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饒舌さんは呪文詠唱も綺麗

「この依頼かぁ・・・」

「ごめん。 討伐関係がこれしかなかったんだ。」

「いや、エブリィが悪い訳じゃないよ。 最近はモンスター達も動きや繁殖がかなり遅れてるみたいだから、そうなっちゃうのも仕方ないって。」


 テーブルに置いてある依頼書を見ながら唸る3人。 彼らの元には普段の人では出来ない依頼が飛んでくることも多い。 だが今回はそうならなかった日のようだ。


『アイアンアルマジロの討伐要請

 ランク10以上 最低5体の討伐

 最低報酬 一人2500M

 なお、討伐個数の証明の出来る

 ものがあれば、その分の報酬の

 上乗せもします。』


 アイアンアルマジロ。 それは鋼鉄のように硬い殻を持つアルマジロで、敵だと判断したら、体を丸めて、標的に向かって飛び交ってくる。 また、殻は本当に硬く、下手ななまくらでは簡単に根元から折れてしまうだろう。


 彼らにとってはこれが難敵だった。 彼らのスタイルは基本的に物理攻撃。 腹の部分ならともかくとして、殻の部分は誰の武器も通らない。


「どうする? 今回は依頼受けるの、辞める?」

「まあ、キャンセル料は発生しないし、俺達がこの前持って帰った素材の提供料もあるから、3人合わせても後数週間は生活に困らない。」


 マリダとの依頼で偶然にも手に入った蜘蛛の糸。 あの糸は中々に面白い習性のある糸だと研究機関が必死に研究が進められている。 その分の提供料が3人組に支払われている。 ちなみにガーナが「素材」と言ったのは、モンスターから剥ぎ取った物は、基本武器にも防具にもなりうる。 だからこその「素材」なのだ。


「困らないけど、さぁ。」


 マッシュが眠そうにそう言う。 彼らも一介の冒険者としてはなるべく依頼があるときは受けにいきたいのだ。 休むのも悪くはないが、報酬の事で甘んじてはいられないのだ。


「これは骨が折れそうだねぇ。」

「長期戦は覚悟してるけど、さすがに僕の特性と相性悪いよ。」

「どうしたものかねえ。」

「おや、そこにいるのは「得耐性3人組」じゃないかい。 なにかお悩みかな?」


 うんうんと悩む3人の後ろに現れたのは、茶髪でまるで風になびかれたような髪型をしている男子だった。 冒険者の集まる場所にしては似合わない、ピッシリとした服装をしている。


 ちなみに彼の言った「得耐性」とはエブリィ達の事で、状態異常の中でも最も有名な異常の耐性を持っている事からこの名前がついた。 よくこの3人で集まっているのを見かけていたというのもあるが。


「やぁラルク。 自分で受注していた依頼はもういいの?」

「ふっ、僕の特性ににかかれば時間はかからなかったよ。 まあ、元々のパーティが強かったから、僕は仲間のピンチをちょっと助けただけさ。」

「相変わらず言葉が上手いな。 お前は。」


 そう言って髪をなびかせるラルクをもう見慣れたと言わんばかりに呆れるガーナ。 彼もただのナルシストではない。 これは彼の特性の()()故の言葉である。


「そうだ! ラルク! この後って依頼が入っていたりする!?」

「いや、特にこれといってはないぞ?」


 ラルクの答えに3人は顔を見合わせる。


「そうか、ラルクがいるならこの依頼の難易度はグッと下がるな。」

「僕らも依頼が出来る、ラルクは報酬が貰える。 Win-Winな関係になるわけだ。」

「なんだか良く分からないが、僕の力が借りたいのなら喜んで引き受けよう。 君達「得耐性」とは、なにかと優位に働くこともあるからね。」


 最後の一言がちょっと余計だなと思いつつも、今回のメンバーにラルクを加えて、依頼に向かうのだった。


「やはり君達も、基本的には出所が特性に関係するタイプかい?」


 馬車に乗りながらラルクがそんな質問をして来た。 特性の発生は突発的で遺伝性はないが、環境下に置けるものは少なからず関連していると、最近の研究で分かってきたらしい。 まだ正確には解明されていないが。


