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第7章 特殊能力


「そういや、僕を心配してくれてありがとう、ハビット。

 だけど、僕がアレ((シリカ))に目を付けられる心配はないよ。僕は自分に認識阻害魔法を掛けていたから、他人には僕が認識できなかった。

 だから、あの言葉を発した人間は、僕の側にいた君だと勘違いした者も多いんじゃないかな。そう、君、これで一躍人気者だよ」

 

「エーーーッ!」

 

 ラフェールの言葉にハビットはまたもや悲鳴を上げた。

 王族関係者に睨まれたら、自分の将来はもう終わりだ。

 これで王城勤めも普通の社交界デビューも、もう無理。

 まだ十六だというのに、自分の人生は詰んでしまった。ハビットがガクンと肩を落とすと、その両肩にラフェールがポンと手で叩きながらこう言った。

 

「そんなに悲嘆するなよ。大丈夫。君の輝かしい将来が、あんなことくらいで潰れる訳がないじゃないか」

 

 すると、ハビットは顔を上げると、恨めしそうな顔で友人の顔を見た。

 

「よく言うよ。自分は彼女が怖いからって、最初から自分に認識阻害魔法を掛けてからあんな発言したくせに。

 それに、僕を馬鹿にしているのか? 僕にはどうせ元々明るい将来なんてないんだから、今更落ち込むなって言ってるのか?」

 

 すると、ラフェールは珍しく焦っているような、困ったような顔をして早口でこう弁解した。

 

「ちょっと待てよ。もし君にアレや王族から本当に圧力がかかったら、僕が友人として全力で守るから安心しろよ。

 大体、周りの生徒達にアレの本性を知らしめたかったから発言したんだけど、アレが怖いからって、身元をバレないようにしたわけじゃない。

 あくまでも僕が目立つと、ミアとの関係性が露見する可能性があるから、少し予防線を張っただけなんだよ。そもそも君が僕に話しかけてくるなんて予想外のことだろう?

 

 それに、君には本当に明るい将来が待っていると思うぞ。

 僕は、君自身がそれに気付くまで放置しておこうと思っていたんだ。だけどこの際だから教えてやるよ。

 君ってどうも自己認識ができていないというか、自己評価が低そうで、このままだとずっと気付かなそうだから」

 

「何を?」

 

 思いも寄らない話の展開にハビットは怪訝そうな顔をした。

 

『明るい将来など、さっきの事がなくたってあるわけがない。

 実家は借金だらけ。僕自身魔力量は少ないし、座学や実技の成績も平凡。そんな自分が就ける仕事なんて、良くて地方の役人くらいだろうさ』

 

 しかしそんなハビットは、ラフェールからとんでもない話を聞かされた。


 

 ラフェールが言うことには、ハビットは特殊能力のホルダーだというのだ。

 特殊能力ホルダーだと?

 僕は借金くらいしか持っちゃいぞ、とハビットが吠えた。するとラフェールから、


「それではさっき厨房前の廊下での発言者が何故僕だとわかったんだい?」


 と笑いながら尋ねられてハッとした。

 

 確かラフェールは、自分自身に認識阻害魔法を掛けていたと言っていた。しかし、ハビットには声だけでなく、ちゃんとラフェールの姿が見えていた。

 あれ? と彼は首をひねった。

 

「自分でこんなこと言うなんて、まるでナルシストみたいで嫌なんだけど、君って僕のことをリスペクトしてるよね?」

 

 ラフェールは少し顔を赤らめて言ったが、当然だとばかりにハビットは頷いた。そして君を知る者は誰だってそう思うだろう、と答えた。

 しかしラフェールは首を横に振った。

 確かに自分に近寄って来る者達は多いが、それは単に自分の容姿や家柄を気に入っているだけで、決して自分の能力に気付いているからではないと。

 

「そんなことはないだろう。少し注意して君を見ていれば、君がどんなに隠そうとしていたって、こんなに凄い魔力を見たり感じたりしたら、誰だって君に畏敬の念を抱くに決まっているよ。 

 それに話をしてみれば君の頭の良さにすぐに気付くだろうし、試験で手を抜いているのなんて丸わかりじゃないか」

 

 ハビットが当然のようにこう言うと、ラフェールは困ったように笑った。

 

「それがそうでもないんだよ。

 君だって形式上僕の自称従者であるラタンが、仮にも主人でもある僕をどう思っているか分かっているだろう?」

 

「あっ!」

 

「君くらいなんだよ。この学院の中で僕の本当の魔力の力を見抜いている生徒は。あとは学院長と魔術学のマートリー先生くらいかなぁ」

 

