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第18章 モードリンの主張✽過去回想  

 

「つまり、前国王陛下が老いらくの恋で娘のような妻をもらい、子を作ったら、その子は強大な魔力持ちだった。

 そのため、生まれてすぐその子は命を狙われる羽目になり、その身の安全を図るために、身元を誤魔化して伯父である辺境の子として育てられた。

 ところがその情報はどこからか漏れて、何度も王子様は命を狙われた。そして、一昨年とうとう辺境伯の城内で襲われて、王子様は我が領地の森まで逃げてきた、というわけですね?」

 

 モードリンは父親の話を要約し、確認のためにそう尋ねた。

 本当に地頭はいいのだな私の娘は。将来が楽しみだ。確かに最強の協力者になりそうだ……とカインツは改めて感心した。

 モードリンは自分同様に完全に王家を見下している。しかしそれがばれたら不敬罪になる。

 娘と縁を結ぶ家は慎重に選ばねばなるまいと、カインツは心の中で深いため息をついた後で頷いた。

 

「王子であるラフェール様と、ティアの婚約を辺境伯家だけでなく前国王陛下夫妻まで認めたっていうことは、我が家に婿入りすれば、命を狙わなくて済むと判断されたからですか?」

 

「そうだろう」

 

「でも、そもそもラフェール殿下には王位継承権がないのでしょう? それなのに未だに殿下を襲おうとする輩がいるのは何故でしょうか?」

 

「それは国王の座を狙っているのが、王族だけではないということだろう」

 

「つまり準皇族とか高位貴族、または平民がクーデターで王位を狙っていて、将来ラフェール殿下が邪魔になると思っているということですか? 

 そうでなければ、反対に殿下を利用してクーデターを起こそうとしているとか、傀儡政権を作る時の飾り者にしようとしている、とかそういうことですか?」

 

「または殿下を利用されるのを恐れている、王族かその周り者達が、火種になりそうな殿下を亡き者にしようとしているかだな」

 

「どちらにしても酷い話ですね。

 お父様が何故あんなにも厳しくラフェール様を指導しているのか、これでようやく理解できました。

 私、王都へ出たら社交界に積極的に参加して、情報収集します。

 ですから、辺境伯様の屋敷へ自由にお邪魔できるように、お父様からお願いしておいて下さいね」

 

 モードリンのこの言葉の意味がわからずにカインツは頭を傾げた。

 するとモードリンはすました顔でとんでもないことを言い出した。

 

「だって本当ならこれまでかかった養育や、教育、鍛錬、その指導、それに護衛にかかった費用を辺境伯様に請求しなくてはなりませんわ。

 今後はともかく、これまでは我が家はラフェール様とは赤の他人だったのですから。

 まさか前国王陛下や辺境伯様が、貧しい我が伯爵家に無償で王子を三年近く預けっぱなしにしていたわけではありませんよね?」

 

「もちろん礼金の申し出はあったが、私は金のために殿下をお預りしているわけではないと、お断りしていたのだ」

 

 父親のこの言葉に娘は眉を釣り上げた。

 

「これだからオタクの世間知らずは困るのです。お父様にとって殿下は親友の息子かもしれませんが、我がキシリール家には何の関わりもありません。

 たとえ同盟関係にあるとはいえ、一時的な保護ならともかく、高貴な身分の方を、二年以上預かって必要以上の世話をする義理など、本来我が家にはなかったのですよ。

 それを無償でなどと、何を考えていらっしゃるのですか!それらの費用は全て領民の納める税なんですよ」

 

「あっ……」

 

 真っ当過ぎる意見にカインツは二の句が告げられなかった。彼は当主とはいえ婿入りした身分であり、これらのことは妻に相談して決めることだったのに、これまで勝手に一人で決めていた。

 心優しくて慈悲深いグレイスなら、薄々事情を察していることだし、きっと許してくれるだろうと。

 しかしラフェールにかけたお金は領民からの税で、彼の私費ではなかった。

 娘に指摘されるまでそれに気付かなかった。

 恐る恐る妻を見ると、妻はにっこりと笑ってこう言った。

 

「モードリン、そんなことはお父様だってちゃんとわかっていらっしゃるわ。我が家で立て替えた分は、いずれお父様のポケットマネーで返済して下さるはずよ。

 お父様は魔道具開発でたくさん個人資産をお持ちでしょうから」

 

「いや、それはこれからの研究費の資金であって……」

 

 モードリンは、慌て出した父親を軽く軽蔑の眼差しで見た後で、母親グレイスと同じ笑顔をしてこう父親に告げた。

 

「お父様では面子もあって、今さらお金を要求する訳にもいかないでしょう。

 ですから、私がかわいくお願いしてみますわ。嫡女としての地位を妹に譲る対価としてね」

 

 カインツは絶句した。そして妻を見ると、彼女は満足気に笑みを浮かべてこう言った。

 

「旦那様、私の子育ては間違っていなかったてしょう? ただ甘やかしていたわけじゃないんですよ。

 自分に自信を持って自分の意思をはっきり言える人間になるように教育してきましたの。

 でもそれは決してわがままなどではく、正しい判断の上でできるという意味ですのよ。

 魔物や隣国と絶えず対峙しているこの地において生き延びるためには、皆が正しい判断を即座に下せるようになることが必須ですからね。

 領主が一人だけ強い魔力を持っていても、この地は守れないのですよ。まあ、賢い旦那様ならおわかりでしょうが」

 

 わかっているつもりでいたのに実際にはわかっていなかった、とカインツは思った。

 ラフェールの面倒を見ることだって、単なる自分の正義感というか自己満足に過ぎなかったことに、たった今気付いたのだから。

 自分の勝手で安易な決断が、家族や領民達に大きな影響を及ぼすことになる。その可能性など、何も考えてもいなかった。

 

 そう。人並外れた魔力を持っている自分なら、自分の力だけで彼を守れると思っていたのだ。

 しかしそうではなかったのだと、今さらながら悟ったカインツだった。

 

 そして溺愛して甘やかしてしまったと、長女の子育てを反省していた父親だったのだが、その娘が思いの外逞しくて、しっかりしていたことに驚きを隠せなかった。

 娘は外見だけでなく中身まで妻にそっくりだったことにも。

 娘の言う通り、ラフェール殿下にかかった経費の回収はモードリンに任せよう。

 きっと自分より上手くやってくれるに違いない、そう確信したカインツだった。とても情けなかったが。

 

 そしてその後モードリンは、王家やラリウル辺境伯と良好な関係を築き、可愛がられつつ、しっかりとキシリール家がかかった経費を回収したのだった。

 

 読んで下さってありがとうございました!

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