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辺境伯令息は、今日も甘い仮面の下で毒を吐く  作者: 悠木 源基


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第38章 断罪の後


 ティーフス王立魔法学院の卒業式。

 

 卒業生代表として答辞を読んだのは元生徒会長のエンドゥー殿下。

 そして在校生代表として贈る言葉を読んだのは新生徒会長のミンティアだった。長い長い歴史を持つこの学院で初の女性生徒会長だったが、それに異議を唱える者は誰もいなかった。在校生のみならず、数多の卒業生の中からも。

 

 式典の後で、学院の食堂ではささやかな卒業を祝うパーティーが開かれていた。そこにいたのは旧生徒会メンバーと、今回卒業式と数日前の卒業パーティーの準備を手伝ってくれた協力者達だった。

 

「それにしても、無事卒業できて良かったですね、殿下。謹慎処分のまま退学になるのかと思っていましたよ」

 

「まったくです。学生の悪ふざけといっても、あれはやりすぎでした」

 

「そうですよ。ご自分の叔父上の婚約者にプロポーズするだなんて。いくら身分を隠していた王弟殿下を表社会に引っ張り出すための演出だったとしても。他にもいい方法があったでしょうに」

 

「ああ、反省している。あの魔術対戦でハイになっていたんだな。ミンティア嬢の素晴らしさに舞い上がり、ぜひとも彼女の側には叔父上が立っていて欲しいと願ってしまったんだ」

 

「「「・・・・・」」」

 

「まあ、その作戦は成功しましたよね。王弟殿下は瞬間移動ですぐさま壇上に登場されましたものね」

 

「そして仲間を助けてボロボロになった女神様をすっと抱き上げられた殿下は、正しくザ・王子様でしたよね。

 しかも治癒魔法ですぐにミンティア様を癒やされたときは、そのあまりの神々しさに目眩がしました」

 

 ご令嬢の一人が興奮気味にこう言った。彼女はあの表彰式のとき、プレゼンターをするために二人の側にいたので、その場面をしっかり目撃していたのだった。

 

「えっ?「あっ、」」

 

 ミンティアの驚きの声と同時に、しまったというラフェールの声が上がった。

 その隣でハビットが「ハァーッ」とため息をついた。

 

「貴方、治癒魔法が使えるようになっていたの? いったいいつから?」

 

 珍しくミンティアが眉毛を吊り上げた。

 

「ミアが学院に入学して半年くらい経ったころ。ほら、数匹のドラゴンの奇襲に遭ったことは話しただろう? あのとき怪我をしたみんなを助けたいと強く願ったら、突然治癒力が発生したんだよ」 

 

 彼の話を聞いて彼女は押し黙った。その時かなりの被害が出たことは両親からも聞いていたからだ。

 そしてこんな中でも死人が一人も出なかったのは、ラフェール様のおかげだったと二人からの手紙には綴られてあった。

 しかし、そのラフェールのおかげというのは、てっきりドラゴン本体を倒したことを指しているのだと思っていたのだ。

 

「みんなして私に隠していたってわけ? なぜ?」

 

「いやあ、せっかくの君のやる気を削ぐのもなにかなぁ〜と思って。君が第一級魔術師の資格はもういいかな?なんてとチラッとでも思ったら、気が抜けて、それこその塩令嬢の仮面なんかすぐに剥がれてしまうと心配になったんだよ。

 実際学院に入学して思ったよ。秘密にして良かったって。知っていたら絶対にミアは、ハニー嬢と一緒にキャーキャー言いながら、お菓子作りに熱中していたに違いないもの。

 そしてそんな甘くてかわいい君の姿を見たら、男どもがほっとかなかったよ。エンドゥーだってもっと早くアプローチしていたに決まっているし」

 

 ラフェールの反論に、たしかに……とミンティアは思ってしまった。

 自分はラル一筋だから他の男性に目移りする可能性はゼロだけれど、お菓子作りにははまっていたかもしれない。

 そして、肝心の勉強や鍛錬の方が疎かになって、領主の妻としては不適格の烙印を押されていたかもしれないわ。

 第一級魔術師の資格はともかく、あの魔物のいる森を抱えている以上、魔術や魔道具研究は必要不可欠だというのに。

 つまり、真実を知らされなくて良かったのかも。そんな風に彼女が考えていたら、エンドゥー殿下がこう言った。

 

