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第3話 もうひとりのお姫さま

「うそっ!?」


 と、私は反射的に立ち上がる。


「えっ……、しゃべれる……」


 それも、びっくりするくらい綺麗な声で。

 私はきょろきょろと人間の姿になった自分の体を見たり、髪の毛を触ってみたりする。

 髪の毛の感触は絹のようになめらかで、ほんのり温かい……、その感覚が手から伝わる。


「信じられない……」


 確かに私の体は人間になっていた。

 誰からも愛されるために、誰よりも美しい容姿を、誰からも必要とされるために、誰よりも高い能力を、その二つを女神ディアドラより授かる、その言葉を思い出す。


「まさか……」


 本当に……? 


(ようこそおいでくださいました、ジェーダスの救世主よ)


 そのとき、頭の中に直接声が響いた。

 私は驚き、周囲を見渡す。

 すると、そこにひとりの女性がいた。

 それも、女神さまかと思うほどに美しい女性が。

 でも、その姿に見覚えがある。

 そう、今の私とまったく同じ容姿をした女性が目の前に立っていたのだ。

 この上なく美しいお姫さまのような容姿で、服装まですべて瓜二つ。

 けれども、違いもある。

 私とは違い、彼女の体は幽霊のように半透明だった。

 それがふわふわと宙に浮いている。


「あ、あの、女神ディアドラさまですか……?」


 と、私はたずねる。


(いいえ、違います。あなたは今、とても混乱していることでしょう。でも、落ち着いてください、順を追って説明します)


 彼女はそう言い、優しく微笑む。


(わたくしの名前はソクラリス・セフィーデリア・ジェーダス、ここ、ジェーダス帝国の第一皇女です)


 皇女、お姫さま……? 


(今、この花の大陸には巨悪がのさばり、我がジェーダス帝国もその脅威にさらされています。わたくしも抵抗を試みましたが、力及ばず敗れ、隷属魔法パーペス・ペインの餌食となってしまい、彼らの傀儡に成り下がってしまいました……)


 彼女は少し目を伏せる。

 だけど、それも一瞬、すぐに毅然とした表情と口調で続きを話し出す。


(しかし、わたくしはこのようなことになることを最初から予見しており、その隷属魔法(パーペス・ペイン)をかけられたの時のための準備をしていました。それが、今のこの状況です。隷属魔法(パーペス・ペイン)は体を媒体として魂を縛る。ならば、体と魂を分離させればいい。わたくしは皇室に伝わる秘宝クラス・オ・ダールを媒介とし、古代ドラゴン言語魔法を使い、わたくしの魂を体から引き剥がし、さらに、からっぽとなってしまった体はソウルスナッチによってあなたの魂を入れて、あなたが自由に動かせるようにした。いわゆる魂の入れ替わりの魔法を使用したのです)


 と、彼女は自分の仕事ぶりを褒めてほしそうな少女のような表情で言い切る。


「おお……」


 その姿に思わずパチパチと拍手をしてしまう。


(ふふん)


 と、彼女も満足そう。

 理解が追いつかないけど、つまり、簡単に言うと、皇女ソクラリスさまは隷属魔法(パーペス・ペイン)をかけられていて、そこから解放されるために、体から魂を抜き出し幽体となって、魂がなく動かなくなった体は私の魂を入れて動かせるようにした、ってことでいいのかな……?


(事情はご理解していただけましたか、ジェーダスの救世主よ?)


「は、はい」


 と、思わず返事をしてしまった。


(そう、それはよかったわ。これから、わたくしは幽体のまま背後霊のようになって後ろからあなたに指示を出します。ああ、でも、安心してください、わたくしの姿はあなたにしか見えませんから、怪しまれることはありません。あなたはわたくしの指示に従い、わたくしの体を操作してください。そうして、わたくしに隷属魔法(パーペス・ペイン)をかけた犯人を見つけ出し、隷属魔法(パーペス・ペイン)の解除方法を吐かせて、さらにはその背後にいる巨悪を懲らしめ、その野望をくじきましょう。わたくしとあなたで、悪の魔の手からこのジェーダス帝国を守るのです。それはジェーダス帝国の国民のみならず、ひいては花の大陸に住まうすべての人々の生命と幸せを守ることにつながるのです。さぁ、この手を取って、ともに戦いましょう、ジェーダスの救世主よ)


 と、ソクラリスさまは力強く私に手を差し出す。


「は、はい!」


 私はその壮大な話、まるで星座のルビーアイの伝説みたいな話に圧倒され、すぐさま彼女の手を取ろうとする。

 でも、ソクラリスさまは幽霊のように半透明で、その手を取ろうとしてもすり抜けてしまう。


(まっ、しょうがないわ)


 と、彼女は手を引っ込める。

 そして、ソクラリスさまは満足そうにその綺麗な淡赤紫色(たんせきししょく)の瞳で私を見つめたあと、


(それで、あなたは誰なの?)


 と、質問を投げかけてくる。

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