第15章 モードリンの決断✽過去回想・キシリール伯爵家の後継者✽
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第15章
やはりモードリンは、ラフェールが攻撃しているところを直接は見ていなかったという。
それでもラフェールの魔力の大きさが尋常ではない、ということはすぐに感じたらしい。
そしてこの脅威的な魔力のせいで、彼が命を狙われているのだろうと察したようだった。
今回はたまたま盗賊団と出食わしたせいでこんな危険な目に遭ってしまった。
しかし、恐らく辺境伯の城や王都の屋敷で暮らすよりも、この地に住んだ方がラフェールにとっては安全かつ平和にくらせるのではないか。そうモードリンは思ったという。
何故ならここには大魔術師であり、しかも魔道具作りが趣味という魔導師でもある父がいるのだから。
そして我が家もラフェールがいてくれればこれ程心強いことはない、と思ったらしい。
モードリンは少し前までは、自分に魔力があまりなくても特に気にしたことはなかったし、恥に思ったこともなかった。
女領主であるモードリンの母も、やはり魔力が少なかったからだ。それでもなんとか治めているのだからと安直な考えをしていたのだ。
自分も将来父親のような魔力の強い男性と結婚すればいいのだと。
しかし成長してくうちに、そんな簡単な話ではないことを段々と理解するようになっていった。
父親のように優秀な人間が、こんな危険でそう豊かでもない僻地に婿入りをしてくれたことは、まさに奇跡だったということに気付いたからだ。
つまり母は奇跡的に運が良かったのだ。しかし、自分にそんな運があるとはモードリンには到底思えなかった。
まあ母に似て可愛い顔はしているが、すぐ下の妹のように美しい訳でも頭がいいわけでもない。
自分がこの危険地域の領主に適任だとは思えなくなっていた。
そんな風に悶々としていた時に、モードリンはあの出来事に遭遇したのだ。そして気付いたのだ。
ミンティアがラフェールと結婚すれば、全てが丸く上手くいくのだということに。
だから魔力欠乏症になりかけて、部屋のベットで静養していたラフェールに、モードリンは単刀直入にこう尋ねた。
「ティアを守ってくれてありがとう。これからもずっと妹を守ってくれるかしら?」
と。ラフェールは瞠目した。しかしいつもの作り笑顔ではなく真剣な顔付きでこう答えた。
「もちろんです。僕はミアを大切に思っています。一生全力で守ります」
その言葉を聞いてモードリンは安心した。ミンティアが大切に思っているものを守ってくれるというのなら、家族も親類も使用人も領民も守ってくれるということだから。
そしてこの広大な森や領土も。
まあ、まさか結婚の話だとは思っていないだろうけど。
あとはミンティアの気持ちだ。
妹には嘘も誤魔化しもきかない。正直な気持ちを話そうとモードリンは思った。
そして案の定ミンティアは、自分が姉を差し置いて跡取りになるなど、とんでもないことだと激しく拒否をした。
魔力のほとんど無い自分では領地は守れない、とモードリンが言えば、それは自分が補うからとミンティアは主張した。
しかし、やはり女だけではこの地は守ってはいけない。しかし父親のような男性を見つけることは不可能に近い、という現実を伝えた。
「確かに婿入を望む男性の中には、強くて逞しくて、この地にふさわしい方もたくさんいるとは思うわ。だけどその人を私が好きになれるとは限らないでしょ?
貴族の娘に生まれたのだから、政略結婚なんて当たり前と言えば当たり前なんでしょう。
でもお母様とお父様を見ていると、やはり好きな方と結婚したいと思ってしまうのよ」
「わかります、それは……
私だって、お姉様には好きな方と結ばれて欲しいと思っています。
でも、お姉様が好きになられた方が、魔力持ちで、しかも婿入りして下さるという可能性もあるのではないですか?」
「確かに絶対にないとは言えないわ。けれど、その方がお父様のようにこの地を好きになって、本当に馴染んでくれるとは限らないわ」
「あ・・・」
「う〜ん。私が好意を持っている男性で、しかも魔力が高い貴族となると、ラフェール様しか思いつかないわね。
六歳離れているけれど、世の中親子ほど年の離れている夫婦もいることだし、まあ許容範囲内かしら?