「その予測は間違っていましたね。僕の好みは本来のふんわり甘いミンティア嬢ではなくて、演技していた塩令嬢の方でしたから。

 僕は自分をきちん律して、キリリッとした女性が好きなのです」

 

「マザコンだったのか。見誤っていた。危なかった」

 

 ラフェールがボソッと呟いた。

 

 エンドゥーの母である王妃殿下は魔術師の資格はないが魔力量が多く、温和な国王陛下と比べて豪胆な女傑だという評判だった。

 しかし、あの断罪の場では、親友だと思っていたカーギリス侯爵夫人の裏切りと、実の娘のように愛情を注いでいた義娘のジャクリーンの行く末を思って、かなり憔悴されていたな、とハビットはそんなことを思い出した。 

 

「叔父上にはご心配、ご迷惑をおかけしましたが、ミンティア嬢が叔父上の婚約者だと知ったときから、その罰当たりな想いは綺麗サッパリ捨てましたので、ご安心ください。

 私はこの先どんなに辛く苦しくても、自分が望んだことですので、今後王太子として生きて行かねばなりません。

 ですから寿命を縮めるような馬鹿な真似は絶対にしません。

 それに、これからは叔父上の助けを借りなければやっていけませんし、気分を害する真似などするわけがありません」

 

 エンドゥー殿下の言葉に大袈裟だなとみんなは笑った。

 

 今ではラフェールの正体は白日の下に晒されて、彼が王弟であることをみんな知っている。

 しかし彼への認識はあまり変化がなかった。砂糖菓子のような甘い笑顔のふわふわの天使。人当たりがよくて愛らしいご令息。

 それが実は王弟だと言われても、ああそうだったのね、というくらいに違和感なくみんなそれを受け入れてしまった。

 これまで目立たないように彼が本気を出してこなかったために、まさか大の大人を仕切れるほど優秀な人物だったことには驚いたが。

 

 宰相の事件の後始末をしているのが実質ラフェールであることは、親達から漏れ聞いて生徒達は知っていたのだ。

 そして実際、生徒会主催の卒業パーティーの準備を手伝っていたときも、決して出しゃばったりしていなかったが、慣れない新生徒会長を上手くリードしていることは傍目からも明らかだった。

 みんなは彼が生徒会に入ってくれることを望んだが、彼は王城で宰相を補佐する役目を仰せつかったことで諦めざるを得なかった。

 

 そう。現在、学院内でのラフェールは才気煥発で見目麗しく、穏やかな笑顔を絶やさない理想の王子そのものだった。

 しかしその中身は膨大過ぎる魔力の持ち主で、詠唱無しで建物一つ破壊できる恐ろしい人物だった。そんな王弟の真の姿を知っているのは、身内以外ではハビットだけだったが。

 そしてその彼は、エンドゥー王子が本気でラフェールを恐れていることも知っている。

 

 契約魔法で死にかけたトラウマがあるので、できれば近付きたくないのだ。うっかり叔父に乱暴な真似をしたら、自身がどんな目に遭うかわからないからだ。

 そうでなくても、彼が魔王様のような魔力持ちだと知ったせいで、睨まれるだけで心臓が止まりそうになるのに、と卒業式直前に会ったときに愚痴られた。

 

 でもそれは自業自得だから仕方無い。それに卒業した以上、これから毎日顔を合わせるようになるのだから、もう慣れるしかないよね、とハビットは思った。

  

 なぜならあの事件で、今王宮並びに王城内は人事が一新されて、てんやわんやの大忙しだ。

 その上極度の人材不足に陥っていて、一度引退した前国王や王太后、そしてその前国王の妹の王女殿下、侯爵夫人となっている娘夫婦にその子供達まで駆り出されている。

 となれば、まだ学生であろうと王弟であるラフェールが呼び出されるのも当然のことだったろう。ただでさえ、もう授業など受ける必要がないくらい優秀なのだから。

 

 

 読んで下さってありがとうございました!

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