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第6話 リーンハルト城

 そこは白い壁に青い屋根の円錐型の塔が立ち並ぶ美しく壮大な城。

 広大な大庭園には花々が咲き乱れ、その無数の色とりどりの花びらが風ととに空に舞い、城はその花びらたちの向こうに悠然と建つ。

 城の窓すべてに明かりが灯され、夜の世界をまるで花が咲くように彩っている。

 届くワルツは華やかで幻想的、微かに聞こえる笑い声と相まって、とても楽しげな印象を振りまいていた。

 私たちはそのお城に向かい歩いていく。

 少しずつお城が近づいてくる。

 思えば、こんなにお城に近づいたのは初めてだ。

 いや、あの泉水からこんなに離れたことさえ初めてだったかもしれない。

 ついに城門までやってきた。


(ここがリーンハルト城よ)


 と、ソクラリスさまが教えてくれる。

 リーンハルト城……、ものすごく綺麗なお城……。

 戦争とは無縁、華やか舞踏会や式典、パーティーのためだけに造られたかのような綺麗なお城だった。


(リーンハルトは300年前の英雄皇帝の名で、そこからちなんで城の名前が付けられた。ちなみにこのリーンハルト城が建つ花の大庭園の正式名称はアリティエリ大庭園で、アリティエリはリーンハルトの皇后だった女性の名よ)


 と、さらに補足してくれる。

 正門の両側には純白の鎧を着た騎士がいる。


(心配しないで、わたくしの姿はアーティーにしか見えないし、わたくしの声もアーティーにしか聞こえないから)


「はい……」


 騎士たちは皆、長い柄の大きな旗を持っていた。

 旗の模様は赤地で金色のドラゴンが炎を吐いている図柄。


「フラッグアップ!」


 と、一人の騎士が大きな声で言うと、左右の騎士たちが旗を掲げる。


「サイドステージ!」


 次にそう言うと、正面を向いていた騎士たちが横を向く。


「フラッグベル!」


 最後にそう言うと、左右の騎士たちが旗を斜めに倒し、旗のトンネルを作る。


「ジェーダス帝国第一皇女ソクラリス殿下御入来!」


 その言葉とともに、豪華で大きな扉がゆっくりと開きだす。

 旗のトンネルの向こうに、きらびやかな城内が見えてくる。


(さっ、行きましょう、堂々としてなさい)


「は、はい!」


 私は城内に足を踏み入れる。

 さっきまでヘビだった私が、正門から堂々と入城する。

 それは本当に奇跡のような出来事だった。


 そこは金箔を貼った彫刻と鏡がはりめぐらされたステンドグラス、絵画、レリーフといった装飾で覆い尽くされた絢爛豪華な大広間。

 幅は10メートル、奥行きは50メートル以上あるだろうか。

 天井には細かな装飾の燭台に豪華な美しいシャンデリアが輝き、天井画には愛らしい天使と美しい女神が無数の花とともに描かれ、それが物語のように、寓話のように、大広間の奥まで続いている。


「すごい……」


 と、ただただ驚くばかり。


(何をそんなに見惚れているの? ここはただのエントランス、通路よ)


 ソクラリスさまが呆れたような口調で言う。


「えっ、そうなんですか!?」


 と、思わず大きな声を出してしまう。


(あんまり大きな声ださないで……、人の目もあるから、バカだと思われてしまうわ)


「すいません……」


 私は小さな声で謝る。

 今思ったけど、私の心の声はソクラリスさまには届いてないよね? ソクラリスさまの声は直接頭に響くのに。

 あの、ソクラリスさま? 

 と、心の中で彼女を呼んでみる。


(……)


 ソクラリスさま! 


(……)


 聞こえてないみたい。


「ソクラリスさま?」


(うん?」


 やっぱりそうだ、口に出して言わないとソクラリスさまには聞こえないんだ。

 ということは、周りに人がいるときは、どうやってソクラリスさまと会話をすればいいんだろう、ひとりでしゃべっていたら、おかしい人と思われるよね、と、私は考え込む。


(堂々としてなさい、アーティー)


 うつむく私に萎縮していると思ったのか、ソクラリスさまがそう言う。


(その体は世界一美しい、この空間にいる誰よりも美しい、皆が羨望の眼差しを向ける、そのことを自覚して、胸を張って、自信を持って、まっすぐ前を見て堂々としてなさい)


 と、彼女が励ましてくれる。

 誰からも愛されるように、誰よりも美しい容姿を。

 その言葉を思い出し、鏡に映る自分を見る。

 少し青みがかった銀色のまっすぐな長い髪と、ピンク色に近い淡赤紫色(たんせきししょく)の瞳、そして肌は白く透き通るようで、顔立ちは美の具象化そのもの。

 世界一美しい、その言葉に嘘偽りはなく、きっと誰からも愛される、そう信じられるのに十分なほどだった。

 なんか、アーティーよかったねって女神さまが祝福してくれているような気がしてきた。

 そう感動していると、


(先を急ぎましょう、舞踏会が終わってしまうわ)


 と、ソクラリスさまに急かされた。


「は、はい!」


 少し足早に歩く。

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