 ハビットは意味が分からず困惑した。そしてラフェールを見つめながら言った。

 

「何故皆にはわからないんだ。

 少し目を凝らせば、ラフェールの体からは真っ青な激しい火の魔力と、金色の眩い光の魔力が溢れ出しているのが見えるじゃないか。

 そりゃあ、魔力を使わない時は少量だけどさ」

 

 するとラフェールは微笑みながら言った。

 

「魔力を感じることができる人間はそこそこいる。だけど、魔力を見える人間は滅多にいないんだよ。君は知らないみたいだけれどね。

 千人もいるこの学院にだって、その力を持っている者はたった三人しかいないんだよ。

 学院長と僕と、それに君だよ、ハビット……」

 

「そんな馬鹿な……」

 

 茫然自失となったハビットに、ラフェールはさらに衝撃的なことを言った。

 

「君は君を大切に育ててくれたご両親に感謝すべきだね。

 普通の親の元に生まれていたら、今頃君は聖堂の奥深くに幽閉されていただろうからね」

 

 と。

 

 

 このコークレイス王国では、七歳の誕生日の日に、聖堂で『成長の祝福』を受けることが義務付けられている。

 

 当然子供が生まれると、親は聖堂にその誕生を報告しなければならない義務がある。

 しかしその子供の出生届は家族の名簿ではなく、子供だけの名簿に一旦収められる。


 そして七歳の祝福を受けた後で、ようやく家族の名簿に入ることになる。

 というのも、七歳までに亡くなる子供が多いため、七歳未満の子供は神の子と呼ばれ、形式上俗社会とは隔離された存在だとみなされているからだ。

 

 そしてようやく七歳を迎えると、子供は聖堂で『成長の祝福』を授かり、そこで初めて神の子からコークレイス王国の国民となり、その場で魔力検査を受けるのだ。


 平民の場合は大抵が魔力無しと判定される。微妙に保持している者もそこそこいるが、その程度なら一応注意事項を受けるが、さほど問題にはされない。

 しかし稀に希少な魔力やある程度水準を超えた量の魔力を保持していると、強制的に親から引き離されて魔術訓練施設に入れられる。

 そして、その子供達のほとんどは親とは縁を切らされ、貴族の養子にされたり、聖堂に引き取られる。

 

 ただし貴族の場合は、親が魔力持ちという場合が多いし、魔力持ちの子供の教育できる環境や資産があると判断されて、聖堂が口出すことはほとんどない。

 しかしそれでも例外もある。そう、特殊能力ホルダーとみなされた場合は、聖堂や国が強制的に関与してくるのだ。

 

 そしてその特殊能力ホルダーとは、睨むだけで相手に呪いをかけられる魔眼持ち、無意識に相手に好意を持たれる魅力持ち、魔力が見える魔力透視能力の持ち、そして魔力の影響を受けない魔力耐性の持ち主を指す。

 

 王族などによく現れる全属性持ちなどもかなり希少と言われるが、この者達はたとえ王族以外の者であっても、特殊能力ホルダーとは呼ばれない。

 いくら全属性持ちとはいえ、魔力を無効化できる魔力耐性ホルダーや、魔力透視能力ホルダーの前では所詮太刀打ちできないくらいのレベルだからだ。

 

 つまり特殊能力ホルダーは、ある意味、国家の存在を危うくする存在となりうるということで、聖堂や国が管理下に置こうとするのだ。

 ところがそのホルダーはなかなか見つけにくい。

 というのも、一般的な魔力の測定ならば、魔術検出棒や水晶玉などの魔術具で判定できるのだが、この特殊能力ホルダーのうち、特に魔力耐性ホルダーや魔力透視能力ホルダーはそれら測定器では見つけられないのだ。同じ能力を持つ者でないと。

 しかし、そもそもその能力者は数少ない上に王都の大聖堂にしかいないので、地方では自己申告でもしない限りは見つからないのだ。

 

「つまり、その数少ない特殊能力ホルダーの中でも君は貴重な存在なんだよ。両方持っているのだからね。

 本来そんな貴重な能力の子を排出した家は名誉とされるんだ。

 だから、君のご両親が大聖堂に進言すれば、君の家の借金なんて簡単に完済して余りある報奨金が出るほどなんだよ。

 だけど君の自由を守るために、ご両親はそれをしなかった。君は本当に愛されているんだね」

 

 ラフェールの言葉にハビット喫驚し、素直に信じられなかった。そして独り言のようにこう呟いた。

 

「両親は本当に僕の能力を知っていたのかなぁ」

 

 するとラフェールはそれこそ信じられないという顔をした。

 

「知っているに決まっているじゃないか。

 君、入学してすぐに僕の能力に気付いていたのに、ずっと黙っていただろう?それはどうしてだい?」

 

「どうしてって、他人の能力について勝手に喋っては駄目だと幼いころから両親にきつく言われているから。

 それって、貴族としての必須マナーなのだろう?」

 

「まあマナーといえばマナーだろうけど、それほど厳密に禁止されているわけではない。自分の属性魔法の話をするのはそもそも皆普通にするしね。学院の中でもそうだろう?

