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冷徹な彼女は塩対応

「・・・ふーむ。」


 依頼書の張られた掲示板を見ながら悩んでいるエブリィ。


 何時もならばそれっぽい依頼を適当に選べばいいのだが、今回はそうはいかない。 なぜならばいつもの2人が今回はいないからだ。 ガーナは前に話していた「動けないほどの痙攣」が発動したようで、少なくとも半日はまともに動けない。 マッシュはエブリィが来る前に別のグループと依頼を行ってしまったようなので、1日は帰ってこないことが判明している。


 よって2人がいない今日1日は彼にとっても複雑な1日になっている。


 というのも、依頼を受けないよりは採取依頼だろうが、1人で出来るならばとりあえず受けるのが彼の信念で、暇なときはあまりないのだ。 暇を作りたくないという意味合いもあるだろうが。


「やっぱりここは手軽な採取依頼がベストかな? でもあれくらいの依頼なら僕よりも後に来た後輩に残しておいた方がいいし、でも討伐依頼は見る限り1人では苦戦するモンスターばかりだし、どうするかな・・・」

「エ、エブリィ君。」


 エブリィは名前を呼ばれたので振り向く。 そこにいたのは依頼書を持っているマリダの姿だった。


「やあマリダ。 その依頼書は?」

「えと、その。 また特殊依頼なんだけど、これ、エブリィ君にも、当てはまるんじゃないかなって思って。」


 そういってマリダはエブリィに自分の持っている依頼書を渡す。


『活火山による噴火の被害を報告、近隣の住民の保護の要請

 ランク「-」

 報酬 30000M (交通費、宿泊費も含む)』


 行く場所は火山地帯。 前回行った氷山地帯とは真逆の方角に面していて、火山の頂上から定期的にマグマが流れているためその一帯の温度は恐ろしく暑いのだそうだ。 そして火山は今でも噴火を定期的に繰り返している場所だ。


「火山地帯か・・・でもなんで僕に?」

「今回噴火した際に、今までと違う火山煙があったらしくて、体調を崩している人が多かったから」

「なるほど、毒かもしれないから、耐性のある僕が行くのが早いって事か。」


 エブリィがそう答えるとマリダは怯えた様子になりながらもこっくりと頷いた。 もちろんマリダがこの依頼を貰った理由も彼女の特性「泣き虫」があっての事だ。 今までと違うとなれば、対処の仕方を変えなければならない。 研究機関の人間も同じことを繰り返すほど暇ではないのだ。


「まあ依頼を受けようとは悩んでいたしそれ事態は問題ないんだけど・・・」


 エブリィはあまり火山地帯の依頼を進んで行こうとは考えない、何故ならば


「あそこの敵、硬いんだよねぇ・・・」


 そういって肩を落とす。 元々火山地帯は鉱物を取るのに最適な場所でもあるため、マグマが冷え固まっている場所もあって地盤はかなりしっかりしている。 その為そこに生息しているモンスターも必然的にその石を食料としていると考えると、皮膚や装甲の硬度は簡単には刃が通らない程になっている。


「私も・・・戦闘は不向きなので・・・」


 自分の戦闘能力の皆無さにマリダは、しゅんとしてしまう。



 マリダの武装はこの世界でも珍しい「調律師」だ。 相手の体に悪い効果を掛けたり、逆に味方に良い効果をつけたりする音楽を奏でる人だ。 ちなみにマリダの主な演奏楽器はフルート。 これが一番相手の耳に届きやすいのだとマリダは言う。


