第33章 王弟達の思い
話の核心に迫ってきて、登場自分か増えてきたので、新しい登場人物(王族)をここでサラッと整理しておきます。
・アルバート=コークレィス→前国王
・レイラーニ=コークレイス→王太后(アルバートの後妻)、元ラリウル辺境伯令嬢、ラフェールの実母
・グスタフ=コークレイス→前ブラビッシュ公爵、アルバートの弟で元王子
・アスラード=コークレイス→国王、アルバートの嫡男
・ネルビス=ブラビッシュ公爵→王弟、アルバートの次男
・アルディン=コークレイス→王太子、アスラードの嫡男
・エンドゥー=コークレイス→アスラードの次男
・ジャクリーン=コークレイス→王太子妃、アルディンの妻
✶ 代々長男の名前の最初が『ア』で始まっています。
「心底呆れた。お前はまだ王座を狙っていたのか。しかも、お前が国王になれなかったのが、魔力量のせいだと今もって勘違いしていたとはな。
魔力量だけで国王が決まるなら、私ではなく弟グスタフが国王になっていただろう。しかし他の王族も国の重臣達も誰一人として弟を推す者はいなかったぞ。
なぜなら彼は、たしかに魔力だけは多かったが、他国と争い事ばかり起こし、暴君と呼ばれた我が亡き父親に瓜二つだったからだ。
もちろん魔力量は多い方がいいに決まっている。しかしさっきエンドゥーが言った通り、それを使いこなすことができなければ意味がない。
というより、国を守るのは当然国王の役目ではあるが、何も王自身が前面に立って敵と戦う必要はないだろう。国には立派な騎士団が存在するのだからな。それよりも政治や経済、外交面で国を守るべきであろう?
私はそれでこの国に平和をもたらしたつもりだ。それなのに弟はそれを理解できない愚か者だった。
お前はその愚か者の影響を受けてしまったようだ。それは母親を早く亡くし、私が多忙を極めていたせいで、上手く指導できなかったという思いがあった。だから、お前が兄に反旗を翻そうとしたときも、未遂だとして重い罰は与えなかった。
しかしそれは大きな過ちだった。まさか、反省も後悔もせずに自分の甥までも利用し、兄のアスラードに復讐をしようとするとは!
お前は兄や甥達を蹴落として、政変を起こし、結局何がしたいんだ。この国をどうしたいんだ!弱体化させ、敵に攻め込まれ、他国の属国にでもしたいのか!」
前国王アルバートが地を這うような重くて低い声で、息子のネビルス=ブラビッシュ公爵に詰問した。すると公爵は驚いた顔をして反論した。
「この国を他国の属国にしたいなんて、そんなことを思うわけがありません。私は仮にもこの国の王家の血を引いているのですよ!
せっかく父上が平和にしたこの国を乱そうだなんて考えてもいません。それに兄上に復讐しようとするなんて考えるわけがないでしょう。心外です」
「それでは何をしたかったのだ!」
「かつて私が国王になろうと兄上に逆らったことは、若気の至りでした。自分こそが父上の後継に相応しいと思い込んでいたのです。
兄上と私の魔力量はほぼ同じ。それなのに兄上が後継者に選ばれたのは、単に義姉上の魔力量の多さだと思ったのです。
ですから、義姉上以上に魔力量の多い女性を妻にできれば私にも後継者になれるはずだと信じていたのです。
だから私は必死にそんな女性を探しました。しかし父上はそれを待ってもくれず、突然兄上に王位を譲ろうとしました。
父上に見限られたと思った瞬間、私は父上や兄上に対する恨みが頂点に達したのです。そしてそれを叔父上にうまく利用されてしまったのです」
前ブラビッシュ公爵グスタフは、前国王アルバートの言う通りのろくでもないクズだった。
国や人臣のことなど一切考えず、揉め事や争い事が大好きだった。ネルビスを煽ったのも甥のためでも国のためでもなく、ただ国が乱れるのが楽しかっただけだった。
それに気付いたネルビスはすぐに反乱を止めたのだ。
その後事の真相を知った国王の怒りは凄まじく、弟グスタフから公爵の地位を剥奪し、王都から離れた場所にある離宮へ幽閉した。
そしてその弟から取り上げたブラビッシュ公爵の爵位と名を、次男のネルビスに与えた。父親からお情けでそれを授かった彼は、兄上の臣下として尽くそうと決心し、実際そうしてきたのだ。
「私は、私はお前を信じてきた。それなのになぜエンドゥーを使って、アルディンを王太子の座から引きずり下ろそうとしたのだ」
「だって兄上だってアルディンでは不安でしょう? いくら頭脳明晰だとしても、真面目で優しいだけでは国王にはなれない。本人が強力な魔法が使えなくても、妻がそれを補えればまだましだが、彼女にはその能力がない。
何故アルディンとジャクリーン嬢との結婚を認めたのですか? 国王として甘いのじゃないですか?
