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辺境伯令息は、今日も甘い仮面の下で毒を吐く  作者: 悠木 源基


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第16章 ラフェールの真実✽過去回想・前国王の遅すぎた初恋  

 間が空いてすみませんでした。


 それと、タイトルを変更しました!


 キシリール伯爵夫妻からラフェールの正体を聞かされたモードリンは、絶句してそのまま呆然として両親の顔を見ていた。

 そしてそんな小説の中のような話が本当にあるのかと信じられない思いだった。

 

 しかし両親の顔はいたって真面目。本当なんだとモードリンは納得するしかなかったのだが、そこで彼女はふと気が付いた。

 

『ラフェール様って、見た目そのまんまの本物の王子様だったのね。

 ん? その本当の王子様を、このど田舎の貧乏伯爵家に婿入りさせてもいいのかしら?』

 

 と。

 

 なんとラフェール=ラリウルは辺境伯の三男などではなく、実は前国王陛下の三男であった。

 つまり現国王陛下の弟王子だった。弟と言っても、陛下の二人の息子王子達よりも年下ということになるのだが、別に隠し子というわけではない。ちゃんと正妻との子供だった。

 ただし、親子ほど年の離れた二度目の妻との子供だったが。

 

 前国王アルバートは名君と呼ばれるほどの賢王だった。十代で結婚し、二十代前半で既に三人の子を授かっていたが、流行り病で妻を亡くした。

 つまり彼はまだ二十代半の若さで独り身に戻ってしまった。そのため、一年の喪が明けると次から次へと王妃候補のご令嬢の名が上がった。

 

 国王は大層美丈夫で、妻がまだ存命中だった頃から、第二夫人や愛人希望者が後を絶たなかったくらいだったのだ。後妻とはいえ正妻になれるのならと、多くの女性がその座を望んだのは、まあ当然の成り行きだっただろう。

 しかし、最初の結婚の時と同様に派閥問題などが複雑で、一人の人物を選定することはなかなか困難だった。国王よりも周りの者達が頭を抱えてしまった。

 すると国王はこう言ったそうだ。

 

「私は亡き妻を今も想っているので、新たに妻を娶る気はない。

 そもそも息子も既に二人いることだし、これ以上子を増やして後継者争いを引き起こす、災いの種を生みたくはない」

 

 と。そして王妃としての務めは、一度隣国へ嫁いだが子を成せなかったために離縁されて戻ってきた、実の妹に任せることにしたと。

 結果的にそれは妙手であった。

 この妹オリーズは兄の国王アルバートによく似た才色兼備な女性だったので、卒なく王妃の役割をこなした。しかも妹であるために無駄な女性同士の争いは起きなかった。

 これは妹にとっても良いことだった。子ができないとわかっている女性を娶ろうとする家もなかったからだ。

 まさか国王の妹王女を妻としながら、第二夫人や愛人を持つような真似はできない。それでは嫡男がすでにいて、後妻としてならいいのかもしれないが、まるでただ働きをさせられるような結婚を、国王が許すとは思えなかった。

 国王がこの妹を誰よりも大切に思っていることを皆が知っていたからだ。

 

 こうして国王アルバートはその後長らく独身を通し、まだ四十という若い年齢で嫡男に王位を譲って王都を離れた。

 そして第二の都市と呼ばれる地から息子の政治手腕を観察することにした。

 自分が健在のうちに王位を譲った方が、無駄な政権争いが起きなくて済むと判断したのだ。

 

 というのも、末の息子の負けん気が強く、何かやりかねないという懸念があったからだ。

 案の定父親の想定外の引退を知ったとき、次男が慌てふためいて騒ぎを起こした。

 このしでかしを利用して国王は、次男を臣下に下らせて公爵に叙した。とても彼には新国王の補佐役を任せられないと。

 そして密かに次男を担ぎ上げようとしていた者達も炙り出すことができた。

 この結果、王国の不安の目を取り除くことができ、臣下の新国王への忠誠心が高まったので、国はより一層安定した。

 新国王には既に後継者となる嫡男をもうけていたので、次男を排除しても何の問題もなかった。

 

 前国王アルバートは三人の子供を独立させた後、王位を無事に優秀な嫡男に譲ったことで、ようやく重い肩の荷を下ろすことができた。

 その時彼は思った。これからはもう自由に生きよう。これまでただ国のため国民のため、子供達に尽くしてきたのだから、少しばかり勝手をしても良いだろうと。

 もう、後継の問題もないのだから、好きな女性を見つけて恋をしても許されるだろう。子さえ成さなければよいのだからと。

 

 実のところ、前国王は亡き妻とは政略結婚であった。その為二人の間に熱烈な恋愛感情はなかった。しかし互いを思い合い助け合って、王子二人に王女を一人続けざまにもうけたのだ。

