第32章 後継者になるための条件
いよいよ、いや、ようやく黒幕探しというか推理シーンに突入します。(まるで推理物!)
人間関係が複雑ですが、ついてきていただけると嬉しいです。
どんでん返しの連続になる予定です。さあ、犯人は誰なのでしょう!
それから暫くそのまま皆で会談をしていると、国王陛下夫妻と王太子夫妻、そしてその他の主な王族の面々がサロンの中にやって来た。
その一番殿にいたのは、あの第二王子エンドゥーだった。いつも自信満々で堂々としていた王子が、たった一月見ないうちにげっそりと痩せ、おどおどした表情をしていることにハビットは喫驚した。
「本日は遠路はるばるお越し頂き、誠にありがどうございます。国王である父に代わってお礼を申し上げます。
今日集まって頂いたのは、大変遅くなりましたが、我が弟が大衆の面前でキシリール伯爵令嬢に対して大変な無礼を働いたこと。
そして彼女の婚約者であるラリウル辺境伯令息にまで、無体な振る舞いをしたことに対する詫びと、なぜそんな行いをしたのか。その調査報告並びに決定した懲罰を発表したいと考えたからです」
アルディン王太子がこう挨拶した後で頭を下げた。
王族が頭を下げたことに再びハビットは驚いたが、他の人々はそれを平然と受け取っていた。
ああそうか。これは苦肉の策なのだということに彼も気が付いた。たとえ国王であっても、父親である前国王に対して上から目線で発言するわけにもいかず、かと言ってその他の家臣もいる中で謙る物言いもできないために、王太子が代わって発言したのだろうと。
「我々は忙しい身なので、さっさと報告してくれ。この面子の前で小賢しい言い訳や誤魔化しは効かない。それを重々理解した上で進めるように。
それともう一つ。ここに呼ばれた者は第一級魔術師並びにそれに準ずる実力者ばかりであることを、ゆめゆめ忘れないようにな」
前国王陛下の視線は息子である国王に向けられてはいたが、その言葉は国王ではない誰か特定の人物に対しての発言と感じ取れる、なにか含みのあるものだった。
それが誰に対しての言葉なのかを理解したのか、国王陛下と王太子殿下が深く頷いた。
「息子エンドゥーに事に及んだ経緯を聞き取った結果、彼は嘘偽りなくキシリール伯爵令嬢に恋愛感情を抱いていたために、あんな愚かな発言したということがわかった」
「はぁ?」
国王の言葉にミンティアは思わず令嬢らしくない声を発してしまった。
「ミンティア嬢が驚くのも無理はない。二人を近くから見ていた私や妻も信じられなかったのだから。君に対する弟のあの不機嫌そうなあの態度に、好意などまるで感じられなかったからな」
「ツンデレ?」
ボソッと呟いだハビットの言葉にその場にいた者達がハッとして顔を見合わせた。
「気持ち悪く媚びを売るだけで、向上心の一切ない婚約者に比べて、なんにでも真剣に取り組み、努力している君に次第に興味を引かれていったらしい。
しかし最初の頃に蔑むような言葉を発してしまった手前、今さら好意を示すことも憚れて、ついつっけんどんな態度を続けてしまったと言っていた。まさしくツンデレだな」
王太子が呆れたように言った。しかしそんなことで納得できるわけがない。
「いくら好きになったとしても、相手に婚約者がいるのなら、それを己の中に留めておくべきだろう。それなのに人前で堂々と奪うと宣言するなんて許されない行為だろう。王族ならなおさら」
ラフェールがエンドゥー王子を睨みつけながら言った。
「いや、エンドゥーはミンティア嬢が言っていた婚約者というか、恋人は自分だと思い込んでいたんだ」
「「なぜ?」」
「彼女から愛情がこもった手作りのマフラーや刺繍を刺したハンカチをもらったかららしいよ」
「王太子殿下、私はエンドゥー殿下に贈り物をしたことはありません。私はマフラーもハンカチもラフェール様にしか贈っていませんから」
「そのハンカチはここにあります。マフラーも今日もしてきてクロークに預けてありますよ」
ラフェールが胸ポケットからハンカチを取り出して皆に見せた。すると王族側の一人がそこに口を挟んだ。
「二人分作ったのでは?」
すると、ラフェールとミンティア、そして王太子夫妻が口を合わせて言った。
「「「それはありえない!」」」
「なぜだ?」
「叔父上、貴方は知らないでしょうが、ミンティア嬢は毎日かなりハードな生活を送っているのです。授業に生徒会活動、自主学習、魔術研究、魔道具開発、魔術や武術の訓練と。
そんな寝る間もないほど忙しい生活の中で、ほんの僅かな時間を見つけ出して彼女は編み物や刺繍をしていたんですよ。二人分なんて作れるわけがないのです。
