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第8話 彩の神霊

 なんか、ふわふわとした浮遊感がある。

 もしかして幽体になっちゃったの!? と、私は自分の体を見たり、両手の平を見たりする。

 やっぱり幽体だ、だって半透明だもの。


「あら、アーティーの姿、ヘビだと言っていたけど、幽体は違うのね」


 と、ソクラリスさまに指摘される。

 もう一度、自分の両手を見る。

 うっすらピンク色に光った小さな手……。

 手、手がある、私はヘビなのに。


「清楚な白いワンピースを着た金髪碧眼の少女……、全身ピンク色に光っていて、とても愛らしい姿よ」

 ソクラリスさまが私の容姿がどんな風なのか教えてくれる。


「まるで、彩の神霊エリノアみたいね」


 と、言い、クスっと笑う。

 彩の神霊エリノア。

 それは全身に薄いピンク色のオーラをまとった少女のような姿をした神霊。

 彩の神霊エリノアは草から草へ、木から木へ移る蝶のように、行く先々で綺麗な花を咲かせていくという。

 それは何も草木だけではなく、人から人へ、町から町へ、国から国へと飛んで行き、そのすべてで幸せという小さな花を咲かせていく。

 これも、星座ルビーアイのお話と同じで、あの人、目の前にいるエメラルド公ナヴィス・ローゼアさまが以前話してくれたことだ。


「幽体はイメージの世界、自分をどうとらえているかでその姿がかわる。おそらく、アーティーはヘビではなく、その彩の神霊エリノアのような、愛らしい少女のような姿を自分に投影しているのね」


 と、ソクラリスさまが言う。

 そういえば、そう、あのときも、アーティーも彩の神霊エリノアみたいになりたいなぁって強く思った。


「まぁ、その話はあとで、今はあいつに宣戦布告するのが先よ」


 ソクラリスさまがナヴィス・ローゼアさまに向き直る。


「エメラルド公ナヴィス・ローゼア!」


 そして、彼を指差し、大きな声で言う。


「あなたの不埒な悪行三昧もここまでよ! どれほど陰謀を企てようとも、わたくしがすべて打ち砕いてみせるわ! わたくしはね、あなたが大嫌いだったのよ、あなたの父親がやったことは棚に上げて、自分だけ被害者ぶって、逆恨みして、表では善人を演じて、裏ではコソコソ悪事を働いて。わたくしだけを狙うならまだいいわ、だけど、あなたのやっていることはジェーダスの民を巻き込み、皆を不幸にし、国家を荒廃させる行為よ、そんなこと絶対に許せないわ!」


(あ、あの、ソクラリスさま、あの人はそんなに悪い人じゃないと思います! 何か理由があるのかもしれないです!)


 私はソクラリスさまの腕に抱きつこうとするけど、そのまますり抜けてしまう。


「真の貴族は目の前の敵が憎くて戦うのではなく、後ろにいる国民を愛しているから戦うのである。それがわたくしの座右の銘よ、覚えておきなさい!」


(はい、胸に刻んでおきます!)


 と、思わず反射的に返事をしてしまう。

 ダンスホールは水を打ったように静まりかえり、ソクラリスさまは言い切ったという感じで不敵な笑みを浮かべながらナヴィス・ローゼアさまをにらむ。


「皇女殿下、いったいなにを勘違いしておいでで……?」


 彼が困惑したような表情で言う。

 互いを見合う時間が続く……。


「あ、眠くなってきちゃった……」


 と、突然ソクラリスさまがポツリと言う。


(え?)


隷属魔法(パーペス・ペイン)がじわじわ効いてきた……、わたくしは少し眠るから、アーティー、あとはお願いね……」


 彼女がそう言うと私たちは再度入れ替わる。


「ええっ!? ちょっと待ってください、これからどうすればいいんですか!?」


 元のソクラリスさまの体に戻った瞬間叫んでしまった。


(その辺にわたくしの侍女のウィッテと護衛騎士(セキュリティナイト)のリージュがいるはずだから、二人を呼んで、具合が悪いとかなんとか言って自室まで連れていくように言いなさい。いい? わたくしが目覚めるまで部屋に閉じこもっているのよ。あと、ウィッテとリージュ以外は信用しちゃダメよ、あの二人だけはわたくしを絶対に裏切らないから……、ああ、もう、ダメ……、あとはよろしくね、アーティー……)


 と、ソクラリスさまが眠りに落ち、くぅくぅと静かな寝息をたてはじめる。

 ソクラリスさまの幽体は外にはなく、この体の中で眠っているようだった。

 それより、どうしよう……、と、私は周囲を見渡す。

 大勢の紳士淑女たちがこっちを見ている。

 もちろん、あの人、エメラルド公ナヴィス・ローゼアさまも……。


「あのー! ウィッテさんとリージュさんはいらっしゃいませんかー!?」


 と、私は大きな声で言う。


「通してください!」


「失礼します!」


 人垣の中から女性二人が飛び出してくる。

 綺麗なドレスを着た女性と、騎士正装を着た女性だった。

 二人ともすごく美人で銀色の髪をしていた。


「どうなされましたか、姫さま!?」


「どこかお加減でも!?」


 と、二人が私の前にひざまずく。


「あ、ちょっと、具合が悪くなっちゃったの……、私の部屋まで連れていってもらえないでしょうか……?」


 と、言い、その場にへたり込む。


「わ、わかりました!」


「すみません皆様方! 道を開けてください!」


 ウィッテとリージュが私を両側から抱きかかえ、手際よくダンスホールから連れ出してくれる。

 ダンスホールから出るとき、最後にチラッとあの人、エメラルド公ナヴィス・ローゼアさまを見る。

 じっとこちらを見ている。

 その表情から心を読み取ることはできなかった。

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