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冷徹少女が行く

前回の続きです

 民宿にて寝る場所を確保したときに女子3人が部屋に入ったのを確認すると、エブリィはそのまま中に入らずに出ていこうとする。


「どこに行くのよ、こんなときに。」


 それをジェンヌが止めた。 マリダもカナムもあまりにもエブリィが自然に出ていこうとしたので気が付かなかったようだ。


「逆に女子3人の部屋に男子が入る理由ある? むしろ邪魔でしょ?」

「あんたが借りたんだからいいじゃないの。 使えば。」


 エブリィは困った。 そこまで危機管理が出来ていないのかと。 しかしそれを言ってしまえば、むしろ恥をかくのはジェンヌである。 それは避けたい気持ちもある。


「というかあんたが明日は頑張るんでしょ? あんたが不調だったら意味ないじゃないの。」

「本来の受注者はマリダだよ。 僕は付き添い。 能力的なもので呼ばれただけだよ。 だから別に・・・」

「あ、あの・・・」


 気にしないでとエブリィが言おうとしたときに、マリダがモジモジしながらこう訴えた。


「エブリィ君は、そんなことをしないって、信じてますから。 だから、この部屋を、使ってください!」


 そうマリダから言われた。 頭を深々と下げられてしまってはエブリィも引けなくなったので、ベッドは使用しないことを理由に、エブリィは部屋に入ったが、エブリィ本人は頭を悩ませた。


「信頼されてるってことでいいんだよね? 僕の行動は間違ってなかったよね?」

「・・・ごめんなさい。 そこまで気が回ってなかったわ。 これは私の落ち度よ。」


 ようやく事の重大さに気が付いたジェンヌは素直に謝罪した。 とにかくエブリィとしてはなにも起こさないように立ち回ればそれでいい。 マッシュ程ではないにしても、彼もどこでも眠れる体質になっているので、カナムの少しの冷気で寝やすくもなっているので、ちょっと寝心地は悪いが椅子に座って、早々に寝ることにした。


 今女子達がここまでくるのに流した汗をシャワールームで洗い流しているのも関係無く、エブリィは眠りについた。


 エブリィは不快感から目を覚ます。 カナムがいるはずなのに暑さが伝わってくる。 重さも感じる。 恐る恐る目を開けると、なにかが乗っているのが確認できて、それがマリダだということも確認が取れた。


「・・・え? マリダ?」

「・・・ん。 あ、おはようございます。」

「うん、おはよう。 とりあえず僕の上から離れてくれないかな?」

「あー はい。」

 そういってあっさり退くマリダ。 その様子をわざわざ見ていたにも関わらず何も言ってくれなかったジェンヌとカナムに、エブリィは目があった。 エブリィはどういうことかという目で訴えたが、2人は横に首を振るだけで、それ以上はなにも言ってくれなかった。



「ここがその被害のあった村周辺か。」


 火山地帯とはいえ人は工夫すれば住める。 そんなことを表すかのように固そうな土の所が耕されていてなにかが育っている。 恐らく水は水脈を直接使っているのだろう。


「まずは被害の状況を確認しに行こう。」


 そういってエブリィ達は村に向かって下っていく。 今はエブリィ以外の女子3人は口元にガスマスクをしている。 エブリィが言うには今回噴火した際に発生した煙に毒素が混じっていることを自分の身で確認した。 エブリィは「毒持ち」なので、ある程度の毒なら効かない。 それでも他の人にとっては有毒なので、最小限の措置で対処させてもらっているのだ。


「客人には本当に申し訳ないと思っております。 被害といってもそんなに大きくは無いのです。」


 そうエブリィ達に頭を下げる村長代理である娘。 当の村長は体調を崩した人の看病をしているのだとか。 ここの村長は看護関係をしていたらしく、それなりの対処はしているようだが、直接的な解決にはまだ至ってないようだ。


「それならそれで問題はないのです。 ちなみに体調を崩した人の特徴としては何がありますか?」

「具体的に言ってしまえば体温上昇があります。 ここにいる人たちは暑さに慣れています。 なので一般的な環境下にいる人たちよりも平均体温も高いのですが、その平均体温よりも高いことが分かっています。」


 その症状を聞いたエブリィはあるひとつの仮定を考えた。


「今回のは神経毒・・・いや、熱毒になるのか。 となると今回の噴火はこの毒を持つモンスターが任意に起こした噴火なのかな?」

「どういうこと?」

「つまりだよカナム。 その毒を撒き散らすために、わざわざモンスターが火口まで言って、噴火をさせた。 もしくはさせてしまったって事だよ。 モンスターだって、必ずしも溶岩や噴火に耐えれる訳じゃないから。」


 その説明に女子3人は顔を見合わせる。 つまりそれを確認しにいくために、わざわざ火口まで行かなければならないということだ。 危険が伴うのは百も承知だったが、ここまでくると死と隣り合わせになってしまうということだ。


「最悪住民の救助と成分分析さえして、後はそれに対する坑内なんかを提供すれば依頼事態は終わる。原因を確認しに行くわけではないからね。」

「でもあなたは行くんでしょ?」


 カナムがそうエブリィに問い質す。 この中でエブリィはただ一人、火口に向かい、原因を調べにいくと決意していたのだ。


「隠すつもりは無かったんだけど、危険な目に遭うのは男子である僕の役目だからね。 だから君達は住民の救助と介護を・・・」

「そんなのダメです。」

「マリダ?」

「受注者は私。 ならば原因追求するのは私でもあります。 もしエブリィ君が行くのならば、私も行きますよ。」


 いつもは弱気な彼女がエブリィに対して強い意思で公言する。 その心意に諦めがついたのか、エブリィは肩を竦める。


「分かったよ。 でも本当に直接火口に行く訳じゃない。 確認するための望遠鏡があるから、もし不審なものがあったら、それを確認しに行くだけ。 危険な場所には飛び込まないよ。」