「どうだろうなぁ? 確かに俺は色んなところで遊んでいて、良く色んな所を怪我してたからなぁ。 痛覚がおかしくなっちまったのかもしれないな。 特にこれと言った大きな怪我はしてないが、やはり蓄積によるものも関係してるのかもな。」


 そういってガーナは指先が震えている左手を見せる。 どうやら今日の痙攣場所は左指のようだ。


「マッシュは特性が出るまでは朝が苦手だったんだって。 起きられないならいっそ、みたいな事なのかな?」


 眠るマッシュを見ながらエブリィは答える。 身体的な問題は本人にしか分からない。 それを頷けるかのようなのが、マッシュの特性「寝不足」になるのだ。


「そういう君はどうなんだい? 病弱そうには見えないし、なにより毒に詳しすぎる。 特性が出てくるまでの知識量としては異質なんじゃないかな?」


 ラルクがエブリィに対して少し失礼な事を言っているように聞こえるが、疑問に思っているので仕方がない。 しかしエブリィもそんなのを気にすることなく、語り始める。


「僕の父さんは薬師なんだ。 母さんも病院関係の人だからね。 特性が出る前から父さんの部屋にあった薬や毒の本をよく読ませてもらってたんだ。 特性が出た後も普通に読んでたし。」

「学校時代に読んでいたあの本は毒による本だったのか。」


 納得するかのように頷くガーナ。  「まだ読んでるけどね」とポツリとエブリィの声は届かなかった。


「それじゃラルクはどうなの? なにか心当たりはあったりする?」


 エブリィがそう聞くとラルクは顎に手を当てて考えて、1つの答えを出した。


「僕はね。 お喋りなんだよ。」

「へぇ。 そんな風にはあんまり見えないけれど。」

「昔ほどではないけれど、喋ることは好きなんだよ。 抑えている訳ではないんだけど、やっぱり喋らずにはいられないんだよ。」

「それであんな風な言い方ってどうなんだ? 嫌われてたりはしなかったのか?」

「僕自身も喋っていると気分が高まって、ああ言った発言になるのも少なくはないんだ。 自分では抑えようとしているんだけどね。」


 少しばかり自虐状態になってしまったラルクだが、エブリィとガーナは「そんなの気にしないのにね」と顔を見合わせていた。


「いやぁ、太陽光が反射して、目が痛いや。」


 目の前にいるのがアイアンアルマジロ。 モンスターを覆っている殻は武器の加工に必需品と言えるくらいに鉄分が豊富で、その硬さはちょっとやそっとでは壊れる事がないので、最近では建築物で使われる資材の中に混ぜることも多くなってきた。


 しかしエブリィ達の目的は討伐である。 討伐事態は難しいものではないのだが、問題はアイアンアルマジロには敵を見つけると、体を丸めて攻撃にも防御にも使って自分の身を守るのだ。


