第4話 ソウルスナッチ
「えっ?」
彼女の質問に、今までどこの誰かも知らないで話していたのですか? と、驚いて聞き返してしまう。
(残念ながら、あなたのことは何も知らないわ、初対面よ。古代ドラゴン言語魔法もソウルスナッチも自動発動なの。わたくしの体と適合する魂を自動で探索し、見つけたら自動で魔法を発動して、その魂をこの体に入れたの。なので、あなたがどこの誰だかわからない、自己紹介をしていただくと助かるわ。どちらのご令嬢なの?)
「ええっと、アーティーです」
(どちらのアーティー?)
「白ヘビのアーティーです」
(うん?)
彼女は困惑したような表情を浮かべる。
(白ヘビのアーティー……、白ヘビ……、聞いたことのない家門ね……、少なくとも、ジェーダス帝国にはそのような貴族家はないわ。もしかして……、外国のご令嬢なの? どちら? デシャンベル王国? それとも、クリシュアナ王国? もしかして、もっと遠方の……、ダイスグラム帝国のご令嬢とか……?)
「いえ、あの、どこでもなく、ここです」
(ああ……、ごめんなさい……、平民のご出身なのね……、お住まいはどちらに?)
「ですから、ここです」
と、私は泉水を指差す。
(ここ?)
まじまじと泉水を見つめるソクラリスさま。
そして、怪訝そうな表情で再度私を見る。
(ここに住めるわけないでしょう? からかってらっしゃるの? こんなところ、人間の住むところではないわ)
と、少し怒ったような口調で言う。
「うそじゃないです、私はここに住んでました、そもそも人間じゃないんです、ヘビです、白ヘビなんです! 白ヘビのアーティーなんです!」
私は一生懸命釈明する。
(はぁ……? そもそもヘビってなに? もしかして……、あの……、にょろにょろのヘビのこと? よく草むらや沼地とかにいるやつ?)
「はい! たぶん、そのにょろにょろのヘビです!」
ソクラリスさまの目が点になる。
そして、固まる。
ゆうに十秒以上固まったあとに、膝から崩れ落ちる。
(あ、あんまりだわ……、ヘビって……、こんなのひどすぎるわ……)
と、地面に両手をつきながら言う。
(お、終わった……、終わってしまった……、わたくしの人生も……、ジェーダス帝国も……、なにもかも……)
なんか、ソクラリスさまのひどい落ち込みように、悪いことをしたような気がしてきて、すごく胸が痛んだ……。
「あの……、私のことはお気になさらずに、また別の誰かと魂を入れ替えてください……」
私は申し訳ない気持ちになり、そう提案した。
(それができたら苦労はないわ)
「できないんですか?」
(ええ、できないわ。すべての魔力を使った一回だけの魔法。秘宝クラス・オ・ダールは魔力を蓄えることのできる器、それに先祖代々数百年かけて大量の魔力を注ぎ蓄えてきた。それを使ったのよ。次、古代ドラゴン言語魔法やソウルスナッチを使えるようになるのは数百年後)
「そ、そんなぁ……」
途方に暮れる。
(それにしても、どうしてよりによってヘビなのよ……、せめて人間ならなんとかなるのに……、これだけ大勢の人間がいるのに、すべてすり抜けて、よりによってヘビなんかに……)
と、彼女は独り言のように話し出す。
(ちょっと待って……、人間なら誰でもいいのに、なぜか全員すり抜けてヘビにソウルスナッチが使われた……。もしかして、人間には使えなかったってことなんじゃないのかしら? ソウルスナッチは古代魔法王国ゼフィロスの大魔術師たちが編み出した非常に強力で優秀な魔法、もっとも最適なソウルスナッチ相手を見つけるはず……、そこから推測すると、おそらく、人間では駄目だったんだ、隷属魔法の影響を受けない魂は人間にはいなかったんだ。だからヘビだったんだ……)
彼女は謎が解けたといった表情で私のほうを見る。
(運が悪かったとかそういうわけではなく、敵がそこまで強大だったってことなのね!)
と、大きな声で言い、立ち上がる。
なんか、よくわからないけど、立ち直ったみたい。
(まだ終わってない! 勝負はこれからよ! 賢者は困難の中にチャンスを見る、愚者はチャンスの中に困難を見る。それがわたくしの座右の銘よ、覚えておきなさい!)
「はい! 胸に刻んでおきます!」
私のその返事に、うん、と、ソクラリスさまはうなずく。
(とりあえず、あなたはわたくしの手足となって働きなさい)
私の表情などをじっくり観察したとに彼女が言う。
(あなたに拒否権はないわ。言い忘れたけど、いろいろな制約があるから。まず、あなたの本体だけど、それは安心して、無事取っておいてあるから、位相をずらした遮蔽空間に保存してある。なので、わたくしにかけられた隷属魔法を解除して、わたしくしがその体に戻れば返してあげるわ)
そういえば、私のヘビの体はどうしたのかと気になっていたけど、そういうことだったのね。
ということは、隷属魔法を解くまで私はソクラリスさまの体に居られるということね。