「はい!」

「あなた達が行くなら私も行くわ。 道中のモンスター処理は任せて。」

「暑さでへばられてはいけませんので、私も行きます。」


 そうしてエブリィ達は村長の家を後にして、火山口に向かうのだった。


 作戦は至ってシンプルで頂上近くを定期的に望遠鏡で覗き、少しでも違和感があればそこに向かって歩く。 それだけの事だ。 そしてエブリィもガスマスクを付ける。 エブリィ自身も、簡単には毒にはやられないと自負しているが、これは念のための措置である。


「まずはここから確認していこう。 何か見えたら報告を。」


 望遠鏡を覗き込みながらそう喋るエブリィだが、実際に彼が思っているのは、火山の噴火口出はなく、中心部に何かがいるのではないかと言う憶測だ。 上から何かをするにしても高さがありすぎて役に立ちはしないだろう。 ならばもうマグマに近い下の方で何かあったのではないかと考えるのが普通だ。


「なにもいないわ。 このまま登っていきましょう。」

「賛成だね。 行こうか。 この暑さなら余程のモンスターじゃない限りは火山口には近づけない筈だから。」


 今までの冒険の経験も含めた上で言ったことをエブリィは実践する。 そして半分ほど登ったところで再度望遠鏡で覗き、確認したところで噴火口近くまで登り詰める。 そしてエブリィは一度ガスマスクを外す。


「エブリィ君!?」

「大丈夫。 僕がマスクを外しているのは毒素がないか直接確認するためだよ。 マスクを付けた状態だと分かりにくいからさ。」


 そしてエブリィは大きく深呼吸をする。 エブリィは問題はなさそうだと首を縦に振った。 エブリィは「毒持ち」を持っている故に毒状態にはならない。 だが、毒があると認識することは出来る。 人体に影響がないだけで、実際には毒を盛られている事には変わりはない。


 それを確認したマリダも同じ様にマスクを外して、深呼吸をする。 すると少し苦しそうにしながらその場にしゃがみ込んでしまう。


「マリダ!?」

「ジェンヌさん・・・私の涙を・・・採取して・・・下さい・・・」


 マリダの申し出にジェンヌはすぐに行動に移り、マリダの鞄の中からシャーレを取り出して、流している涙を採取する。 これを持ち帰れば機関の人間が原因や対策などを作ってくれることだろうと考えたのだ。


「全く・・・エブリィ君といいマリダといい、どうしてこう、自分の体を大切にしない人ばかりなのかしらね?」


 ジェンヌの言ったことは完全に嫌味なのだがジェンヌも苦笑をしているので、本当の嫌味で言っているのではないようだ。


「それで? なにか原因は掴めそうなの?」


 そんなやり取りを見ながらも冷静に質問をするカナム。 その質問にエブリィは答える。


「今回の噴火による被害はあるモンスターが原因じゃないかな。 多分今回の被害にあった人はそのモンスターが本来なら吐く火傷を伴う毒を吸い込んでしまって、体内から熱が現れたって感じかな?」

「そのモンスターを倒せばいいの?」

「いや、もうそのモンスターはいないよ。 多分落ちた衝撃で噴火したんだと思う。 だから今は大分毒素が薄くなってるから、マリダが浄化してくれた涙の成分で抗体を作ればこの被害は収まると思うよ。」

「そう。 それならいいのだけれど。」


 そういって苦しそうにしているマリダに歩み寄っていくエブリィ。


「さ、マリダ。 依頼報告のために帰ろうか。」

「は、はい。」


 そして手を取ろうとしたときに不意にエブリィは体がふらついた。 後ろに倒れるかと思ったが、それは冷たい感触によって妨げられた。


「全く、あなたも無茶をし過ぎてはなくて? 少し位体を養いなさい。 それが「冷徹」である私からの忠告。」

「そうだね。 この依頼が終わったら少し療養することにするよ。 それともう支えなくても大丈夫だよカナム。」

「またふらつかれても困るので、もう少しこうされてなさい。」

「いや、そうじゃなくって・・・その・・・む、胸が・・・」


 今エブリィはカナムの胸に倒れ込んでいるような姿勢になっているので、複雑な心境になっているのだ。 男子としては喜ぶべきなのだろうが、体の心配をしてくれているカナムにそれは失礼だと思っていたりもする。 それに気がついたカナムもエブリィを離す。


「きゃっ! ご、ごめん!」


 さすがに恥ずかしくなったのかカナムはどことなく照れてしまった。 それを見てエブリィも申し訳なさそうにその場に座る。 その様子に当てられたのか、マリダがエブリィを自分の方に引き寄せて、そのままエブリィの頭を自分の胸に飛び込ませた。


「え!? マ、マリダ!?」

「私だってあるんですもん。 カナムさん程じゃないかもしれないですけれど、出来るんですもん。」


 マリダの言っている意味が理解できないまま、エブリィは困惑を極めた。


「ほんと、言わなかったらバレなかったのに。 まあ、エブリィ君に限らずに、得耐性の残り2人もあんなんだし、思春期男子としては、もうちょっと煩悩があってもいいと思うんだけどねぇ。 下心丸出しでもそれはそれで困るけど。」


 そんな状況を鉱石採掘のために離れて見ていたジェンヌは誰にも聞こえない声で呟いた。 その手には黄色に輝く鉱石が握られていた。


 ちなみにあの後すぐに下山して、タラーサレンに戻り、報告がてら、研究機関にマリダの涙を提供して、火山地帯の人達の症状が改善されたのは言うまでもなかった。

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