 でも、君は自分からは魔法について語ることはなかったよね。

 それは話してはいけないと、無意識下に教え込まれていたからだろう?

 

 では何故ご両親はそこまで徹底したのかというと、君が無自覚に目にした他人の魔法を、思わず口にしないようにするためだろうね。

 君がつい漏らしてしまって、君の能力が他人に知られたりしないように。

 

 ご両親は自分の子供のことを良く見ていて、性格もきちんと把握しているのだろうね。

 生真面目で遵法意識の高い君には頭ごなしに禁止するより、これはマナーだからしてはいけないよ、と諭した方が、それを守るとわかっていたのだろう」

 

 それはラフェールの推測にすぎなかったのだが、ハビットにとってそれは思い当たることばかりだった。

 幼い頃、両親から溢れ出す魔力を見る度に、きれい、きれいと僕がはしゃいでいたら、両親からありがとうと言われた後で、

 

「でも、お外では貴方が魔法を見てもそのお話はしないでね。

 もし人に魔法のことが知られると、お父様とお母様は貴方とは一緒にいられなくなってしまうから」

 

「どうして一緒にいられなくなるの?」

 

「他人の持っている魔法のことを口にしてはいけないという法律があるの。

 それを破ったら、お役人に捕まってしまうからよ」

 

「僕がお話をしたら、ぼくは捕まってしまうの?」

 

「いいえ。貴方はまだ子供だから捕まったりしないわ。でもその代わりに親であるお父様とお母様が捕まって、どこか遠いところへ連れていかれてしまうのよ」

 

「いやだよ、そんなの」

 

「お父様達もお前と分かれるのは嫌だ。

 だからそんなことにならないように、話さないように注意しようね」

 

 両親の言葉にハビットは頷いた。大好きな両親と離れるなんて嫌だから。

 しかしその後もどんなに注意はしていても、つい口に出してしまうこともあった。珍しい色や強いエネルギーが見えた時に興奮して。

 そしてそんなある日、彼の家に客が来た。遠い町に住んでいる父親の友人夫妻だった。

 その奥さんは今まで彼が見たことのないたくさんの美しい色をまとっていた。僕が思わず、

 

「すごくきれい……」

 

 と呟いてしまった。

 すると父親の顔が一瞬強張ったのがわかって、また失敗してしまったのだと気付いて僕は焦った。しかし、

 

「おや、まだこんなに小さいのに妻の美しさがわかるとは、さすがは君の息子、目が肥えてるな」

 

 その男の人はおしゃまな子だと解釈して、夫人とともに笑ってくれたので事なきを得た。

 しかし、その後、友人夫妻をホテルへ送ってくると言って家を出て行った両親がいつまで経っても帰ってこなかった。

 

「ぼくが人前で、あの女の人の魔法のこと喋っちゃたから、お父様とお母様はお役人に捕まっちゃったんだ。

 ぼくのせいで、もうお母様達に逢えないんだ。どうしよう。弟達になんて謝ればいいの」

 

 ハビットは大泣きしている幼い弟二人を抱き締めながら、彼も一緒になって泣き続けた。


 結局その日、両親が出かけた先で大きな事故が起きて帰りが遅くなっただけで、朝目が覚めた時には両親が側にいた。

 そして優しく「おはよう」と声をかけられたのだが、これまでの人生を振り返っても、あの時ほど悲しく恐ろしかったことはなかったとハビットは思う。

 

 そしてその日以来、彼は魔法の話を自分からすることはなくなったのだ。

 もちろん魔力量の少ないハビットは、素晴らしい魔力持ちを見かけると、羨ましく思ったり、側でその魔法を見てみたいと思ったりはしたが、それを口にすることはなかった。

 


 つまりその結果ハビットは、特殊能力のホルダーだということがバレずに、こうやって今呑気に学生生活を送れていたのだ。

 それは全て両親のおかげだったのだ。

 読んで下さってありがとうございました!

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