唐突に始まる執事試験
二階堂グループ、日本国家の最大のグループであり政治・経済などさまざまなところで日本に大きな影響を与えている。そして、二階堂グループの会長を代々輩出する二階堂家に代々仕えている一家のまとめ役が山沢家である。
私はそんな山沢家の末っ子長女として生を受けた。
「杏奈、東京の通信高校に進学しなさい」
二階堂の家の書類整理を手伝っている時に、母親に急に呼び戻されたかと思えば…。
「え?なんで?」
地元の京都の高校に入学しようと思っていた私は固まる。
「仕事よ。綾天学園の執事の仕事」
「綾天学園?」
綾天学園とは超一流私立高校だ。学費が異常な程に高く、財力のある家に生まれた者または、一芸に秀でた特待生しか入学できない。ちなみに、綾天学園の学校経営も二階堂グループの仕事だ。
「綾天学園は入学段階で各学年別に学力、運動、文化などの面で高い功績を収めた五人が入ることができるラウンジがあるの。通常は山沢家以外の家から執事を出すんだけど…今年は用意できなかったらしくて」
「いや、私の高校は?」
「だから、通信に通えって言ったでしょ。時間に都合がつくし。高校範囲なんかあんたもう終わってるんだから」
「それは…そうだけどさ」
私の憧れの高校ライフは…?私の高校での未来の彼氏は…?
「仕事の実戦にもいい機会でしょ。旦那様が綾天学園の学費は払ってくれるらしいし。学んできなさい」
「はいはい、やってきますよ」
「じゃ、引っ越す準備しといてね」
「はーい」
私の気の抜けた挨拶に呆れ顔の母を尻目に私は自分の仕事に戻った。
「山沢のものとして、試験に落ちないでね」
母の呟きは私には聞こえたなかった。
◆◇◆
私は中学を卒業し、すこししたら東京に引っ越した。綾天学園の執事には執事室という専用の部屋が与えられるので、私はこれからそこに寝泊まりする。
引っ越した次の日、執事の格好に着替え、他のラウンジの執事2人から招待された歓迎会兼情報交換会に向かった。
「現在3学年、赤の五王の執事を担当している金沢と申します。よろしくお願いいたしますね」
柔らかな雰囲気を持った人だ。彼は20代前半くらいだろうか。
「自分は2学年、青の五王の執事を担当している、渡辺と言います。よろしく」
親しみやすそうな、でも軽薄空気は持たない人だ。彼は25歳くらいだろうか。
「この度緑の五王の執事を担当することになりました山沢と申します。未熟者でご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
「そうそう、執事はお互い助け合うからさ。なんでも聞いてね」
「ありがとうございます」
金沢さんと渡辺さんは一度私を観察してら、
「男装のクオリティ高いね。骨格までほぼ完璧だ」
「ほんとですね」
「五王は男性が多いと聞いたので男装の方がいいかなと思ったのですが、バレてしまいましたか」
「いい配慮だね。五王の近くに五王以外に女性がいる、なんて、無駄な嫉妬や争いを産みかねないですからね」
「ちなみに、ほとんどの方は男装だと気がつかないと思いますよ。立ち振る舞いに少々消えない女性感がありますが、本当によく隠せていますし」
「そうそう、自分たちは人をよく見なくてはいけない仕事をしているから、気づくけど、他の人なら問題ないよ。よく訓練してきてるね」
「ありがとうございます」
プロの先輩の方にそう言って頂けるのは嬉しいことだった。
そのあとは執事の注意事項、2,3学年の五王の特徴などを話した。
1時間弱後
「さて、そろそろお開きにしますか」
渡辺さんが言った。
「今日はありがとうございました」
解散となったため、2人に頭を下げると、
「いえいえ、明日から少し大変だとは思いますが、頑張ってくださいね」
「はい!では失礼します」
そう言って2人の元をさった。
杏奈が2人の元をさったあと。
金沢と渡辺は2人の男性を加えた四人でもう一度席につき話し始める。
「とりあえず第一関門は突破ということで、いいですか?」
「そうだね。やっぱ、高校生とはいえ、山沢家のものだね。足りないことは二階堂本邸以外での経験くらい。非常に優秀だ。あとの試験は五王の皆様にお任せしますね」
「すぐ2人が落としちゃうから、赤の五王たちは久々の試験だって気合い入ってたよ。ルイスなんて、僕たちが学校で暴れてもいい様にって、美術作品全部模倣するって意気込んでたよ」
入ってきた青年のうち1人が肩をすくめていう。
もう1人の青年は金沢と渡辺に尋ねる。
「ちなみに、本日の様子を見て、渡辺と金沢はどう思った?」
2人は示し合わせた様に答えた。
「「山沢さんは…」」
◆◇◆
引っ越してから数日間。色々な五王が私を訪ねてきた。
1日目は赤の五王、茶道の達人、西園寺総一。青の五王、華道の達人、池谷晶。
2人と花道や茶道を嗜んだ。
2日目は赤の五王、絵画の達人アイエス・ルイス。青の五王、音楽の達人音那幸弥。
2人と芸術について語った。
3日目は赤の五王、天才ゲーマーで五王唯一の女性、河野向日葵と、青の五王、天才プログラマー黒木圭人。
2人とゲームやプログラミングの対決をした。