それに比べると、エンドゥーの方が覇気があるし根性がある。王に向いているのと思ったのですよ。
だから、彼に魔力量が多いご令嬢を娶らせれば、将来の国王に相応しいと皆にも判断されると思ったんですよ」
ところがあの嘘吐きクズ侯爵は、ろくでもない自分の娘を推薦してきた、とネルビスは言った。シリカでは王太子妃どころか王子妃でも無理だ。
だから向こうの有責で婚約破棄するための材料を見つけようと探ってみれば、悪事が出るわ出るわ。しかもその後、ボルディン侯爵があの叔父グスタフと繋がっていることがわかった。
全て糞叔父の罠だった。王家を引っかき回して楽しみたいがために自分やエンドゥーに罠をかけたのだ。
その後ネルビスは、キシリール伯爵令嬢がとても優秀なご令嬢でしかも魔術師としてもかなり腕が立つという噂を聞いた。
そして実際に調べて、彼女がエンドゥーと結婚して王妃になってくれれば、この国は安泰だと思ったのだ。
「ミンティア嬢には婚約者がいるのだぞ。しかも彼女は跡取りだ。何を考えている?」
「しかし兄上、彼女には妹がいるだろう? そもそも姉だってそこにいるモンドレイカー侯爵令息の所へ嫁いでいるのだ。それなら二番目も嫁いだって構わないじゃないかと思ったのさ」
「何勝手なことを言っているんだ!
キシリール伯爵家の跡取り問題になぜ関係のない貴方が口を出すのだ! たかが一貴族に過ぎない身分で。もう貴方は王子じゃないんだぞ!
長女のモードリン様がどんな思いで嫡女の地位をミンティアに譲ったのかを知りもしないくせに、軽々しく末の妹がいるだろうなんてことを言うな!
それにミンティアと僕だって、モードリン様の思いを受け取って、立派に領地を守れる人間になるのだと、これまで血を吐くような努力をしてきたんだ!」
クールでほとんど人前では感情を表さないラフェールが、立ち上がって叫んだ。
彼の全身からは激しい怒りのせいで、青い光がビリビリと発せられていた。
ハビットは慌てて友人の手首を掴んだ。氷の魔法を使わせないために。それでラフェールもハッとして腰を下ろした。
「たしかに私はすでに王族ではなく臣下に下っている。しかし王弟であることには変わりはない。その私に対してたかが辺境伯の三男に過ぎない君のその態度は不敬ではないのか?」
ネルビスのこの言葉に、エンドゥー以外の者達が瞠目した。するとそれに気付いたネルビスが今度は胡乱げな目で見回して、誰ともなく尋ねた。
「いったいなんですか? 私は何か変なことを言いましたか? 正論を述べたつもりですが」
するとアスラード国王が慎重に言葉を選ぶようにこう尋ねた。
「お前は彼の態度を不敬だというのだな?」
「? だって不敬でしよ?」
「それなら私もお前を不敬だと断罪しなくてはならないな。今日これまでの口のきき方を聞く限り」
「たしかに私は今は臣下に下っていますから、公の場でこの感じで話したら不敬かもしれませんね。
ですが、今のこの場は一応私的な集まりなのでしょう? それなら兄弟としてなら許容範囲だと思うのですが。もっとも私がやったことは十分罪に問われるべきでしょうが」
「ほう。兄弟なら許されると思うのか。それなら彼も許容されるべきだな」
兄の言葉の意味が本当にわからず、ネルビスが頭を捻ると、アスラード国王は思いも寄らないことを口にした。
「今お前の目の前にいるラフェールは、私達の実の弟だ。つまりお前は弟から彼の命より大切な婚約者を取り上げて、甥と結婚させようとしたんだよ」
と……
読んで下さってありがとうございました!