 彼らはおしどり夫婦と有名になり、妻の死後も国王は長らく独身を貫いていたので、愛妻家と皆に思われていた。

 ところがそれは、再婚話を煩わしく思っていた国王が、それらを排除するためにでっち上げた嘘の情報だったわけだ。

 

 正直それほど亡き妻を一途に思っていたわけではなく、アルバートも本心では新しいパートナーを欲していた。

 そして隠居が内々で決まった頃、とある夜会で彼は、それこそ生まれて初めて一人の女性に恋をした。一目惚れだった。

 禁欲生活が長かったせいなのか、老いらくの恋と呼ぶには早過ぎるが、それにしてももう孫が三人もいるというのに、彼は一人の年若い女性に激しい恋情を抱いてしまった。

 それは今は亡き剣の師であった辺境伯の令嬢であるレイラーニだった。

 

 レイラーニはアルバートの末の息子と同じ年だった。

 美形一族と有名な辺境伯家の娘らしく、絶世の美女であった。

 しかも儚げな見かけと裏腹に酷く活発で、自由に馬を乗りこなし、槍と弓の名手でもあった。

 学問にも優れていて、幼き頃より領地経営にも携わり、忙しい両親や兄達を手伝うという才色兼備で心根の優しい令嬢だった。

 

 そんな文句のつけようのない令嬢だっために、辺境伯の下には数多くの縁談が申し込まれていた。ところが意外にも王族や高位貴族からの縁談はなかった。

 その理由ははっきりしていた。それはレイラーニの魔力量が少なかったからだ。

 王族や高位貴族の結婚には、魔力の量の多さが重要視されていたのである。

 

 

 そのレイラーニの兄でラリウル辺境伯の嫡男であるフーケッドは、学生時代に親友に向かって度々こう愚痴っていた。

 

「あ〜あ。君が僕の妹と恋仲になってくれていたら良かったのに」

 

 と。というのも彼の親友で子爵家の次男であるカインツは、自分が大量の魔力持ちであるにもかかわらず、付き合う相手に魔力量など一切求めていないとわかったからだ。

 そう。その当時カインツは、既に現在の妻グレイスと付き合っていたからだ。

 

「僕がグレイスともし付き合っていなかったとしても、君の妹と付き合うことは絶対になかっただろう」

 

「どうしてさ」

 

「どうしてって、辺境伯令嬢と子爵家の僕じゃ身分が違い過ぎるだろう。それにそもそも僕は次男だから結婚したら平民だよ?」

 

 カインツは呆れた顔でこう言った。辺境伯が自分の娘を、いずれ平民になるとわかっている男のところへなんか嫁がせるわけがないじゃないかと。

 しかし、フーケッドはふざけているわけではなく、真面目な顔で小首を傾げた。

 

「どうせ君は間もなく功績を上げて叙爵されるだろう? そしてすぐに陞爵される。何の問題もないよ」

 

 それを聞いたカインツはため息をついた。

 

「君はずいぶんと僕を買いかぶっているみたいだけど、僕は国に命令されて魔道具を作る気はないんだ。絶対にごめんだね。

 僕は臆病者でね、自分で責任を負える物しか作りたくないんだ。そんな僕が自らの手で爵位を掴むなんて無理な話だ。

 だから貴族の跡取り娘のところへ婿入りしたいんだ。最低だろう?」

 

 それを聞いても、フーケッドはそれを本気にはしなかった。

 カインツが貴族でいたいがために婿入りを希望しているわけではない、ってことはちゃんとわかっていたからだ。

 なぜならカインツは、グレイスよりもよい条件の婿入り話を全て辞退していることを、フーケッドは知っていたからだ。

 

 それにカインツが王家や国に関わりたくないと思っていることにもフーケッドは気付いていた。

 カインツは研究畑の人間で、政治経済や社交には全く興味がないというか、出世や権力も欲してはいなかったのだ。

 

 そんな風では将来伯爵家の当主として務まらないのではとフーケッドは懸念したが、領地経営と防衛は自分で、交際はグレイスがやると決まっているから大丈夫だとカインツは言った。

 

 しかしフーケッドは後になって本気でこう思った。あの時、無理にでもカインツと結婚させれば良かったと。

 辺境伯家はいくつか爵位を持っていたのだから、妹が結婚しても平民落ちをさせずにすんだのだから。

 

 そうすれば自分の妻と娘はあんな思いをしなくて済んだ。そして妹も幸せに自分の子と平穏に暮らせただろうに。

 まあ、それが自分勝手な思いだとわかってはいても。

 

 


 読んで下さってありがとうございました!

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