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第10話 ご飯を食べよう

「はい。あ~ん」

「あ~ん」


今は午後18時。

夜ご飯の時間です。


夜ご飯のために家に帰らせてもらえず、フウカさんの屋敷でご飯を頂くことに。

とにかく私のお世話をしたいフウカさんは、当たり前のようにご飯はすべて食べさせてくれる。


「おいしいですか?サユリさん」

「精進料理みたいでおいしいですよ。フウカさん」


夜ご飯は、川魚の素焼きと白米。

後は漬物とお吸い物だ。


…正直味気ないし、食べている気がしない。

現代の味の濃い料理に慣れてしまった私には、この料理は物足りないのだ。


せめて川魚は塩焼きがよかったけれど…まあ、食べさせてもらっている立場だし、文句は言えないけど…


「この料理でも味気ないとは…サユリさんは、普段どんなものを食べているんですか?」

「また心を…そうですね特に言うことのない普通の料理しか食べてないんですけど、使っている調味料や香辛料の量が違うのかもしれないのかな?」

「香辛料…確かにあまり使いませんね」


昔の日本人が、香辛料を大量に使っているイメージはない。

そもそも和食は大体味が薄くて、栄養バランスがしっかりしているから世界的に注目されているんだ。

味気ないのは当たり前かもね。


「香辛料を入れるとなると…かなり厳しい橋を渡ることになりそうですね」

「そうなの?」

「ええ。ばあやから話は聞き及んでいますが、人間界は世界中の人々と協力して発展している様子。しかし、霊界は違います」


今はグローバル化――国際協力の時代だ。

国際問題は今もあるけれど、昔に比べれば交通手段の発展や通信技術の発達で、一気に世界の距離が縮まっている。

だからこそ、香辛料をどんどん使えるし、コーヒーやチョコレートのような、日本では栽培できない原料を使った嗜好品が庶民でも容易に楽しめるのだ。


でも、霊界はそうじゃないらしい。


「人間界でも、差別はありますよね?」

「まあ…悲しい事に」

「でしょうね。しかし、霊界は規模が違います。なにせ、人間と違って種族が違うのです。種族間の争いは絶えませんし、差別は容易に死へと繋がります。他種族と協力し、世界的な協力によって発展しようなどという考えは毛頭ありません」


…霊界は、随分と荒れているようだ。

私達の住む人間界と違って、霊界には他種多様な種族が混在しているせいで、争いが絶えないらしい。

そんな世界では、国際協力などという言葉は微塵も存在しない。

なかなかにディストピアだね、霊界。


「香辛料はこの世界では滅多に手に入ることのない高級品ですよ」

「そうなんだ……じゃあ、私が大量に人間界で仕入れて、霊界でばら撒けば大儲けできるんじゃ…」

「まあ、出来ればそうでしょうね…」

「…?」


フウカさんは、どこか含みのある言い方をした。

人間界のモノを持ってきちゃいけない決まりでもあるのかな?


「サユリさんは、この世界に来るまで妖怪の存在を信じていましたか?」

「…いえ。ただの伝説やお伽噺だと思ってました」

「でしょうね…」


妖怪の存在。

ただのお伽噺だと思っていたそれは、本当に存在する者たちで嘘でも作り話でもなんでもなかった。


「昔は人間と我々はもっと密接な関係だったそうです。しかし、ある時人間界と霊界で大きな戦争が起こり、人間は超常の存在に助けを求めました」

「超常の存在?」

「まあ、一言でいえば『神』ですね。神は人間界と霊界の戦争を仲裁し、人間界と霊界の接触に制限を掛けました。抜け道は沢山ありますが…人間界の香辛料を大量に持ち込んで売るなんて行為は、到底許されないでしょう」


なるほど…神様が何とかしてくれたから、人間界と霊界の繋がりが希薄になって今ではお伽噺くらいにしか妖怪は出てこないのか…

そして、その状態を維持するために人間界のモノを大量に持ってくるのはNGと…


「…しかし、人間界の料理ですか…いつか、食べてみたいものですね」

「食べたことないの?」

「立場上、私が人間界へ行くのは難しいのです。正式な手順を踏んで、滞在期間を伝え何も持ち込まず、何も持って帰らず。そんな契約を結ぶ必要がありますから」


フウカさんは妖狐族の姫だ。

王族がしれっと人間界に居るなんて、何かが起こった時に大問題になりかねない。

それこそ、フウカさんが人間界に干渉できるのは、私の夢の世界へ来ている間とかそれくらいだろうね。


「私が用意して、木仙さんに連れてきてもらうときに持ってくるとかもダメなんの?」

「まあ、それくらいなら大丈夫でしょうね」

「だったら、良くなったら次こっちに来るときに用意するよ。人間の食べ物」


私がそう言うと、フウカさんは目を輝かせる。

よっぽど人間界の食べ物に興味があったんだろうね。

そうだなぁ…まずはハンバーガーでも持って来よう。

あれなら食べやすいし、とってもおいしい。

そして、この国にはない味のはずだ。

ふふっ…今から反応が楽しみだよ。


「さあ、おしゃべりはこのくらいにして、早くご飯を食べてしまいましょう。私のご飯が冷えてしまいます」

「は~い」

「では、あ~ん」

「あ~、ん!」


味気のない精進料理のようなものだけど、会話が弾んで楽しい時間の中で食べれば…それはとってもおいしかった。

食卓を囲み、団らんの中でご飯を食べることの大事さが分かるね。




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