彼が成人するのを待つのは辛いけど、まだ私も出産できる年齢でしょうし、跡取りのことも心配ないんじゃないかしら。
どう思う、ティア? 応援してくれるかしら?」
モードリンが小首を傾げると、ミンティアは大きく瞳を見開いて、愕然としたように姉の顔を見た。そして思わずこう呟いてしまった。
「いや……」
この時ミンティアは、初めてラフェールへの自分の気持ちに気付いたのだった。
彼は自分の保護対象者でも弟でもない。彼のことを好きなのだと。自分にとって唯一といえる存在なのだと。
だからたとえ大切で大好きな姉にだって、彼を渡したくないのだと。
そんな混乱して焦っている妹を見て、姉は優しく微笑んだのだった。
その後はトントン拍子に事は進み、ミンティアはラフェールと婚約した。そして、キシリール伯爵家を継ぐことに決まった。
ラリウル辺境伯はこの婚約に大喜びし、キシリール家に非常に感謝した。面倒事を全て引き受けてもらうようなものだったからだ。
彼らは、嫡女としての立場を譲ってくれたモードリンに深く感謝した。
そして彼女に謝意を表すために、辺境伯の王都の屋敷を自由に使って欲しいと申し出た。
キシリール伯爵夫妻は畏れ多いとそれを断ろうとしたが、モードリンはその申し出を当然の如く受け取った。
何を遠慮することがある。これまでラリウル辺境伯家のために、我が家がどれ程尽くしてきたと思っているのだ。
彼らの一番の悩みの種だったであろうラフェールを預かって、襲撃犯から彼を守り、魔術指導をしてやり、勉強をみてやり、色々と世話をしてきたのだ。
その上に、まだ婿入り前の婚約の段階でこの屋敷に住まわせてあげるのだから。
モードリンは妹達の婚約が決まる前からラフェールの正体を知っていた。
本来ラフェールの情報は、他家へ嫁ぐ身になったモードリンが知るべきことではなかった。
しかし、嫡女の地位をミンティアに譲る条件として、ラフェールの秘密を教えろとモードリンは要求した。
今後もし両親に何かあった場合、ミンティアを守れるのは自分と妹のメイシャしかいない。
それなのになんの情報も持っていなければ、助けたくても助けられなくなると。
「ラフェール様の秘密は闇が大きくて深い。知ってしまえばお前の身も危険に晒される。だから教えられない」
「お父様。私は敵のことを何も知らないまま殺されるなんてまっぴらなんです。同じ負けるにしても最期まで足掻いて抵抗したいんです。
そのために情報は必須です。何も知らないと、何もせずにやられてしまいます」
モードリンの言葉に父親のカインツは目を見張った。そしてこう呟いた。
「跡取りは、肝が座っているお前のままでもいいのではないか」
「でも、私ではラフェール様に相手にされないし、私もたとえ領地のためとはいえ、あんな可愛げのない二重人格の婚約者はごめんですわ。
それにそもそも私は、叔母様達のようにサポート向きの性格なんですの」
モードリンのこの言葉に、今度は母親のグレイスが驚嘆した。自分と妹達の関係を知っていたのかと。
「幼い頃から、ずいぶんと仲の良い姉妹だなとは思っていました。そして実際その通りなのでしょうが、普通嫁いだ妹が実家とここまで行き来をするものかと疑問には思っていました。
それに互いにそれほど裕福でもないのに、色々と融資をしたり協力し合ったりしていましたから。
でも、叔母様達とは単なる親族の付き合いではなく、いざという時のための運命共同体だったのですね」
「その通りよ。こんな魔物が多く住む辺境の田舎の地では、皆が互いに協力し合わないと生きてはいけないわ。
この辺境の地に住む領主達は、皆一族と言ってもおかしくない関係なのよ。だけどそれを公にしないのは、力の持ち過ぎだと目を付けられて、痛くもない腹を探られたくないからよ。
こちらとしては弱小領主達が、ただ身を守るために助け合っているだけなのにね。
それにしてもよく気が付いたわね、モードリン。さすが私のむすめだわ」
グレイスは目を細め、カインツも誇らしげだった。しかし、モードリンは少し悲しげにこう言った。
「このことに気付いたのは私ではなくミンティアです。
以前何故そんなに勉強するのかと尋ねたら、あの子はまるでそれが当然の如くにこう言ったの。
『もちろん、将来当主になったお姉様のお手伝いができるようにです。叔母様達みたいにね』
って。それでようやく悟ったんです。やっぱりティアは凄いなって。負けたと思いました。
でも、私は当主になるのは無理だけれど、叔母様達のようにサポートはできると思ったのです。
他所へ嫁いでも、ティアに困ることがあったら、絶対に私が助けに入ります。ティアの最大のサポーターになります。
ですからラフェール様のことを知っておきたいのです」
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