2021.4.28―side B
今日は特別いいニュースがある。スマホの使用可能時間が一日十五分だったのが、十時から十六時までに拡大したのだ。まぁ、一回首を吊って以降ずっと超いい子にしてたので当然だろう。自傷も自殺企図もしてないし、奇行もしてないし、医者や看護師に難癖付けたり不平言ったりもしていない。心の中ではボロクソに言っているが、私はそれを口に出すほど馬鹿じゃない。他の患者と喧嘩もしてないし、表情もにこやかにしている。問題行動は一切していない(こんな日記を書いてることが問題かもしれないが)。だから多少の自由が許されるのは当たり前だった。勿論、私の熱弁の効果もあったかもしれない。私は病室に尋ねてきた医者に、スマホがあればどれだけの知的活動ができるようになるか(調べ物とか執筆とかのことだ)を繰り返し語り、イラスト依頼のほうがODしてるより楽しいとも言った。医者はこれを聞いて眉を上げ、スマホが使えるようになったら誰か来るからと言って出て行った。私はスマホ使用の自由度が上がることを確信した。何分かして、看護師がスマホとスマホ使用に関する同意書とかを持ってきた。私は同意書にサインし、スマホを受け取った。私はこの件で、医者も看護師も好きになった。自分でも現金すぎると思うが、私の他人への感情なんてのは簡単に揺らぐもので、すぐ好きになるしすぐ嫌いになる。それは仕方のないことだ。個人的に好きな看護師もいる。その看護師は若い女性で、ぱっちりした大きな目がキラキラしていて、マスク姿を見た限りでは結構美人だ。なんで好きなのかというと、単に感じが良くてよく話しかけてくれるからだ。感じが良くてよく話しかけてくれる人を嫌うことは稀だろう。ここまで読んでくれた読者は私が相当感じの悪い人物だと思っているだろうが(まぁそれは事実でもあるのだが)、私は基本的に来る者拒まずだし、好意には好意で返すようにしている。頭の中でどう思っているかはともかく、人当たりも別段悪くない。私は単に露悪趣味なだけで、そこまで悪い人間ではない。だが、今までこれに書いたことは全部本音だ。こんな過激で攻撃的な本音を胸に秘めている人間を善人とは呼べないだろう。だから結局、私は悪人だ。まあ、それはどうでもいい。完全な善も悪もこの世には存在しないのだから、自分がどっちか、白か黒かで考えることにはあまり意味がない。話が逸れたが、私はスマホを受け取った後、二時間ほど軽い作業とTwitterとLINE、それに電話をした。電話は自分でかけたのではなく母親からかかってきたのだが、喋っていた時間は妹とのほうが長かった(途中で代わってもらったのだ)。妹は高校生になったばかりで、慣れない環境でも頑張っているようだった。実に結構だ。妹は数少ない好きな人間なので、元気そうで安心した。
今はこれを書きながら某老婦人とお喋りをしている。悪くない時間だ。M700とRPG7とM60とM67ハンドグレネードを持ったスタローンみたいに元気だし、もう退院しても平気だと思う。今なら、スティンガーミサイルさえあればAH-1Zヴァイパーも撃墜できそうだ。気分変調症とかいうフザけた診断もムカつくので、早くこの病院からオサラバしたい。前の病院ではうつ状態と診断されていた。自分でもそうだと思っている。気分変調症の説明に「軽いうつ状態が長く続く」とか書いてあるのが本当にムカついた。「軽い」だって? 気に障る表現だ。しんどいから助けてくれと訴えてるときに、軽症ですよと言われたら誰だってげんなりするだろう。これ以上悪くなるかもしれないと思うと不安になるし、大したことないんだからそのくらい耐えろって言われている気がする。それに抑うつエピソードなしと判断されたことも気に食わなかった。会って十分も経ってない、ろくに話してもいないただの医者に何が分かるというのだ。一番状態が悪かった時期のことなど露ほども知らないくせに。非常に失敬だ。もうすぐ夕食なので、今日はここまでにしておこう。
と思ったが、二十二時頃ディルームで雑務をしていたら、びっくりしたことがあったので書いておく。テレビが消えて人のいなくなった静かな薄暗いディルームで、私は気持ち良く作業をしていた。そこへ、パサパサの長い髪を振り乱した若い女が姦しい足音を立ててナースステーションにやってきて、看護師に食ってかかったのだ。彼女は、患者に寄り添う気あるんですか? とか、私の悪口言いましたよね? みたいなクレームをつけていて、私はAdoの「うっせえわ」のサビを口遊みたいのを堪えねばならなかった。はぁ? うっせえうっせえうっせえわって感じだった。激昂した彼女にも看護師は丁寧に優しく対応していて、私は医療従事者という存在を少し尊敬した。私だったら、黙れメンヘラクソ女、とっとと失せやがれ、二度とそのキモいツラ見せんなとか言って終わらせる。だいたい、一介の看護師に患者への心理的な寄り添いを期待するのが間違ってるし、悪口のほうは多分彼女の妄想だ。ここは急性期治療病棟だからあーいう頭のオカシイ手合いがいるのは仕方ないが、彼女の騒がしさ、厚かましさに私は閉口した。しばらくの応酬の後、望む言葉が得られないと悟ったのか、彼女は「死ねババア」とかなんとか、対応していた女性の看護師を口汚く罵ってから去っていった。品のない足音が廊下に響いた後、雑にドアを閉めるバカでかい音がして、私は飛び上がりそうになった。まったく心臓に悪い。迷惑千万だ。ああいうアホは隔離室に閉じ込めておいたほうがみんなのためになると思う。あーいう連中は腐った蜜柑と同じだ。一緒にいると私までイカレるかもしれないので、彼女とはなるべく距離を取り(心理的にだけじゃなく物理的にもだ)、目を合わせないようにしようと思う。




