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第15話 お食事と不届き者

「ぜぇ…はぁ…」

「大丈夫ですか…?」

「うっ…し、死にそう…」


持久走並みに走らされ、胃の中身がひっくり返りそうだ。

そんな吐き気の感じる中、ようやく到着した目的地の景色を見て、私は小さく感動した。


「きれい…」


山の麓。

正座で座れるくらいの傾斜の開けた場所に、それはそれは美しいタンポポの花畑があった。


「ここはずっと前からこの黄色い花の生い茂る場所で、わざわざここにご飯を食べに来る人もいるんですよ?」

「へぇ〜?確かに、タンポポが沢山生えててきれいですね…」


黄色い絨毯――というほどではないけれど、歩くのが難しいくらいには一面にタンポポが生えていて、辺りが黄色く染まっている。

そのタンポポの花畑に、フウカさんは大きな一枚の丈夫そうな布を敷く。

多分、レジャーシートみたいなものだと思う。


その上に一緒に座ると、笹の葉に包まれたいなりずしを手に取る。


「はい」

「ありがとうございます」


フウカさんにもう一つのいなりずしを手渡すと、フウカさんと2人並んでいなりずしを頬張る。


油揚げのフワフワとした食感。

柔らかめに炊かれた酢飯。

使われているモノはそれだけで、特別甘みもなければ酢飯が酸っぱい訳でもない。

特に言うことのない普通の…味の薄いいなりずし。

それなのに…なんだか特別に感じるのは、ここが霊界だからなのか、フウカさんと一緒に食べるからなのか…


「美味しいですか?」

「うん!なんか…特別な味がする」

「特別な味…?苦いとか舌がピリピリするとかでは無いですよね?」

「なんですか?それ。私はただ、フウカさんと一緒に食べるいなりずしは特別だなぁって感じただけで……ん?」


苦いとか、舌がピリピリ?

それって毒じゃ…


「…あの、こう言うのって、毒見役がついてるんじゃ…」

「ええ。ですが、私を殺すほどの毒は食べる前に気付けます。サユリさんを殺すのに十分な毒というのは…私では、食べるまで気付けません」

「でも、変な味は特に…」

「でしたら、大丈夫でしょうね。毒は無いと思います」

「良かったぁ…」


ちょっとびっくりした。

いきなり毒を警戒されて、怖がらないわけがない。

せっかくのご飯中なのに、フウカさんはなんてことを――!?


心の中で軽く文句を言っていいると、急にフウカさんが動いた。

そして、私を守るような態勢で薄い光の膜を張っている。


「さすがはお姫様だな。反応がいい」

「何者ですか。それ以上近づけば私は貴方を敵と認識します」


…敵!?


「あの人は…鬼?」

「サユリさん。私の前に出ないで」

「は、はい…」


フウカさんがとても警戒する相手。

それは角の生えた筋骨隆々の男性で、その風貌はまさに『鬼』。


様々な妖怪の住むこの霊界において、鬼の存在は別にト特別なものでは無いのかもしれないけれど…妖狐族とは敵対してるのかな?


「そんなに警戒しては、せっかくの花嫁が怯えてしまいますよ、妖狐族の姫よ」

「そう…止まらぬと言うのなら!」


フウカさんも不届き者も、全然相手の話を聞いていない。

尻尾の毛を逆立たせ、攻撃的な空気を纏ったフウカさんは、手のひらを口に近付けると、息を吹きかけた。

その瞬間、ボアッ!と手のひらから火が吹き出し、まるで火炎放射器のような炎が鬼へ向かって飛ぶ。


あんなのに当たれば全身丸焦げになる。

私は後ろにいるのにびっくりしてへたり込んでいるのに対し…相手の鬼は微動だにしない。

それどころか…


「…ぬるいな」


その一言共に腕を勢いよく振り、なんと炎をかき消してしまった。

炎をかき消した余波が嵐のような突風を巻き起こし、私はその風で飛ばされてしまわないようにフウカさんに抱き着く。


ただ腕を振っただけで…本物の鬼はこんな化け物なのか…


「こっちは殺しに来てるのに、外交の事を気にしてケガする程度の攻撃で抑えるとは…姫様は随分とのんきなものだな」

「くっ!」


鬼の纏っている気配が一段と強くなり、私の体から急に力が抜けた。

…怖い。

その一言で私はその場から動けなくなってしまう。


フウカさんも本気で攻撃していいのか分からない様子。

このままここであの鬼に殺される…そんなの嫌だ。

私は何とか腕を動かしてフウカさんにしがみつき、目を閉じる。

何とかしてもらおうと、『助けて』、と言おうとしたその時――


「だからあれほど供回りをつけなさいと言ったのじゃがな…」


木仙さんの声が聞こえて恐る恐る目を開くと…いつの間にか気づけばお屋敷に居た。


「ばあやが間に合いましたか…」

「あっ…」

「もう大丈夫ですよ。サユリさん」


まだ力の入らない私に、フウカさんは優しく手を伸ばす。

そして、赤子を相手にしているかのようなソフトタッチで私の事を抱きしめて落ち着かせてくれた。











「全く。まさかこんな所まで来ているとは思わなんだぞ、不届き者よ」

「大影山大樹仙狐…いいじゃねえか。最高の相手だ!」


フウカ様は逃がした。

普段ならこんな相手に追い詰められたりしないだろうが…サユリ様の目がある。

サユリ様の前で殺しはしたくなかったといったところか。


「不届き者よ。悪いがお前の遊戯に付き合うつもりはない。去ね」

「ッ!?」


その場から一歩も動くことすら許さず、時空の狭間へ吹き飛ばす。

奴が消えた事を確認すると、フウカ様とサユリ様が待つ屋敷へと戻った。




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