第7話 天照る月
通路の両側には綺麗に着飾った貴婦人方が大勢いる。
「60-150クラブの一つリュウセの新鮮なサラダが届きました、皆様ご一緒にどうですか?」
「リュウセですか、あの世界二十五大農場の一つクリニャで生産される、5-10クラブの一つベッセルの植物油を使用しているという……」
「それと50-70クラブの一つルッカスのケーキも注文しましたわ。今から届くの楽しみですわ」
「ルッカスですか、あの世界四十二大山脈の一つナリスをイメージして作られたという……」
と、綺麗に着飾った貴婦人方の会話が聞こえてくる。
でも、その貴婦人方も私に気付くと、会話を止め、両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、、優雅にお辞儀してくれる。
「ソクラリスさまの髪飾りがよくお似合いですわ。あれは、15-28クラブの一つ、フォクセスでは?」
「まあ、素晴らしいですわね、わたくしも三つほど注文しようかしら」
「なら、わたくしは四つほど注文いたしますわ」
「わたくしだって五つは注文しますわ」
「「「どうぞ、どうぞ、ご注文ください」」」
と、言ったあとでみんなで笑い合う。
「皇女殿下のお履きのものは……、12-24クラブの一つ、エンルエントですね?」
「まあ、素晴らしいですわね、わたくしも六つほど注文しようかしら」
「なら、わたくしは七つほど注文いたしますわ」
「わたくしだって八つは注文しますわ」
「「「どうぞ、どうぞ、ご注文ください」」」
と、また、みんなで笑い合う。
そんな感じで楽しげな会話が至るところでなされていた。
そのまま進んでいくと、ダンスホールが見えてくる。
ダンスホールは、この豪華な通路より、さらに明るく、目がくらむほどきらびやかだった。
目が慣れてくると、中がはっきり見えるようになる。
広大なダンスホールで、天井がとつもなく高く、そこに無数とも言える数のシャンデリアが輝き、その下では大勢の、綺麗に着飾った貴婦人と紳士が美しいワルツに合わせて優雅に踊っていた。
「ジェーダス帝国第一皇女ソクラリス殿下ご入場!」
と、ダンスホールに一歩足を踏み入れた瞬間に、そう大きな声で言われた。
その声で一気に私に視線が集まる。
壁際で談笑している人たちのみならず、ダンスに興じている人たちまで、そのペースを落として私のほうを見る。
やがて、踊るのを止める。
気付くと音楽まで止まっている。
静まり返るダンスホール。
(おそらく、エメラルド公ナヴィス・ローゼアはこのダンスホールの中央にいるわ、行きなさい)
「え、で、でも……)
大勢の人垣ができていて、前に進めそうもなかった。
(いいから、気にせず前に進みなさい)
「はい……」
と、一歩足を踏み出すと、人垣が左右に分かれて道ができる。
「おお、すごい……」
(あたり前よ、わたしくの行く手を阻む者なんていないんだから)
一歩、一歩、歩いていくたびに、その先の人垣が左右に分かれていく。
やがて、左右に分かれず、私の正面に立つ男性があらわれる。
「あれは……」
まばゆい太陽のような金色の髪、瞳は透きとおる海のような青色、肌が白くて、綺麗な顔立ち、そして、優しそうな表情。
あの人は、
(あいつがエメラルド公ナヴィス・ローゼアよ)
いつも泉水でヘビだった私にいろいろなお話をしてくれたあの人だ。
私のことを、僕の小さな友人、って呼んでくれた人。
(聞いているの? あいつがエメラルド公ナヴィス・ローゼアよ)
動揺している私に対してソクラリスさまが再度言う。
(さっき教えたとおり、宣戦布告をするのよ!)
と、彼女がエメラルド公ナヴィス・ローゼアを指差し叫ぶ。
彼が何事かといった感じで、少し怪訝そうなそう表情で私を観察している。
(早くしなさい!」
ソクラリスさまが急かしてくる。
「で、できません、悪い人には見えません」
だって、いつもあんなに優しく私にお話してくれた人が、ソクラリスさまに隷属魔法をかけたり、ジェーダスの人たちに酷いことをしているんなんてとても信じられない。
きっと何かの間違い。
そうに違いない。
(何を言っているの? 見掛けに騙されないで、あいつは極悪人よ、しかも、とびっきりの!)
「で、でも!」
と、私は宣戦布告をするのを拒否。
(ああ! もういいわ、その体貸しなさい!)
そう言うと、ソクラリスさまが私の体の中に入ってきた。
「えっ!? 戻れるんですか!?」
びっくりして言う。
(わたくしを誰だと思っているの、あの海賊王ルビーアイの血を引く皇族よ、最高の魔法抵抗力を持ち、隷属魔法だって短い時間ならレジストできるわ! えい!)
と、私の魂がソクラリスさまの体より追い出される。