「これがあるから時間がかかるんだよなぁ。」

「こうなってくると僕の毒事態も効かないんだよね。 あの殻の前じゃ毒を体に入れることも出来ないし。」

「このままだと僕の覚醒時間が切れちゃうよ。」

「だからこその僕の出番と言うわけだね。」


 ラルクは自分の持っている杖を構える。 ラルクの職業は魔法使い。 なので基本的には後ろで前衛の支援をするのが彼の仕事だ。


「それじゃあまずはこれからだ。 「フレバスター」!」


 ラルクがそう唱えると大きな火の玉が何発もアイアンアルマジロの群れに飛んでいく。 アイアンアルマジロは熱さに耐えきれずに丸めていた体を解除して、飛び込んできた。


「それを待ってたんだよ!」


 そういうとエブリィは剣を構え、むき出しになったお腹の部分に突き刺して、アイアンアルマジロを討伐していった。 辺りはまだメラメラと燃えている。


「おー、やっぱり魔法の精度が高いなぁ。」

「普通ならもう2、3発位は放たないとアイアンアルマジロは解除しないんだけどね。」

「さすが「饒舌」だよね。」

「そんなに誉めてもなにもでないぞ?」


 アイアンアルマジロを遠目に見ながらそんなことを言った。


『ラルクラン・ショール 18歳 男 ランク25

 特性「饒舌」

 利点 呪文の精度が上がる。 発音が良ければ良いほど呪文の精度が上がっていく。

 弱点 喋りすぎる。 自分を過剰に見せたがる。』


 この世界での呪文は詠唱によるものなのだが、ラルクが唱えたのは炎の中級呪文。 だが本来の詠唱は名前だけではない。 大抵の人は名前のみで詠唱をするので、本来の力は発揮されない。 だがラルクの場合は名前のみでもその精度はとても高い。 それが「饒舌」の力だ。


 ちなみに「フレバスター」の本来の詠唱は「炎の魔球よ、我が手元から放ち、この地を焼き払え フレバスター」となっている。


「どうする? とりあえず討伐数は稼げたけど?」


 ラルクの放った炎で耐えきれなくなったアイアンアルマジロを一撃で倒して、ラルク以外は2体ずつ処理している。


「あんまり倒しても意味はないし、狩りすぎても生態系にバランスを崩しそうだから、これで十分じゃない?」


 まだ向こうには4体ほど残っている。 確かに倒して持って帰れば報酬は増えるが、モンスターにだって生活がある。 これ以上狩る必要はない。


 だがそんなことを考えるのは人や亜人だけだ。 モンスターはそんなことをお構い無しに突っ込んでくる。


 アイアンアルマジロは先程までの敵と同じように炎を飛び越えようとするために助走をつける。


「全くもう、僕らはこれ以上狩る事無いんだけど・・・ しょうがないなぁ。」


 そういってボウガンを構える。 エブリィも剣を構え、ガーナもファイティングポーズをする。 ラルクは元々最初の呪文を唱えるのが仕事になっているので、倒したアイアンアルマジロを馬車に乗せていた。

 アイアンアルマジロは一気に炎を飛び越える。


「やっぱりそうくるよね。 それなら・・・」

「待てマッシュ、なにかおかしいぞ。」


 ガーナの言う通り、先程までのアイアンアルマジロの飛び方とは変わっていた。 今まではそのまま飛び越えていたのに、残りの敵はどちらかと言えば飛びかかる様に飛んできた。 まるでこの後に丸まろうとしているかのように。


「!! 2人とも下がって!」


 何かに気がついたエブリィは自ら前に出て、自分の人差し指を少し切って、血液を剣に流し込み、地面を横一文字に抉る。 そして切った人差し指の血液を抉った地面に落とす。


「現れろ! 毒血壁!」


 そう叫ぶと目の前に血で出来た壁が現れる。 その瞬間に目の前がひかり始めた。 離れていた馬車から見ていたラルクはどうなっているのか見えていた。 アイアンアルマジロが炎を飛び越えると同時に鉄の殻側をエブリィ達に向けて、太陽の光を反射の力で目眩ましをしようとしていたのだ。 しかしそれは毒血壁のお陰で緩和されて、目を潰される事はなかった。


「僕らは君達をこれ以上狩ることはしないんだから、そっちもやめてよね。 それじゃあね。」


 そういってエブリィはアイアンアルマジロ達から離れて、馬車に乗る。 アイアンアルマジロ達も、自分達が狩られる事がなくなったと分かったのか、それ以上は攻撃を止めて、自分達の住みかに帰っていった。


「君はスゴいよね。」

「え? なにが?」


 馬車で休んでいるエブリィに対して、馬車を引いているラルクからそんな言葉をかけられる。


「普通なら報酬のためにもっと狩ろうというのが冒険者の本分だと思うのだが。」

「こいつにそんなことを言ったって無駄だぜラルク。 理由なく敵を倒す事をしないんだからよ。 こいつは。」

「なんだかその言い方は失礼じゃないかな?」

「ははは。 本当に仲がいいんだな君達は。」


 エブリィが納得いかないと言った具合の表情にラルクの笑い声が重なる帰り道となっていった。

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