湧いてくる金
金がない俺はパチンコ屋の帰り道でため息をつく。いつものように有り金は全部使ってしまった。家賃も光熱費も払えない。腹の虫が小うるさい。
「あー、どこかに金が落ちてねーかなー」
ふと金の音が聞こえた。こういう切羽詰まった時には感覚が研ぎ澄まされる。
俺は自分のカンを信じて脇道に逸れ、藪の中に入る。
「たとえ小銭でもカップラくらい買えればいいや」
空き腹を抱えて前に進むと、ひっそりと小さな神社、があった。いや寺かも知れない。
無人の神社のくせして、目の前には賽銭箱がある。
「勘弁してくれよ。さらに俺から小銭を巻き上げようてのかい?」
苦笑して今来た道を戻ろうとしたが、ハッとした。
「そうですか神様。こんな俺を哀れに思って金を恵んで下さるんですね?」
俺は賽銭箱の前にしゃがみこんだ。この手の箱の下は底が抜けてる。箱を取ってしまえば、そこにはお宝があるって寸法なのだ。俺は迷わず箱をどける。するとそこには月明かりに光る五百円玉。
「しめた!」
俺はそれをポケットにしまい込む。すると五百円のあった場所に、また五百円がある。
「へへ、やりィ」
それを掴むと、またもや下には百円があった。さすがにおかしい。高さ的に変だなと思って、見つめていると『チャラ……チャラ』と地面から金が湧いてくる。さらには札まで出てきた。
「マジか! 神様、ありがとうございます!」
どんどん出てくる金になりふり構ってはいられない。ネルシャツを脱いで袖や襟を長い雑草で結び、簡易な袋を作って金を押し込む。
「すげぇ! すげぇ! 諭吉先生まで出てきやがる!」
もはや小銭に構ってはいられない。汗をかきながら湧いてくる金と奮闘していると、金の間から手が出てきて俺の両腕を掴んだ。
「あっ!」
と言う間に地面に引きずり込まれると、そこには赤々と燃える空間が広がり、俺は痩せ細った人間に押さえられていた。
ソイツらは怒気を含んで叫んだ。
「この野郎! あれは俺たちが生前に残した金で、地獄の沙汰を減刑して貰うため、神様に納めるの浄財だ! それをこそこそ盗みやがって、どうしてくれる!」
う。ここは地獄でコイツらは亡者たちなのだ。俺は急いで地上に戻ろうと上を見上げると、穴はみるみる小さくなる。
「お前のせいで、俺たちの減刑はされないがちょうどいい。腹いせにお前をなぶってやる。ここには永遠の苦しみしかない。お前の首を折ろうが腹を裂こうが誰も咎めやしないんだ。うひひひひ」
薄ら笑いを浮かべるソイツらは、俺の髪を掴むと、燃える大地に引き倒して俺を──。