七百年の奇跡
初投稿です。
注意書き
・一部流血表現が含まれます
・死について触れている箇所があります
・ヴァンパイアについて独自の設定があります
月明かりのないビルの上からターゲットを決める。できれば女の方が落としやすいため俺は白いコートを羽織った女に狙いを定めた。
そのコートが今度は紅く染まるとは梅雨知らず呑気に闊歩している女に舌舐めずりをし、目の前に降り立った。
「こんばんは。お嬢さん。今宵は月明かりもなくいい夜ですね。」
さぁ、その身を捧げろ。俺の命の糧になる為にな。
『昨夜未明、またしても何者かに首を噛まれた痕のある、白いコートを着た女性の遺体が見つかりました。警察に加えエクソシストはヴァンパイアの仕業とみて、引き続き調査を続けていくもようです。』
またあのニュースかと溜息をつく。周りは(特に女性陣)恐れ慄いているけれど、私はそもそもヴァンパイアの存在を信じていない。とはいえその場の空気に合わせ相槌を打つくらいはする。その程度だ。今日の分の事務仕事も無事終え、いつも通り帰路に着く。
はぁあんなニュースに踊らされてたまるか。こちとら仕事でのストレスだってあるんだぞ。心の中で悪態をつきながら部屋着に着替えて湯船に浸かる。やっぱり風呂は気分が晴れる。
「本当にヴァンパイアがいたらみんな食われてるっての」
パシャンと音を立てて立ち上がり、着替えを済ませその日も身を任せ眠りについたのだった。
ふん、あの女も違ったか。食事はまぁまぁだったからよしとしよう。最近は寒くなり始め、体力の回復が遅い。正直物足りない。しかし今から獲物を探そうにも面倒だ。その場から立ち去ろうとした時、同胞の銀髪男が現れた。
「よぉ。今日もしけた顔をしているな」
「うるさいぞクロア」
「いや最近は特に顔色が酷いぞジーク」
「ふん。この程度どうとでもなる。」
さっさと話を終わらせようと足を踏み出した途端蹈鞴を踏んだ。慌てた目の前の銀髪男に不本意ながらも支えられ、事なきを得た。
「お前言った側から倒れそうになってるぞ。本当に大丈夫か?餌持ってくるか?」
「要らん。お前とは趣味が合わんからな。」
「はぁお前の偏食も相変わらずか。俺はなんでもいいからな。拘ったところで味なんぞ分からん。」
「貴様の嗅覚は馬鹿なのか?」
「おうおう言うじゃねぇか死にかけが」
ぐうの音も出なかった。ヴァンパイアにとって食事は命に直結する。俺は他の者以上に物好きらしく、その分摂取量が少ないため寿命は縮むばかりだ。クロアは憐れみの目を向けた。
「お前、冗談抜きでこのままだと死ぬぞ。それでもいいのか?」
「愚問だな。俺はそんな阿呆な死に方をすると思われているのか?」
「心外だって顔すんな。マジで言ってんだからよ」
「ふん。俺は魂の伴侶とやらを見つけない限りはこのスタンスを変えるつもりはない」
「はぁまだそんな絵空事信じてんのかよ。ンな事言ってっとマジで砂まっしぐらだぜ?」
「何度も言わせるな。俺の両親がそうだったと言っているだろう。」
「いやうん千年前の話を信じろっていう方が無理があるっつーの」
類は友を呼ぶようにこいつのスタンスも変わらんらしい。真実なのにな。あの2人は正しく魂の伴侶だった。それは俺がよく知っている。
「もういい。貴様と話していても埒があかん。俺は寝る」
「あっおい待てって!」
「なんだまだ話があるのか?」
「…もし本当に魂の伴侶っつーの見つけられたらお前は生きながらえるのか?」
「そうだな。幾万年だって生きられるだろうさ。」
「へぇ〜じゃあ俺も一緒に探してやっても」
「結構だ」
素気無く断り、俺は今宵の寝床へ向かいに飛び立った。魂の伴侶に想いを馳せながら。もう七百年も探し回り、半ば諦めているが。
通常は血を吸われると死に至る。稀に生き残れる者が居るが、吸われた分寿命は縮む。
しかし魂の伴侶は吸われた側もヴァンパイアとなり、互いの五感全てが共鳴し、血を吸えば忽ち寿命が数百年だったのが数千年に伸びるのだ。その代わり互いの血以外では満たされることはなく、他の者の血を吸えばその場で砂と化す。
大抵の者は存在すら信じておらず、血が足らずに死んでいく。巷では不死と云われているが実際は異なる。大量の血を吸ったとしてもそれが魂の伴侶でなければ、血に飢え、失意の中数百年で一生を終える。
俺らヴァンパイアにとって魂の伴侶とはそれだけ価値のある存在なのだ。まぁ見つかる気はしないが。それこそ数億分の一の確率と言われているからな。絵空事と詰られても仕方ない。
俺の両親を除いては。
「はぁクロアのせいで余計なことばかりが頭に浮かぶな。こういう時はさっさと寝るに限る。今日はここで休むとしよう。」
朝日が昇る前に辿り着いた新たに発掘したビルの屋上で漸く横になったのだった。
ジリリリリと無情にもアラームの音が響き渡る。もう起きる時間とか信じられない。起きたくないと全身が言っているから休みますと言えたらどれだけ良かったか。
「起きるか…」
