全隊員消滅
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時間警察の本部は、1952年に存在する潜水艦だった。
太平洋戦争中に建造された巨大潜水空母、伊400型の幻の四番艦だ。
町子に連れられて、艦橋に降り立ったとき、艦内はてんやわんやの騒ぎだった。
次々に時間の渦が現れては消え、時間跳躍者が現れては消える。
男が叫んだ。
「消えたのは何人だ!? 把握しろ! 未来の連中に聞いてこい!」
別の男が答える。
「わかります! 俺は未来のこの艦に乗ったことがありますから。待ってください。いま記憶が来ました。2年後の隊員は全部で六十六人です」
「四分の三が消えたってのか!?」
艦橋が静まり返った。
三十分後、ぼくたちは艦内の会議室にいた。
重苦しい空気が立ち込めている。
さきほど怒鳴っていた男が、作戦机の上にカラー写真を広げた。それを見た瞬間、ぼくは叫びそうになった。
年齢こそ重ねているものの、写っているのは、あのぼくを殺そうした金髪女性のソフィアだったからだ。
男がいった。
「これから話す情報を手に入れるのに、三人の隊員がそれぞれ十五年の体感時間をかけ、うち二人が奴らに消された。心して聞いてほしい。
実時間で三年前に生じた、大日本帝国への一斉核攻撃だが、この歴史変化をもたらしたのは、タイムパトロール内の方針変更だ。この女は、新しい歴史においてタイムパトロールの統括本部長の地位についたグロリアス・グウェンドリンだ。2084年ニューヨーク出身、これまでの歴史ではタイムパトロールの一隊員として人生を終えていたが、どこで人生観を変えたのか、猛烈に組織内の序列を登り始めた。1847年から2145年を統括するタイムパトロールのトップは、長らくマッカーサー大統領だったが、組織内で暗闘が繰り返された結果、マッカーサー派の隊員は粛清され、彼女が支配するようになった」
ぼくは部屋の隅で、町子と目線を合わせた。
まさかと思うが、町子が崖から蹴り落としたことが影響を与えたのだろうか。
「よって、事態を打開するには、このグウェンドリンを」
時間警察のリーダーはそこまでいったところで口を閉じ、ふいと消えた。
渦を使って時間を超えたわけではない。
いきなり、消滅したのだ。
まるで存在そのものがはじめからなかったかのように。
消えたのはリーダーだけではなかった。場にいたぼく以外の人間全員が掻き消えていた。
もちろん、町子もだ。