「まあ、その辺りは仕方ないよ。 でもそうなるともう少し戦力が欲しいな。 特に魔法関係の。」


 物理で効かない相手なら魔法攻撃が有効だ。 逆に魔法攻撃が効かなければ物理で殴ればいい。 こういった世界の理とはそういうものだ。


「でも、誰を誘えばいいのか・・・」

「硬い上にタフだからなぁ・・・火山地帯のモンスターは。 だから・・・」


 そういってエブリィは目当ての人物へ足を運んだ。 向こうも気が付いたようで、飲もうとしていた飲み物をおいて、手を振ってくる。


「あら、エブリィ君。 今日は1人・・・じゃないか。 おはようマリダさん。」

「おはようございます、ジェンヌさん。 朝ごはん中すみません。」

「いいのよ、今貼られてる依頼があんまりいいのじゃないから、今日はお休みしようかと考えていたのだけれど・・・」

「あぁ、それじゃあ迷惑かな。 他の人を・・・」

「なに? 面白そうな依頼でもあるの?」


 休もうと思ってる人間に無理矢理・・・ともエブリィは思ったがとりあえず話してみるだけでもと思い、依頼書を見せる。


「ふーん、火山地帯か。 これ依頼外のことをしても問題は起きないでしょ?」

「うん。 依頼中の採取については提出をしない限りは所有権は採取した人間にあるからね。」

「なら行くわ。 ちょっと必要な鉱物を探したいのよ。」


 意外な理由でジェンヌが仲間になる。 そんな彼女を戦闘に巻き込む可能性があるのが気が引けるが、彼女の決断を無下には出来ない。


「火山地帯なら、彼女も連れていかない?」

「彼女?」

「・・・正直気が引けるというか、その辺りがちょっと不憫で可哀想というか・・・」


 エブリィの一言に、マリダもこの後に誰に会いに行くのか分かった。


 エブリィは決してその人物が嫌いなわけではない。 ただ向こうがこっちの事を苦手なんじゃないか、というくらいに()()()のだ。 しかしこちらとしても彼女の力は絶大なので、行くしか道はない。


 彼女が来ているであろう席に向かう。 すると段々と肌寒さを感じ始めた。 この肌寒さが彼女がいることを確信させてくれる。


「カナム。」


 エブリィが名前を呼ぶと静かに佇んでいた、白いフードを被った猫目の女子が反応した。


「久しぶりね。 エブリィ。 ジェンヌもマリダも久しぶり。」


 少々低い声で3人の事を呼ぶ彼女こそカナム・トランスファーである。


「久しぶりねカナム。」

「なかなかお会い出来なかったので。」

「それもそうよね。 こんな私ですもの。」


 気軽に話しかけてくれる女子2人を、つんけんした様子で返す


「ねぇカナム。 この後時間ってあるかな?」

「エブリィ君? 私そう言うのは・・・いえ、あなたの場合は依頼の話よね。」


 カナムはなにか別のことで誘われたのかと思ったが、エブリィだということですぐに納得する。 何度かエブリィを含めた得耐性の3人から声をかけられることがしばしばあったので、3人がどんな内容でカナムに話しかけるのか知っているのだ。


「うん。 カナムにはちょっとキツいかもしれないけれど、良かったらどうかなって。」

「内容によるわね。」


 そういってエブリィはカナムに依頼書を渡した。


 それから数時間後、エブリィ達一行は火山地帯の麓まで来ていた。 火山地帯では麓までなら馬車でこれるが、それ以上近付くと馬の方がバテてしまうので、近くの小屋で預かるしかない。 危険を伴うため徒歩での進行となる。


「ここからもう少し進んだところに小屋のような場所がある。 今日はそこに泊まらせてもらおう。」

「賛成ね。 というかどうせそこを通らないと往復できないから、そこまでは辛抱ね。」

「暑い・・・ですけど・・・上着を羽織っていないと・・・放射熱で・・・肌が火傷して・・・しまいます。」


 エブリィ達3人はそびえ立つ火山を見ながら、暑さに苦労をしていた。


「そうね。 やっぱり火山地帯はあまり好きではないわね。 こうして私の特性を存分に使われるんだから。」


 その中でただ一人、涼しい顔をして馬車から降りたのはカナムだった。 カナムも他の3人と似たり寄ったりな格好をしているのだが、その表情からは一切苦痛な顔をしていない。 これも彼女の特性の賜物だろう。


「それじゃあ僕が先頭を切るから、みんなは後ろからついてきて。」

「それは構わないのだけれど、私の武器は槍よ? そこまで後方にいる必要は無いわ。」


 カナムが背負っているのは背丈ほどの柄を持つ槍だった。 先端は綺麗な円錐形で出来ていて、「突く」という点においてはかなり有利に働くだろう。


「そう? でもその長さなら十分僕の射程距離に届くでしょ? それに敵は前方だけから来る訳じゃないから後ろも見ておく必要があるでしょ?」

「それはそうだけれど、そうまでして・・・あぁ、そういうこと?」


 カナムはなにかを察したようで、エブリィの言う通りの配置について、先頭を歩くエブリィについていく。


「はぁ、自己犠牲精神もあそこまでくると大したものね。」

「なにか言った? カナムさん?」

「何でもないわ。 さあ行きましょ。 彼だけ暑い思いをさせちゃいけないわ。」


 カナムが後方にいる理由。 それはマリダとジェンヌを暑さから守るためであった。 エブリィが言っていることもあながち間違っていなかったが、本当の目的はそこにあるのだろうと分かったカナムはそれ以上何も言わなかったのだ。


