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第9話 決断と責任


「アタシの化粧がなんだって?」


「配信動画見れば分かる。化粧が濃すぎだ。栞ちゃんはもっとナチュラルだぞ」


「大きなお世話だよ」


 樹は、かりんの腕を振り払うと一歩後ろに下がる。彼を照らしていたスポットライトが、今はかりんの姿を照らす。金色に染められた髪の毛とバッチリと決めたメイク。体操服にブルマ姿。太ももの毛穴までばっちり見える。扇情的な装いに樹も目のやり場に困っていた。

 それはマスクこそ付けてはいないが、『希望が丘ハニカム』の配信者蜂屋敷かりんの姿だった。


「カツラを被って、目立たない服に着替えて、化粧を落とせば、もう誰も分からないよな。あ、眼鏡も掛けてるよな。正解だろ? 君のその目立つ見た目もすべて計算だ」


 樹はやや挑発気味に告げた。かりんはみるみる苦虫を潰したような渋い顔になる。


「口惜しがるなよ、ただの歳の功って奴だ。俺は君に似た人間を知っている。用心深すぎるんだ、だからわざわざ君の方から顔を出すように仕向けた。変装した……いや、そっちの方が普段の君というべきか。それを見つけるのは苦労しそうだったからな。腹の探り合いは嫌いなんだ。シオリには君が必要だ。助けてくれ」


「いったいアンタ何者だ。シオリが死のうとしたって、いったい何があったんだよ。オジサンがアタシたちのこと知っているってことはさ、シオリが変身したってことだよね」」


「その点は気にする必要がない。とりあえず大丈夫だ。ネズミの化け物たちと戦ったけど、怪我ひとつないよ。いや、怪我はしてたけどすぐに塞がった」


「レミングか。だったら栞が後れをとるようなことはないね。シオリは強いんだ。アタシなんかむしろ足手まといだよ」


「そんなことはいい。メグミさんを殺した犯人を捜さないとシオリが処刑される。そういうことなんだろ」


「ああ、そんなことでアイツ死のうとしたのか。馬鹿だ。本当に馬鹿だよ」


「わかった。シオリに会って直接そう言ってやれ」


「うるさい。うるさい。情報が足りないんだ。情報が」


 かりんは樹の手を振り払うとぶつぶつと自問自答を繰り返す。


「状況がやばいんだ。こんなこと初めてなんだ。オジサンは何もわかっちゃいない。アタシだって二人を死なせたくなんかない。でも、どうすればいい。敵の目的はなんだ。もしかしたら、次の標的はアタシかもしれない。だとすればこうして隠れてやり過ごすのが一番じゃないか。せめて敵の能力さえわかれば……」


 かりんは怯えたように俯いて、頭をかきむしる。


「栞は強いんだ。それに比べればアタシなんか、雑魚同前。次に殺されるとしたらアタシなんだ。今できることをする。アタシはデータを集める。ピースさえ嵌れば答えは見つかるんだ。ピースが足りない、足りないだけなんだ」


 樹は屈み、かりんの視線の高さに合わせて語る。


「かりんちゃん。俺の方を見てくれ。質問に答えてくれ。君はメグミさんを殺した犯人について何か知っているのか。まだ誰かが狙われるのか」


 彼女はポケットから携帯電話を取り出した。そこにはこんな文面が表示されている


『Dear my friend, デパートメント

 我々は君の才能を高く評価している。

 避難所に椅子は一つだけ。

 その時が来たら、迷うことなく我々の下に 』


「今朝、このメールが届いた。その直後に魔法少女たち専用のネットワークが遮断された。そのすぐ後に栞から恵さんが殺されたって聞いたよ。心当たりがあった。噂に聞いたことがある。死神による粛清だ。魔法少女として相応しくない仲間を、粛清しようと考えている一派がいる」


「おいおい、物騒だなおい。どうなってるんだ。魔法少女って連中はよぉ」


「『大いなる力には、大いなる責任が伴う』だろ。恵さんは戦えない魔法少女だった。そいつらに言わせれば、義務を果たしていない魔法少女だ。今の状況は奴らがきっと動き出したんだ。アタシのテリトリは情報分析だ。情報を集めて、繋げて、最も割のいい方法を見つける。損得勘定がアタシのすべてってわけ。だから本当の役立たずが誰かってアタシ自身が一番分かっているんだ。レミングでさえアタシの体術じゃあ捌ける自信がない。栞はずるいよ。いつも自分のことを落ちこぼれのように言うけどさ、卑屈さと謙虚さは違うんだって教えてやってよ。殺されるのはたぶん、アタシだ」


 樹は黙って小さな少女の言葉を聴く。


「本部のことは心配しなくてもイイ。今、ナツキが本部に向かっている。馬鹿げた理由で栞が処刑されることなんてありえないさ」


 樹は、カリンの腕をグッと引っ張る。


「言いたいことはそれだけか。話が終わったんならさっさと行くぞ」」


「なんだよっ。離せよ」


「ガキの愚痴くらいはいくらでも聞いてやるって言ってるんだよ」


「アタシの話を聞いていたか。わざわざ一緒にいる意味なんてない。リスクが増すだけだ。」


「意味はあるよ」


「あるもんか」


「もう一度言う、意味はある。君自身が今すぐにでも栞を助けに行きたいと思っているじゃないか。自分の心に正直であることに意味がないというのか」


「……本当にそれでいいと思うか。アタシはデータを集め、選択肢を提示する。出来るのはそれだけなんだ。仲間の生死に責任なんて負えない。怖いんだ」


「責任? 栞がそんなこと気にすると思うか。」


「……ふふふ。栞は馬鹿だからね……」


 かりんの顔が一瞬緩んだ。


「ところで、オジサンは結局誰なんだよ。無駄に熱血でちょっとだけウザいんだけど」


「だから栞の親戚だが……まぁ、できれば家族といってもらいんだけどな」


「ふーん、家族ね。栞には家族はいないと聞いてたけど、まぁ随分面倒くさい奴がいたんだね」


 



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