第5話 鋼鉄
――ガチャン!ガチャン!!
「ふぅ~さすが鋼鉄製だ…ここまで重いとは…」
騎士団を辞めてから2週間後。
俺は戦病者リハビリセンターに通いながら新しく出来上がった左足の義足を使った歩行訓練をしていた。
鋼鉄製の頑丈な素材で出来た義足なので、脚を動かすときにとても重い。
しかし、これが一番安定感があって信頼性も高い義足との事だ。
「ここまで早く鋼鉄義足を使いこなせる人はそう多くはいないですよ、この調子でしたらスパーダさんも義足をマスターできる日はそう遠くはないです!この調子でいきましょう!」
「はい!先生!」
リハビリの先生に教わりながら俺は左足に義足を付けて歩く訓練を繰り返している。
慣れるまでの辛抱だ。
足で鎧を持ちあげるよりは軽いと自分に言い聞かせて訓練をしていた。
午前中の歩行訓練が終わって、昼食を食べようとリハビリセンターの近くにある定食屋に行こうとした時であった。
「スパーダさん、貴方に会いたいと言っている方がお見えになりましたよ」
先生が俺を呼び止めた。
俺に会いたい人が来た?
騎士団メンバー以外の訪問は初めてだ。
「俺にですか?騎士団の人ではなくて?」
「ええ、スパーダさんにどうしても会いたいと言っておりますので…会ってもらってもよろしいでしょうか?待合室でお待ちです」
「わかりました…っと、ちょっと待ってくださいね」
せっかく来てくれた訪問者を待ちぼうけさせたらいけないな。
左足の義足を外し、松葉杖を両手で使って待合室に向かう。
待合室の椅子で座っていたのは黒いローブを身に纏ったフームさんだった。
フームさんは俺を見るなり、直ぐに駆け寄ってきて頭を下げた。
「スパーダさん!!!お久しぶりです!!!その…どうしてもお話したいことがあって…訓練中にお邪魔してすみません…!」
「いえ、これから昼食を取ろうとしていた所なんで時間は大丈夫ですよ…ここでは何ですし、話しやすい場所に行きませんか?」
「あっ、は…はい!!!」
俺はリハビリセンターを後にしてフームさんと話しやすい場所に向かった。
向かったのはリハビリセンターから徒歩5分の場所にある喫茶店だ。
真新しい綺麗な建物に、フームさんは興味津々そうな顔をしている。
「すごい…お洒落な喫茶店ですね…」
「去年改築工事をしたばかりでね、店のアンティークも首都から取り寄せたものばかりですよ…味も雰囲気も満点です」
風通しの良い場所なので紅茶やコーヒーを飲みながら長話をするには持ってこいの場所。
リハビリセンターの帰りにいつも立ち寄る行きつけのお店だ。
それに、ここは段差もないので松葉杖を使っている俺にとっては有り難い店でもあった。
「ここで昼食を食べてから話を聞こうと思うんだけど…ここでもいいですか?」
「え、ええ!スパーダさんが良いならここでも大丈夫ですよ!あっ、私がドアを開けますね」
フームさんが気を利かせてドアを開けてくれた。
俺はお礼を彼女に言った。
「ありがとう」
――ガラン、ガラン
店に入ると鈴の音が聞こえる。
来客の合図。
カウンターから初老のマスターが顔を出してくる。
「いらっしゃい………ああ、スパーダさんか。左足の義足はどんな感じだ?」
いつもこの店で夕飯を済ませるので、顔を覚えられてしまった。
名前を言ったら覚えやすい名前だといって、それからずっと俺の名前を呼んでくれている。
「まだ慣れないね………でも、そのうち履けるようにするさ」
「そうか………まぁ、コツコツと積み上げていくのも訓練のうちさ………ところで後ろにいるお嬢さんはスパーダさんの連れかい?」
「ああ、昼食を食べるついでに彼女と話をしたいからね…隅のカウンター席を使ってもいいかい?」
「勿論、構わないよ。好きに使ってくれ」
マスターのお言葉に甘えて俺とフームさんはカウンターの隅の席に座った。
隅に座ってから先に注文を頼む。
メニュー表を見ながらマスターに自分が食べたい料理を言う。
「俺はハンバーグランチセットとコーヒーをもらおうかな…」
「砂糖はもちろん無しで…ですね?」
「はい、フームさんは何か食べたい料理はありますか?」
「そうですね…じゃあ、私はコーンポタージュと蜂蜜トーストをください」
「かしこまりました。料理が出来るまで少々お待ちください」
マスターが厨房に入って料理を作るのに励んで数分で出来上がる。
ハンバーグにコーンポタージュ…。
食欲を湧き起こすほどの香ばしい匂い。
「では、いただきます!」
「いただきます!」
手を合わせて俺はハンバーグランチセットを食べた。
牛肉と豚肉を混ぜ合わせて、マスターお手製のソースがハンバーグの美味しさを引き立てる。
さらにランチセットとして添えられているソーセージも、絶妙なスパイスを使用したソーセージなのでとっても美味しい。
フームさんが頼んだコーンポタージュも、歯ごたえがある優等コーンを使用している。
隠し味に牛乳もいれているのでまろやかな風味となっている。
蜂蜜トーストも、トーストがサクサクしているのでフームさんが美味しそうにトーストを噛んで食べている。
それぞれ美味しそうに出来上がった料理を味わい、優雅な昼食をとった。
ご飯を食べて腹を満たしてから、俺は本題をフームさんに切り出した。
「色々とお話したいことがあるそうですが…今日はどういったご用件で来たのですか?」
「はい…実は…騎士団の事で…どうしても、スパーダさんに謝らなければいけないのです…」
「フームさん…その件は…」
フームさんは俺の事をかなり気にしていた。
俺がオオドクガエルにやられたのはフームさんのせいじゃない。
あれは軽装備で行った俺のミスだ。
だけど、フームさんは自分の事を責めていたのだ。
「…私が杖を落としたりしなければ…スパーダさんの足を失うことは無かったのです。それに、私はあの時何も出来なかった…それが…本当に………」
涙を浮かべて語っている。
あまりにも辛い空気になってきた。
それは嫌だ。
俺はフームさんにハンカチを渡してから彼女を励ました。
「フームさん、俺はむしろフームさんがいなかったらあそこで死んでいましたよ…確実に…貴方のせいじゃない。」
「で、ですが私は何も出来なかったのですよ………私にはそんな………」
「…むしろ貴方が私の言う通りに助けを外の人に求めてくれたからこそ、俺は今…こうして生きているんですよ。あの時、もしフームさんが無理に戦っていたら最悪二人とも死んでいましたよ…」
今こうして喫茶店で美味い飯をありつける事ができるのはフームさんのおかげだ。
彼女が助けを求めて外に出てくれたお陰で俺は助かったんだ。
「だから………自分を責めるのはやめましょう………俺はフームさんに感謝しているんですよ………」
「スパーダさん………うっ………うぅぅぅ………っっっ………!!!!」
フームさんは泣いていた。
俺が渡したハンカチをぐしょ濡れにするぐらいに声を殺して泣いていた。
ハンカチを返してきた時にはフームさんの目元が真っ赤になっていた。
心の中で溜め込んでいたものを一気に涙と共に吐き出したこともあってか、顔色も少しは和らいだように見えた。