「・・・そういえば、エブリィ君含めて得耐性の3人は学生時代からあんな感じだったわね。」

「ふふっ、そんなの今さらよカナムさん。」

「そうですよ。 それがエブリィ君達のいいところなのですから。」


 そんなガールズトークを前方で歩き続けているエブリィの耳には入らなかった。



「ふぅ、ようやく着いた・・・」


 目的の小屋に着いたことで安堵の声がエブリィから漏れる。 ここは小屋となっているが、実は数人で切り盛りしている民宿のようになっている。 なのでそこそこここでは利用されることが多い。

 戸を開けると、中は賑わっていた。


「いらっしゃい。 4名様でいいかな?」


 店員の若いお兄さんが対応してくれたので、そのまま部屋の空席がないかの確認と、席の確保をしてもらうことにした。


「あそこの席が空いているから、良かったら座ってもらって。 一応うちは居酒屋のようなシステムだけど・・・君達は未成年だったね。 飲み物はソフトドリンクにしておくけど、メニューはそこにあるから、決まったら言ってくれ。 はーい! 次のお客様!」


 そういって店員さんは別のお客様のところに向かう。


「さてと、こういった場所だと冷えた飲み物が一番いいんだけど・・・ みんなは何にする?」

「全員スパークコールドでいいんじゃない? あんまり考えてもしょうがないでしょ。」

「それもそうだね。 すみません! スパークコールド4つ!」


 エブリィがそう軽快に声を出す。 そして本当の意味で落ち着くことが出来た。


「それで、依頼は明日にするの?」

「うん。 どうせ今から行っても変わらないだろうしね。 マグマは明るいけど、普通に夜になっちゃうからね。 それに依頼書を見てみると、緊急性はあまり無さそうだし、ゆっくり休むのも冒険者には必要だからね。」

「そうそう! 休むのも大事だよ嬢ちゃん達!」


 そうエブリィに同調してきたのは見知らぬ男性2人だった。 明らかに年齢は向こうが上なのだが、酔いが回っているようだ。


「そこでなんだけどよ嬢ちゃん達? どうよ? 俺たちと一緒にこの後俺たちと一緒に遊ば・・・」


 そう言おうとしたときにマリダが急に泣き出しそうになってしまった。 その表情を見て、男達は困惑してしまった。


「あーら、急にそんなことをいうからマリダが泣き出しちゃったじゃない。 女子を泣かすなんて最低ね。」


 そこにジェンヌの「毒舌」も交えた言葉を男達にぶつける。 「毒舌」の効果が混じっているので、男達にはかなり心に来たらしく、怯んでしまったようだ。 そしてそこにカナムが


「去りなさい。 あなたたちに世話をされる筋合いは無いわ。」


 そんな冷たい一言と共に冷気が男達を襲い、そのまま去っていってしまった。


「お待たせしました。 スパークコールドになります。 いやぁしかしすごいねお嬢ちゃん。 あんな風に返すなんてよくやるね。」

「それが私の特性ですから」


『カナム・トランスファー 18歳 女 ランク24

 特性 「冷徹」

 利点 辺りに冷気が纏う。 また武器に氷属性が付与される。

 弱点 相手に対してかなり素っ気なく対応してしまう。』


 カナムの周りに冷気が纏っているのはその冷徹さが具現化したような形になる。


「しかしあんちゃんも大変だなぁ。 こんな美人達に囲まれて、妬む人もいるんじゃないか?」

「今回はいつものメンバーではないので即席のメンバーなのですが、まあそう見えてもしょうがないですよね。」


 エブリィは困ったような笑顔を向けた。 エブリィ自身もなかなかお目にかからないので本人も困ってしまうのだ。


「私は、気にしてないですよ?」

「そうそう。 あんたら3人が常に一緒にいすぎるせいでなかなか声をかけにくいって子も結構いるのよ?」

「モテてるねぇ。 あんちゃん。」


 店員にうりうりされながらエブリィはスパークコールドを飲み干した。

男1人に女の子が3人という構成だけでハーレム呼ばわりされるんですかね?


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