それに両方を見比べればすぐにわかりますよ」
王太子の指示で侍従がテーブルの真ん中に、金色の糸でコークレイス王家の紋章が刺されてあるハンカチと紺色のマフラーを置いた。
すると今度はラフェールがそれに並べるように、濃紺色の糸で彼のイニシャルが刺されたハンカチと、クロークから持ってきた緑色のマフラーを置いた。
それは誰が見ても製作者が違うとわかる品だった。色だけでなく素材もデザインも出来上がりも違っていたのだから。
「殿下のマフラーやハンカチは最高級品の素材を使ってありますが、我が家ではそんな材料を購入する余裕はありません。まちがっても私が贈った物ではありません」
「ええ、そうね。それはプロの方が作った物よ。私も独身時代に当時婚約者だった夫に似たものを贈ったもの。ねぇ、貴方?」
「たしかにもらったね」
国王の姉である侯爵夫人と夫がこんなやり取りを交わしたので、彼女の弟であるネビルス=ブラビッシュ公爵は黙り込み、エンドゥーは目を見張った。
「贈り物にはミンティア嬢からのメッセージカードが添えられてあった。しかし彼女が贈ったのではないなら、一体誰がそれを贈ってきたんだ!」
「その贈り物は姉上の言った通り、王族御用達のとある高級店で販売されていたものだったよ。
そして店に確認したところ、その品を購入したのはブラビッシュ公爵家の者だったそうだ」
王太子の報告を聞いてエンドゥーは叔父を睨みつけてこう叫んた。
「叔父上、図りましたね! 僕を利用して国家転覆を狙っていたんですか?」
「何を言う! お前が王太子になりたいと言うから協力してやっただけだろう」
政変を狙ってたの(か)!
ミンティアとハビットは喫驚した。しかし、他の者達は冷静なまま状況をただ見守っていた。
「エンドゥー、お前はまだ国王になることを諦めていなかったのか?
お前の魔力量では兄のアルディンに負けていると、何度も言っただろう」
「ええ、僕だって学院に入学する前は諦めていましたよ。ですが叔父上が言ったのです。
父上は叔父上より魔力量が少なかったのに、魔力量の多い母上と結婚できたから国王になれたのだと。
なぜなら妻となる妃の魔力量と合わせて、一番多い王族が国王になれるのだからと。
つまり夫婦の総合力が高い方が国王になれるのなら、魔力量の多い女性と結婚できれば、僕にだって可能性があるってことでしょう?
義姉上はたしかに優秀で素晴らしい女性だけれど、魔力量はかなり少ないのだから」
「エンドゥー! お前、なんてことを!」
「アルディン、落ち着け。
なるほど。それでお前はシリカ=ボルディン侯爵令嬢を選んだのだな。彼女の魔力量はかなり多いからな」
「はい。しかし、彼女はたしかに魔力量は多かったのですが、それは全く意味がありませんでした」
エンドゥーはため息をつきながらこう言った。
シリカは甘やかされて育ったせいで怠け者な上に勉強嫌いだったので、魔力のコントロール法を全く身に付けていなかった。そして学ぶようにエンドゥーに言われても一切努力しなかったのだ。
しかも王子妃であることを鼻にかけて、傲慢な振る舞いをした挙げ句、嫉妬に狂い、婚約者がただ話をしただけの女性にまで嫌がらせをした。そんな彼女に彼は手を焼き、ホトホト嫌になっていた。
そしてあんなご令嬢を勧めてきた叔父上を恨み、今後一切信用しないと告げたのだ。
すると叔父のネルビスは甥に謝罪して、今度はこう言った。
「実はボルディン侯爵は王家乗っ取りを考えていて、裏で色々と工作を企てている。しかもこれまでも色々と悪事に手を染めているらしい。その証拠を今集めているのだが正直難航している。
そこで令嬢を王族と縁付けしてやれば相手も油断するのではないかと考えたのだ。
そしてやつの罪を暴けばお前も功績をあげられて、破談など却って怪我の功名になる。だからあと少しだけ我慢してくれ」
と。
その上なぜか彼は甥がミンティア嬢に好意を持っていることに気付いていて、彼女はたしかに身分違いだが、自分が後ろ盾になって協力すれば婚約も可能になるだろう、と言い出したのだ。
魔術対戦の表彰式のときにシリカ嬢への婚約破棄宣言をするように指示したのも叔父。ミンティア嬢へのプロポーズも。
あの華やかな場所で告白すれば彼女にも喜ばれるし、周りからの賛同も得られやすくなるからと。
もちろんエンドゥーが優勝者となって申し込む予定だったのだが。
エンドゥーのこれまでの経緯を聞いた者達の目が、全部王弟に向けられたのだった。
読んで下さってありがとうございました!




