4…アイドル界のプリンス
ガラッ!勢いよく開けた教室の扉は想像以上に滑りが良く大きな音が鳴り、入学早々注目を浴びてしまった。
教室にはすでに何人か生徒が居た。みんな自分と同じ新入生だ。黒板に貼られた座席表を見て自分の席を探す。…多分この席だろう。隣の人はなにやら書いているようだった。
(一人でも友達は多い方が良いよね…!)
ゆあは勇気を出して隣の人に声を掛けた。
「ねぇ、何書いてるの?」
突然話しかけられたことに驚いたのかその子はパッと顔をあげて
「デザイン画を描いてるの!」
と言ってノートを見せた。そこにはアイドルの衣装の様なフリフリがたっぷりあしらわれた衣装のイラストが描かれていた。彼女はデザイナーを目指しているのだと言う。
「素敵な夢だね…!ぼくも早く夢が見つかると良いんだけど…」
お菓子作りが得意だからパティシエかな…?デザイン系の仕事もしてみたいなぁ…
そんな事を話しているといつの間にか入学式の時間が来たらしい。先生の指示で並んで体育館へ向かった。体育館もぼくの想像を遥かに超え、綺麗で天井も高かった。もちろん電球は全てLED。
(進んでるなぁ…。)
校長先生のなが〜いお話が終わり、新入生代表挨拶が始まる。
それにしても凄いよなぁ…こんなに人がたくさんいる中で堂々と話をするなんて…ぼくだったら絶対噛む。間違いない。
一体どんな人がスピーチをするのだろうか…?
きっとぼくと違って頭の良い優等生に違いない。
誰かがステージに上がって行く。あの人が新入生代表だろう。
「…あれ?あの人…」(さっきの…)
「あれって…もしかして…?」「アノン様!?」え!?うそ!?なんでこの学園に!?」「アノン様〜!!」明らかに周りがざわつき始めた。
(アノン君…だよね?まさかこんなに有名人だったなんて…)
ぼくは田舎出身だから流行には疎い方だ。それにテレビもあまり見ない。だから芸能人にも詳しく無いのだ。
先生の注意が聞こえないぐらい体育館内は騒がしくなってしまった。
そんな中、ゆあはこれからアノンが何を話すのかそれだけが気になっていた。
アノンが人差し指を口の前に当て、静かにという動きをした。その途端、あれだけ騒いでいた生徒達は一斉に話をやめてアノンに注目した。
「皆さん初めまして新入生代表、アノンです。すでにご存知の方も居るかもしれませんが…」と、軽く自己紹介をしてから代表挨拶を始めた。後に噂で聞いた話だが、彼はこの学園長の子供で、小さい頃からモデルとして活動しており現在は知らない人は居ないと言われるほど有名なアイドルらしい。人気者だが、それを鼻にかけるような態度も無く、言動、行動。全てにおいて紳士的…まさにプリンスといった感じの人物だ。
同じ新入生の中には彼の声に聞き惚れている人も多く、ゆあもその中の一人であった。
当然ファンは多く男子にも女子にも人気だった。
(そんな凄い人と同じクラスなんて…!凄い偶然!)
ゆあはみんなを笑顔にする力がある彼を見て憧れの気持ちが芽生えていた。ぼくもあんなふうになりたい…みんなを笑顔に出来るような…アイドルに…
「アノン君と友達になりたいな…少しでも近づきたい…彼に!」
…この日を境にゆあの運命は大きく傾き始めた。