第25章 王族との対立
この章から学院の魔術対戦終了直後の場面に戻ります。
これからラフェールとミンティアは仮面を外して本領を発揮していきます。
「なんかすごいことになってる。ボルディン侯爵令嬢が近衛兵に連れて行かれたよ。
あれ? 今度は第二王子が君の婚約者に絡んでいるけど、助けなくていいのかい?」
先ほどまで賭けに勝ったと興奮しまくっていたハビット=カンターが、ようやく我に返ってラフェールにこう尋ねた。
「もちろん助けるよ。絶対に人前では接触するなとミアには言われているけど、まさか婚約者が別の男にプロポーズされているのを見て知らぬ振りはできないからね」
ラフェールがこう答えるとハビットも頷いた。
「しかも相手は王族だ。強引に彼女と婚約しかねないもんな。でも。王族とやり合って大丈夫なのかい?」
「王族ねぇ。あはは。おそらく焦ってるぞ、彼らは」
ラフェールがおかしそうにそう言ったが、不敬罪になりそうでハビットは笑えなかった。
というか、なぜ王族が焦るのかがわからなかった。
「ねぇ、この前、君は自分をストッパーにさせる気か、と僕に訊いたよね? できればそれをお願いしたいんだけど、いいかい? 僕を止められるのは君しかいないから。
それと図々しいお願いだけど、ぼくと彼女の関係が公になると、何かと騒がしくなると思う。
だから今後君にも僕の婚約者を守って欲しい。君の賭けにこれからも必ず協力するから」
ラフェールの言葉に普段穏やかなハビットがムッとして声を荒げた。
「馬鹿にしないでよ。賭けとか利益目的で君と仲良くしたいわけじゃない。
友人の大切な人を守るために、損得なんか関係ない。手を貸すに決まってるだろう!」
「ありがとう。詳細は後で。それじゃ行ってくる」
ラフェールはそう言うと、あっという間にハビットの前から姿を消した。
そしてそう間があかないうちに、ラフェールは表彰台の場に立っていた。
「ミア、優勝おめでとう。よく頑張ったね。格好良かったよ。さすがは僕の自慢の婚約者だ」
「ラル? なんでこんなところに。約束はどうしたの?」
「もういいだろう。これ以上秘密にしておく必要はない。すでにお膳立てはできているし。なんの心配もないよ」
ラフェールは驚いているミンティアを抱き上げると、有無を言わさずに無詠唱魔法をかけて彼女を眠らせた。そして続けざまに満身創痍の彼女に治癒魔法をかけた。
すると第二王子であるエンドゥー=コークレイスが、ラフェールに向かって叫んだ。
「なにをしているんだ。ミンティア嬢から離れろ! 人の婚約者を勝手に抱き上げるとは無礼極まりない」
「エンドゥー!」
慌てて国王が息子の名を呼んで息子を思い止まらせようとしたのだが、第二王子は勢いは止まらず、そのままラフェールの腕に掴みかかった。
しかしその瞬間悲鳴を上げて尻もちをついた。
もちろんラフェールが軽く魔力を放出したからだ。
「その言葉、そのままお返しするよ。ミンティアは僕の婚約者だ。それなのに、なぜ勝手にこんな公開の場所でプロポーズなどをしたんだ。この恥知らず!」
「なっ!」
エンドゥーが怒りに満ちた顔で僕に何かいいかけたとき、素早く国王が口を挟んだ。
「衛兵! 第二王子は魔物対戦で心身ともに疲労困憊していて、今はまともな判断ができなくなっているようだ。足元も覚束ないようだから急いで医務室へ運ぶように!」
「御意!」
エンドゥーは何かわからないことを喚いていたが、あっという間に両脇から衛兵に抱え込まれて、この場から退場させられてしまった。
「す、すまない。息子は魔物との戦闘でハイになって、おかしくなっていたのだ。許してくれ」
国王陛下夫妻と王太子夫妻が揃って頭を下げた。
「あれしきのことで正常さを失ったというのですか? ずいぶんと軟弱なんですね。強力な魔力持ちの王族だというのに。
ああ、経験不足なんですね、きっと。私は生まれて間もない頃から悪魔に命を狙われ続け、成長してからは魔物と絶えず戦闘しているので、学院の魔物対戦競技だなんて単なるお遊びにしか見えませんでしたが。
命がけで参加した皆さんに失礼ですから、ここだけの話ですけど」
ラフェールは防音シールドを張った後でこう言った。家臣に聞かれなければ不敬罪になることもないだろうと。
「本当に申しわけない」
「陛下、前回ご挨拶に伺ったときにも言わせて頂きましたが、私は皆様に危害を与えることも、その身分や地位を脅かすような真似も一切するつもりはありません。
ただし、私の婚約者に手出しをすればその限りではないと、はっきりとお伝えしましたよね。
それなのになんなのですか、さっきのは! これはとても看過できませんよ」
ラフェールはその愛らしい顔には似合わない、厳しい顔で国王を見つめて言った。
すると普段は威厳ある態度で少し冷徹そうに見える国王が、見たことがないほど焦った様子で早口で言い訳をした。
「すまない。本当に申しわけない。今回のことは寝耳に水の出来事で、私達は本当に何も知らなかったのだ。
シリカ=ボルディン侯爵令嬢との婚約が近いうちに解消されることは確かに決まっていた。
しかし次に誰と婚約を結ぶかはまだ話題にも上がっていなかったのだ。
あれがキシリール伯爵令嬢を妃にしようと考えていたなんて青天の霹靂だ」
「ラフェール卿、父の言ったことは本当です。私と妻はこの春まで生徒会で弟やキシリール伯爵令嬢と一緒に生徒会活動をしていました。
しかし二人の仲は決して友好だとは言えない関係でした。だから、弟が彼女に好意を抱いていたとは到底思えないのです」
王太子も父親を庇うようにこうフォローした。しかし、夫のこの言葉に妻である王太子妃が口を挟んだ。
「たしかに以前の二人の仲は険悪でした。しかし、ミンティア嬢の有能さがわかるようになったころから、エンドゥー殿下の態度も変化しましたわ。
そして、シリカ嬢とよく比較してため息をついていたと聞いています。好意を持っていたかどうかはわかりませんが、殿下がミンティア嬢を嫌っていたということはなかったと思います。
ただ、どうしていきなりあのような暴挙に出たのかはわかりませんが」
彼らの話を黙って聞いていたラフェールだったが、やがてこう呟いた。
「もしかしたら、誰かに唆されたのかもしれないな。なんか裏で蠢いているやつらがいるみたいだし」
「エッ?」
王族四人が驚いたように声をあげたが、その中で王妃がこう言った。
「ラフェール卿は私達がまだ手にしていない情報を何かご存知なのですね。
そのような重要な話をいくら防音シールドで覆われているとはいえ、このような場所でお聞きするわけにはいきませんね。
明後日王宮にご招待しますので是非いらしてください。可能であれば婚約者のキシリール伯爵令嬢とご一緒に」
この中で王妃だけが唯一防音シールドに気付いていたようだ。だからこんな人目のある中にもかかわらず夫や息子達の発言を止めなかったのだな、とラフェールは納得した。
おそらく、彼女が一番の魔力持ちなのだろう。
「わかりました。ただ、第二王子の聞き取りや処分は適正に行ってくださいね」
「もちろんだ」
国王が重々しくそう返事をしたので、ラフェールは防音シールドを解き王族に恭しく礼をした。
そしてミンティアを抱いたままその場を離れて、宿舎の方に向かって歩き出したのだった。
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