4日目は赤の五王、サッカー界の新星、飯田晴人と、青の五王、バスケ界の新星、小川理玖が私を外に連れ出した。
結構色々な運動をさせられた。
5日目は金沢さんに在校生の春休みが終わる前に学校の見学に行ってきたらどうか、と言われた。
渡辺さんからは「難しいかも知らないけど、2時間くらいでは帰っておいで」と、よくわからない言葉を言われた。
なかなか入る機会のないだろう、日本きっての綾天学園に少しウキウキしろながら入る。
長い直線上の廊下にはよくできた芸術作品なども飾ってあり、その作品全てに感心する。
ビュンッ
「うおっと」
急に前方から急に弓が飛んできたのを間一髪で避ける。
「え?なにごと?」
咄嗟の判断で、床に刺さった弓を拾うと弓の打ち手がいそうなところに投げる。が、弓を弓で弾き返された。
「そんな小さな的当たる人いるの?」
激しく、正確に杏奈を狙う弓を避けつつ、避けた弓が芸術作品に当たることを防ぐ。
本来ならすぐに逃げて応援を要請するべきだが、弓に微かな引っ掛かりを覚え、弓が発射されそうなところに向かっていく。
階段の踊り場から弓を発射する人物の人影が見えてきた。
だが、弓の打ち手に集中しすぎてたためか、横道の通路から出てくる人物に気が付かなかった。
「っっ」
体を捻って間一髪で横から叩き込まれた何かを避ける。
「…木刀?」
その後も間髪入れずに太刀を叩き込まれる。その太刀にも違和感を覚えるが、ここは、木刀を使うにしては少し狭目の廊下。木刀持つ人物を捉えようものなら、芸術作品を傷つけてしまう。
しかも、絶え間なく弓も飛んでくる。
杏奈は自分の疑問を確認するために、強硬手段に出る。まず、木刀を踏みつけ、折った。木刀の持ち主がぽかーん、としている隙に矢が来ない物陰に隠れる。
「なにが、、したいのですか?」
隠れたまま、弓の打ち手と木刀の人物に抱いた疑問をぶつける。
「なぜ私を殺気もなく狙い続けるのですか?」
無言の時間が数十秒続いた。私はいつ、木刀の人物が襲いかかってきても、いつ、弓の打ち手がこちらを攻撃してきてもいい様に、警戒をし続けた。
「ねぇ、剣、合格でいいんじゃないかな?」
「進先輩、僕もそう思います」
剣、進…。
「宇都宮進様と、水吉剣様ですか?」
宇都宮進。弓の名手で、3学年の学年一位。その明るさから、綾天の太陽と呼ばれている赤の五王のリーダー。
水吉剣。剣道の達人で、2学年の学年一位。彼はその冷静さや、時に見せる冷たさから、氷の王子とも呼ばれる青学年のリーダー。
「うん、そうだよ」
進が軽く答える。
「山沢、ついてきて」
そういうと、私の戸惑いなんぞ関係ないという風に剣はスタスタと歩いて行った。
「かしこまりました」
私は、よしっと、気持ちを引き締め、乱れた息を整え、2人について行った。
彼らが私を導いた場所は赤の五王のラウンジだった。
ガチャっ
剣がドアを開けると同時に
パーンっ、
クラッカーの音同時に声も聞こえてきた。
「「「「山沢杏奈さん、執事登用試験合格おめでとーー」」」」
「えっと…これは?」
「えっと…」
流石に戸惑いが隠せなかった。
「この前から私たち在校生の五王が毎日毎日、執事室に訪ねて来たでしょ?」
五王で現在紅一点、河野向日葵の発言に続けて黒木圭太が訪ねてくる。
「おかしいと思わなかった?」
「思いました」
わたしは間髪入れずに答える。
「あれが、試験だったのですよ」
「後輩に仕えてもらうのにふさわしい人物かどうかを試す」
西園寺総一の発言に池谷晶が続く。
「今回の試験で、十人は落ちたよねぇ。ほとんどの人たちが金沢と渡辺の試験すらも通らなかったしね」
「本当です。やっとまともな人が来てくれて安心しました」
アイエス・ルイスのしみじみとした声に音那幸弥が賛同する。
「まさか、床に突き刺さった弓をこちら側に投げ返されるとは思ってなかったよ」
「俺も、流石に木刀を折られるとは…」
進と剣の発言に全員がギョッとした様な目でこちらを見てくる。
「い、いやぁ、自分の周囲に守るべき対象があるなら、やられる前にやれが家訓なものでして」
「守る対象って?」
「よくできた美術作品です」
私がその言葉を発した途端、眉間に皺を寄せたアイエス・ルイスが、怪訝な顔で聞き返す。
「よくできた?」
「はい!精巧に作られたレプリカ、筆先からは騙してやろうという悪意ではなく、単純な作者への尊敬が感じられました。これは素晴らしい芸術作品であり、決して傷つけてはならないと思いまして」
私の返答にアイエス・ルイスは笑い出す。
どうしたら良いのかよくわからず、直立していると、進が笑いながら言い、肩をすくめながらその言葉に剣が同意する。
「ははは、金沢と渡辺の言った通りになったね」
「本当です」
「ちなみになんて言ったの?」
向日葵が金沢と渡辺に尋ねる。
「「山沢さんは、みなさまを魅了しながらこの試験をクリアします」」
そうして、私は正式にこれから入学する緑の五王の執事に決定した。
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