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第5話 たった二人の孤独な存在

(それと、一番大事なことだけど、わたくしの体にヘビのあなたの魂が入って操作していることは誰にも話してはいけないわよ。これは絶対よ、わたくしとあなただけの秘密)


 と、彼女がさらに話を続ける。


「絶対ですか?」


 聞き返す。

 世間体とか恥ずかしいとかそういうことだろうかと疑問に思う。


(もちろん、ヘビがわたくしに成り代わっているとなったら、皇女としてのわたくしの立場も危うくなるでしょうけど、それだけが理由ではない、真の理由は別にある)


 彼女はそこで一旦言葉を切り、間を空ける。


(魔法というものは、制約が多ければ多いほどその効力も増す。わたくしはあなたとの入れ替わりの魔法を成功させるためにさまざまな制約を課した。そのひとつにこういうものがある。入れ替わりは絶対に秘密にしなければならない、もし、他者にそのことが露見した場合は、即座に入れ替わりの魔法は解除され、わたくしの魂は元の体に戻り、わたくしの体に入れられた魂は行き場を失い、魂だけとなり、永遠にこの世をさまようことになる……)


 魂だけとなって永遠にこの世をさまよう……。


(あなただけペナルティーが大きいように見えるけど、わたくしも同じようなものよ。その体には隷属魔法(パーペス・ペイン)がかけられている。つまり、解除もしてないのに、その体に戻るということは、また再度、悪の手先の言いなりになるということを意味している。しかも、今度は逃げる術はない、さっきも言ったように、入れ替わりの魔法は一回だけしか使えない、その体に戻ったら一生奴隷よ)


「あの、アーティーが言わなくても、普段の言動でソクラリスさまの体にアーティーが入ってるってバレてしまうのではないでしょうか?」


 質問してみる。


(それは大丈夫よ。あくまでもあなたが自分で私はヘビです、と自白しなければ、どんなにバレバレでも魔法は解けないはずだから。あなたは口をすべらせないかだけ注意しておきなさい)


 と、彼女は返答してくれる。


「は、はい……。あと……」


(まだなにか質問はあるの?)


「ええっと、名前、私の名前はあなたじゃなくて、アーティーです」


(なにそれ?)


「あなたじゃなくて、アーティーと呼んでほしいです!」


 と、勇気を出して言ってみる。


(はいはい、アーティーね、わかったわアーティー、これからそう呼ぶわ)


「ありがとうございます!」


 嬉しくなり明るい口調で言う。


(アーティーとわたくしは運命共同体よ。アーティーがしくじればわたくしは死に、わたくしがしくじればアーティーは死ぬ。互いの運命を共有している。それを忘れないことね)


「はい! がんばります!」


 とりあえず、私はソクラリスさまの命令で動けばいいのね。

 それだけはわかった。


(それにしても想定外ね、まさかヘビとは……、作戦を練り直す必要がありそうね……)


 と、ソクラリスさまが顎に手を当てながら考え込む。


(時間をかければかけるほどボロがでそうね……)


 そして、私を見る。


(ならば短期決戦で勝負を決めるしかない)


 ソクラリスさまが決意をしたような表情で言う。


(作戦はそうね……、隷属魔法(パーペス・ペイン)が解けていないと敵に思わせておいたほうが動きやすいけど、それはわたくしの性にあわない。なので、その逆をする。敵に隷属魔法(パーペス・ペイン)が効いていないと見せ付け、宣戦布告をする。正面から陰謀を打ち砕いてみせる)


「おお……」


 かっこいい、と、思わずパチパチと拍手をしてしまう。


(ふふん)


 と、彼女も満足そう。


「でも、誰が隷属魔法(パーペス・ペイン)をかけた犯人かわかってるんですか?」


 質問してみる。


(目星はついている。我がジェーダス帝国の大貴族、エメラルド公ナヴィス・ローゼア、彼が第一容疑者よ)


 ソクラリスさまが自信満々に言う。


「何か証拠はあるんですか?」


(証拠はないけど、動機はある。彼はジェーダス帝国を、いえ、現皇帝とその娘であるわたくしを心から憎んでいる。エメラルド公ナヴィス・ローゼアはわたくしのいとこにあたる。彼の父親は前皇太子で、わたくしの父はその弟。わたくしの父が皇太子の地位を利用して悪行を重ねる彼の父親から戦争によってその地位を簒奪したという経緯がある。そして、彼の父親は幽閉され失意のうちに亡くなったと聞く。そのことで彼はわたくしたち親子を逆恨みしている。動機としては十分よ、本来自分の物になるはずだったジェーダス帝国を奪われたと思っているのよ)


「なるほど、奪われた物を取り返したいと思っているってことですね……」


(そう。でも、自分ひとりの力ではどうにもならないから、外国の、巨悪の手を借り、悪の尖兵となって、恨みのあるわたくしに隷属魔法(パーペス・ペイン)をかけたというわけよ。それ以外にもさまざまな陰謀があったけど、ジェーダス帝国の高位貴族ならば可能なことばかり。すべての事柄がエメラルド公ナヴィス・ローゼアが犯人だということを指し示している)


 よくわからないけど、


「間違いなさそうですね……」


 と、答えておく。


(ええ、ただ彼の気持ちもわからくもない、純粋に父親の仇を討とうとしているだけかもしれないし。でも、だからといって、ジェーダス帝国の善良な国民を巻き込んでいいとはならない、彼のやろうとしていることは間違いなくジェーダス帝国の国民にとってよくないことよ)


「それはなんとかしないといけませんね……」


 私は理解できなくて、話を合わせることに精一杯。


(彼は今、のんきに舞踏会に興じている頃だわ。今からそこに乗り込んで、宣戦布告してやりましょう)


 と、ソクラリスさまが、素敵な音楽が流れてくる、素敵な白亜の城のほうを指差して言う。


「え? 今からですか?」


(そうよ、一分一秒たりとも無駄にしてられない、わたくしはジェーダス帝国二千万の命を背負っているのだから)


 強い口調で言う。


(すべて守ってみせる、すべて諦めない、わたくしの未来も、ジェーダス帝国全国民の命も、もちろん、アーティー、あなたの命もよ。二兎追う者は一兎も得ず、されど、二兎追う者だけが二兎を得る。それがわたくしの座右の銘よ、覚えておきなさい!)


「はい! 胸に刻んでおきます!」


(さぁ、行きましょう、アーティー!)


「はい!」


 私たちは、あの白鳥のごとく白亜の城へ向かう。

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