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仮面舞踏倶楽部  作者: まつがえ小飴
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親友との再会


 

 ひとりの女性が、カフェの店内に入ってきた。時刻は17時をまわったところで、客はまばらである。その女性は窓際の席に座った。季節は残暑の8月。夕方とはいえ、窓際の席には光が差し込むため、その女性のほかに窓際に座る客はいない。しかし、冷房の効きすぎた店内では、その席の方が女性にとってはいいのかもしれない。


 女性はアイスカフェラテを頼んだそうだ。それが運ばれてきたときには、角度を変えパシャパシャと写真を撮影し、気の済んだところでやっと一口飲んだ。やや明るい茶髪をふんわりと巻き上げ、肩の出たトップスを着た彼女は、まさに量産型女子。そんな彼女は20分ほど店内で過ごしていたが、一本の電話がかかってすぐ、店を出た。


「千香!久しぶりー!」


 彼女はどうやら待ち合わせをしていたようだった。


「愛美、遅くなってごめんね。久しぶりにこっちに来たら、道に迷っちゃって……」

「全然大丈夫!それにまぁ、久しぶりの帰省だし仕方ないんじゃない? てか、千香、ちゃんとメイクしてるじゃん!かわいい!」

「ありがと…… ちゃんとね、化粧はするようになったの。ちなみに、このアイシャドウは愛美からもらったやつだよ。」

「え!それって誕プレにあげたロムアンドのやつ? わー!ほんとだ!てか底見えしてるじゃん!」

「毎日これしか使ってないから……」

「いやー、愛用してくれてるのは嬉しいなぁ~」


 愛美と千香は高校の同級生であり、二人とも吹奏楽部に所属していた。同じ楽器をしていたわけではなかったが、自宅の最寄り駅が近かったこともあって、いつも一緒に帰っていた。最初は好きな音楽の話などで盛り上がっていたが、時が経つにつれて、二人は互いを補う関係になっていた。

 愛美はあまり勉強ができず、いつも欠点との戦いをするタイプだった。一方の千香は学年順位10位以内に入る秀才だったため、テスト前はよく愛美に勉強を教えていた。一方の千香は、おしゃれに疎かった。愛美は歳の離れた姉の影響もあってか、ファッションセンスに長けていた。なので愛美は一緒に服を選んであげたり、メイクを教えたりしていた。このように二人は、互いになくてはならない親友であった。しかし、高校卒業後の進路として愛美は都内、千香は地方の大学を選んだため、二人が直接会って話すのは、卒業式以来のことなのだ。


 二人は通りを下っていく。その間も、空白の時間を埋めるかのように、二人は話に花を咲かせる。

交差点に差し掛かるところで横道に入り、一軒の韓国料理の前へ。


「ここのお店、おいしそうじゃない?」

「うん。もともと愛美、韓国料理好きだったもんね。」

「うん!入ろ!」


 二人はそこでサムギョプサルを食べた。気の置けない間柄、お互い大きな口を開けてほおばる。

これが異性とデートとかであれば、もう少し口の大きさや、リップの落ち具合などに気を遣うのだろう。


「ところでさ、千香は彼氏の野田君と最近どうなの~?」


 愛美はにやりと笑みを浮かべ、聞いた。彼女の中では、この話題こそ本日のメインなのだ。


 千香は断じてブスではない。彼女のくしゃっとした笑顔は部内でも評判であり、愛美もそれに魅了された一人だ。そうならば高校時代、一人くらい彼氏ができたっておかしくないのだが、千香は男っ気がなかった。それはなぜだろうか。きっと、彼女がやけに大人びていたからだろう。例えば、彼女は高校時代のあだ名は「ママ」だった。いつも冷静で落ち着いていながら、少しおせっかいな彼女は、みんなのお母さん的存在だった。女子高生であれば、一度は友人同士で「だれが一番に結婚するか」という話をするものだが、そんな時彼女はいつもこう言われていた。


「千香が結婚して、子育てをしているところはイメージできる。でもその前段階として、彼氏といるところは想像できない。」


 愛美も、千香に対してそう思っていた。しかし、そんな千香にも彼氏ができたのだ。いつも裏舞台に徹しようとする彼女に、ついにスポットライトが当たったように感じて、愛美は自分のことのように喜んでいた。


「あー、野田君ね…… この間振られたよ。」


 愛美の口の中で、サムギョプサルの味がしなくなった。


「2週間前とかかな?ちょうど3か月くらいで振られたよ。」




 







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