眠い目を擦りながら身支度を進める。ご飯は軽くすませ、ナチュラルメイクでいいだろうとメイクはささっと終わらせる。仕上げにセミロングまで伸びた黒髪を纏めれば身支度完了だ。
「行ってきます」
虚しくも誰も居ない部屋に向かって呟き、いつも通り出勤したのだった。
朝礼を終え辺りを見回すと、ー人の新入社員が足りていないことに気づき、何となく胸騒ぎを覚え、同僚に声をかけた。
「あの、今日1人足らなくないですか?」
「あぁ実は昨日失踪したらしいよ。」
「え!?」
「しっ!これうちの部署だけで公になってないんだから。親御さんがいくら待っても帰ってこないから失踪届けを出したんだ。まぁまだそうと決まった訳じゃないし、きっとどこかで気晴らししてるんじゃないかな?」
「あの子真面目そうでそういうタイプに見えませんでしたけど…」
「見た目はね〜中身は分からないじゃん?」
「そう…ですね。」
違和感を覚えつつも結局その日は何も言えずに仕事を終えた。
さて今宵も狩りの時間だ。何処へ行こうか。嗅覚を頼りに目ぼしいところは制覇してしまったし、もうここにはいないのかもしれないな。
ある程度妥協してターゲットを定めるか。そう思った瞬間、一人の女が目に入った。この全身の快感はは間違いなくそうだと伝えてくる。待っていろ。俺のたった一人の魂の伴侶。そして目の前へ降り立ったのだった。
はぁ今日は一段と疲れた。今朝の一件のせいでこうも疲労が蓄積するとは思わなかった。いつもより重い足取りで帰路に着く。マンションまで後少しというところで全身に快楽が押し寄せた。
「なっ何これ!?」
「こんばんは。お嬢さん、いや魂の伴侶と言うべきか。」
「あんた、誰?」
「俺はジーク。さぁ魂の伴侶よ。俺と共に生きてくれ。」
「悪いけど私具合悪いから失礼させてもらう。」
「お嬢さんのその具合の悪さに俺が関係していると言ったら話を聞いてくれるか?」
「はぁ?何言ってんのあんたってえ!?空飛んで」
突然ショートの黒髪を靡かせながら現れた男が飛び立った途端、身体の疼きが弱まった気がした。どういうことなの?そして再び降り立ち手を取られた。
「これで信じてくれたか?魂の伴侶よ」
「…半分は。兎に角事情を説明して。話はそれからよ。『ヴァンパイア』」
「ジークだ」
「ヴァンパイア」
「む…まぁいい。貴様の家まで案内しろ。」
「命令形好きじゃないからやめて。あと貴様じゃなくて白月暁音って名前があるから」
不満そうに着いてくる不審な男に怪訝な目線を向けるが、特に気にしている様子はなかった。本当なんなの?厄日?
「では、『アカネ』」
「何?命令しようたって無駄よ。従う気は更々ない。」
「血を吸わせてくれ」
「お断りよ!!!!!」
スパーンといい音を立てて平手打ちしたのは正しい判断だったと思う。男は気にせずただ頬を摩るだけで異様に大人しかった。
「とりあえず、上がって」
「あぁ」
「靴、脱いで」
「分かった」
「そこ、座って」
「あぁ」
「貴方日本を知らないの?」
「知らん」
「そう。まぁいいわ。それよりこれどうにかしてよ。」
リビングに案内して、小さなローテーブルを挟んで腰を下ろし尋ねれば、先程と同じ答えが返ってきた。
「血を吸われればその疼きとはおさらばできるぞ。」
「嫌。絶対に嫌。大体私はこれまで人間として生きてきたの。なのに今までの生活を捨てろなんて言わないでくれる?」
「…貴様、アカネは俺が怖くないのか?」
「見た目は殆ど人間と同じじゃない。それにあんたに血を吸われるくらいならニンニクお腹いっぱい食べてやる。」
そう宣言すると、目の前の男は腹を抱えて笑い出した。
「くっははっははははは!!!」
「なっ何がおかしいのよ!」
「いやっこんな奇人が俺の探し求めていた者とは思わなくてな!ははは!」
「変人で悪かったわね!!!出てって!!!十字架切るわよ!!!」
「因みに俺には十字架もニンニクも効かない。鏡もだ。」
ドヤ顔で言いやがった。
「何それ!?あんたそれでもヴァンパイアなの!?」
「そうだが?」
「何か問題でも?みたいな反応しないで!じゃあ日光は!」
「当たれば死にはしないが寿命が縮む。なるべくなら当たりたくないな。」
「益々ヴァンパイアなのが信じられないわ…」
「それもこれも両親のおかげだな。」
「どういうこと?」
「話せば長くなるが」
「手短に」
「魂の伴侶の間に産まれた子供だからだ」
「魂の伴侶はチートか!?」
そう叫べばまた大声で笑い始めた。もう何なの。この男と話していると私の中での常識が悉く崩されていく。本当に今日は厄日だ。
とりあえず今夜は離れてもらって私はベッドへ潜った。血を吸わせることは断固として拒否し、人生を守り抜くと誓って。これから血を吸わせろと毎日のように許可を取りに来て、それを淡々と断る日々が続くとは思いもせずに。
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