくる。


「ジョボルさん、僕は23番です、ジョボルさんは?」

「おっ1つ違い、僕チンは24番だ」

「あ~…御愁傷様です」

「は?」



 第一審査が始まったのはそれから10分後の午前11時だった、順に試合は始まっては終わりを繰り返す。




 30試合が終了した、1試合はすぐに終る、guardianの隊員が圧倒的に強いからである。

特に特殊部隊が相手となるとほんの数十秒で勝負はついた。


「これがguardian」


 真紅の口から思わずそんな言葉がこぼれる、新隊員が弱いはずがない、各地から集められた精鋭なのだから、だがそれ以上にguardianの強さは異常とも思えるほどだった。



「次は私か」


 ここまで2試合をトータルわずか数十秒で終わらせている紫音は次の準備に入る。


「今年はなかなかですね」 と紫音の飲んだお茶のカップを手にナギサは言う。


「ああ、だが群を抜いて強い奴もいない」

「確かに、でもまだ60試合は残ってますし」

「そうだな、さっさと終わらせるか」

 

 そう言って紫音は機体に乗り込んだ。


「ナギサ」

「なによ、バカ兄」

「そのカップどうするつもりだ?」

「やっやだなぁ〜ちゃんと流しに持っていくに決まってるじゃない」






「次の対戦相手は、ヨハネ…少しは骨のある奴だといいんだが」


 機体に乗り込んだ紫音は、設定をいじりながらポツリとつぶやく。


「また紫音さんです」

「対戦するのはヨハネってやつか、災難だな」

「て、いってもジョボルさんはあのパパルさんって人じゃないですか」

「それを言うな!」

「はははっ、それにしてもあの人笑ってますよ」

「たしかに、怖いな」


 2人の目線の先にはニタリと不適な笑みを浮かべながら機体に乗り込むヨハネがいた。



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