表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

夏のホラー2023『帰り道』

湧いてくる金

作者: 家紋 武範

 金がない俺はパチンコ屋の帰り道でため息をつく。いつものように有り金は全部使ってしまった。家賃も光熱費も払えない。腹の虫が小うるさい。


「あー、どこかに金が落ちてねーかなー」


 ふと金の音が聞こえた。こういう切羽詰まった時には感覚が研ぎ澄まされる。

 俺は自分のカンを信じて脇道に逸れ、藪の中に入る。


「たとえ小銭でもカップラくらい買えればいいや」


 空き腹を抱えて前に進むと、ひっそりと小さな神社、があった。いや寺かも知れない。

 無人の神社のくせして、目の前には賽銭箱がある。


「勘弁してくれよ。さらに俺から小銭を巻き上げようてのかい?」


 苦笑して今来た道を戻ろうとしたが、ハッとした。


「そうですか神様。こんな俺を哀れに思って金を恵んで下さるんですね?」


 俺は賽銭箱の前にしゃがみこんだ。この手の箱の下は底が抜けてる。箱を取ってしまえば、そこにはお宝があるって寸法なのだ。俺は迷わず箱をどける。するとそこには月明かりに光る五百円玉。


「しめた!」


 俺はそれをポケットにしまい込む。すると五百円のあった場所に、また五百円がある。


「へへ、やりィ」


 それを掴むと、またもや下には百円があった。さすがにおかしい。高さ的に変だなと思って、見つめていると『チャラ……チャラ』と地面から金が湧いてくる。さらには札まで出てきた。


「マジか! 神様、ありがとうございます!」


 どんどん出てくる金になりふり構ってはいられない。ネルシャツを脱いで袖や襟を長い雑草で結び、簡易な袋を作って金を押し込む。


「すげぇ! すげぇ! 諭吉先生まで出てきやがる!」


 もはや小銭に構ってはいられない。汗をかきながら湧いてくる金と奮闘していると、金の間から手が出てきて俺の両腕を掴んだ。


「あっ!」


 と言う間に地面に引きずり込まれると、そこには赤々と燃える空間が広がり、俺は痩せ細った人間に押さえられていた。

 ソイツらは怒気を含んで叫んだ。


「この野郎! あれは俺たちが生前に残した金で、地獄の沙汰を減刑して貰うため、神様に納めるの浄財(じょうざい)だ! それをこそこそ盗みやがって、どうしてくれる!」


 う。ここは地獄でコイツらは亡者たちなのだ。俺は急いで地上に戻ろうと上を見上げると、穴はみるみる小さくなる。


「お前のせいで、俺たちの減刑はされないがちょうどいい。腹いせにお前をなぶってやる。ここには永遠の苦しみしかない。お前の首を折ろうが腹を裂こうが誰も咎めやしないんだ。うひひひひ」


 薄ら笑いを浮かべるソイツらは、俺の髪を掴むと、燃える大地に引き倒して俺を──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは笑える! でも、小銭をくすねる程度のささやかな悪事について、後ろめたい記憶が私にもあるから、段々笑いが凍り付いてきますね。 [気になる点] 何もありません。 [一言] 日常に怪異を引…
[良い点] 聖徳太子だったらなんだこの玩具はになったんですかね? 楽して金を得ようとした奴の末路、私も気をつけなくては。
[良い点] 地獄の沙汰も金は次第。 ですね。 ところで。 最近テレビで、賽銭泥棒の犯行画像が良く放送されています。 彼らもきっと地獄に落ちるのでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