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2021.4.25―side A

 昨日は毒について気の赴くままに書いたが、一貫して他者に使用することを前提に話を展開していたと思う。今日は、自分自身に対して毒を使用することを考えたい。とりあえずは、服薬・服毒自殺について話す。自殺志願者の各位は当然読了済みであろう「完全自殺マニュアル」によれば、服薬自殺の成功率はかなり低い。残念なことに手元にないので正確な数値が分からないのだが、なかなか成功しないと書かれていたと記憶している。某書の中では、縊首があらゆる意味で最良の方法として紹介されていた。成功率、手軽さ、他人が被る迷惑などを考慮した結果らしい。これには特に異論を唱える気はない。だが服薬・服毒自殺には、縊首にはないメリットがあると私は思う。死ぬために手を打ったときから、肉体が危機を察知して苦痛を訴え始めるまでの間に、比較的時間があるのだ。勿論、最初の一撃で首の骨が折れるなり外れるなりして即死できれば、或いは頸動脈の血流を止めてすぐに気絶するか、頸動脈洞の圧迫による頸動脈洞反射によって急激に血圧が低下して七秒程度で意識を失えるのなら、そんな時間は必要ない。だがドアノブなどを使って首を吊る場合、というか首を吊れそうなアイテムがドアノブしかなかった場合、首の骨を折るのは難しい。頸動脈の血流を止めるのも、頸動脈洞の圧迫による頸動脈洞反射を狙うのもなかなか骨が折れる。その場合は窒息死を狙うことになるだろうが、これは非常に苦しく、意識が消えるまでの間その苦しみを我慢して首を吊り続けなければならない。並大抵の精神力ではこの苦しみを乗り越えて死に至ることはできないだろう。自殺企図というのは普通、心の弱った人がするものなので、これは少し皮肉なことだ。私も首を吊ったことがあるが、全身の細胞が酸素を求めて悶え苦しむのを感じたし、頭が爆発しそうになった。あの苦しみを乗り越えるのは、当時の私には無理だった。あのとき、私は床につけていた尻を上げた。首にかけたベルトと首の間に隙間ができる。激しく呼吸した後、私は苦しみに耐え抜くことができなかった自分を軽蔑し、嫌悪した。とまぁこんな感じで、ドアノブで首を吊って死ぬのには結構忍耐力が要る。何せ、少し姿勢を変えるだけで即座に苦しさを解消できるのだ。誘惑に打ち勝つのは難しい。首吊り自殺の馬鹿みたいな失敗例だ。とはいえ、一度意識を失うことができれば、それから落命するまでには十数分程度の時間しかなく、妨害される可能性は低い。その点では、やはり縊首は優れているだろう。

 服薬・服毒自殺が優れている点に話を戻すが、死ぬために手を打ったときから肉体が危機を察知して苦痛を訴え始めるまでにタイムラグがあることは、ドアノブによる縊首で必要になるような忍耐力が全く必要ないことを意味する。つまり、自殺潜在能力が大して高くなくても自殺できる可能性があるのだ。まあ、薬をたらふく飲むのは面倒だし、腹が水で膨れて多少苦しいかもしれないが、縊首の苦しみに比べたら恐れるに足らない。大量の錠剤が喉を通っていく感覚は、微弱ではあるが快感ですらある。このように、服薬自殺では死ぬために手を打つことに全く痛みを伴わないのだ。手を打った後は、死ぬのに必要な時間、誰にも発見されない場所に身を置き、外部に連絡が取れないようにすればいい。誰にも内緒でビジネスホテルに数日分部屋を取ってスマホを叩き壊すとか、色々方法はある。誰かに発見されて救急搬送されて胃洗浄なんかされたら興醒めだから、これらは当然の対策だ。それらが済んだら、後は心静かに待っていればよろしい。死のほうから黒い車に乗って迎えに来てくれる。死はあなたを抱き上げて、座席に寝かせ、毛布をかけてくれるだろう。そして車は冥界に向かって走り出す。乗り心地はまちまちだ。眠ってしまうほど穏やかかもしれないし、血反吐を吐いて暴れるほど苦しいかもしれない。それはあなたがどんな薬物・毒物を選んだかによるから、なんとも言えない。聞いた話によると、強力な毒物のツートップ・ボツリヌストキシンと破傷風トキシンでは、中毒死の様子が全く異なるらしい。ボツリヌストキシンはひっそりと殺すが、破傷風トキシンの殺しは騒がしい。ボツリヌストキシンの中毒症状は筋肉の麻痺で、身体が自由に動かせなくなり、重症になると呼吸筋までが麻痺して窒息死する。意識は最後まであるらしいので、静謐な見た目に反してなかなかに苦しい死にかただ。破傷風トキシンの中毒症状は筋肉の硬直と痙攣発作で、そのために背骨が折れる人もいるらしい。呼吸ができなくなることもある。見た目通りの苦痛に満ちた死にかただ。中毒症状が真逆なのだから、死んでいく様子が全く違うのも当然といえば当然だ。それぞれの毒の体内での働きの仕組みを丁寧に解説してもいいが、そういう細かいことは自分で調べたほうが身につくと思うので、気になる人は軽く勉強してみて欲しい。

 縊首のデメリットを長々と述べたので、服薬・服毒自殺についてもデメリットを述べなければならないと思う。一つは、薬毒物の中毒症状には嘔吐などが含まれるものもあるため、吐き戻してしまって失敗する可能性があることだ。これは制吐剤などによってある程度対策できる。二つ目は、薬や毒を飲んでから死ぬまでには時間がある場合があるため、自分で救急車を呼んでしまう、或いは他人に救急車を呼ばれてしまう可能性があることだ。そうなった場合、あなたは高確率で死ねない。だがそれは、人目に触れず外部に連絡を取れないような環境を作れば問題ではなくなる。その程度のこともできないようでは、他の方法を使ったって死ぬのは無理だろう。三つ目は、一般人が強力な(致死量の少ない)薬毒物を手に入れるのはそれなりに難しいということだ。精製されたボツリヌストキシンやら破傷風トキシンやらを一般人が手に入れるのは困難だろう。古くなった適当な缶詰とかソーセージとかハムとかをボツリヌス菌が増えていることを期待して食べてみるとか、ボツリヌス菌や破傷風菌に感染することを祈って怪我をした手で土いじりをしてみるとか、できることがないわけではないが、全くもって確実性に欠ける。その次に強い毒のリシンを含むトウゴマを使うにしたって、精製されていないただの素材をどのくらい使えばいいかわからないだろう。一応、トウゴマの果実三つで大人が死ぬと言われてはいるが、実験で実証されたかどうかは確認していないので定かではない。仮に致死量に達しなかった場合、死ぬほど苦しんだのに死ねなかったという踏んだり蹴ったりな結果になる。これは向精神薬(睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、etc)などの薬物を使った場合も同じだ。致死量は体重や体質などによって変動する。計算上の致死量の倍でも死なないかもしれないし、半分でも死ぬかもしれない。この不確実性も、服薬自殺のデメリットだ。これが四つ目だ。五つ目は、猛毒ランキングに載らないような薬毒物、一般のクリニックで処方されるような向精神薬や薬局で買える市販薬で自殺しようとした場合、結構な量が必要なことだ。種類にもよるが、十錠や二十錠では全然足りない。最低でも三桁は必要だ。処方薬をそんなに集めるのは大変なので、市販薬のほうがお手軽だ。たとえばカフェイン。およそ百錠(含有量にして十グラム)で致死ラインに達する。

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