第11話 中級者
冒険者の証明プレートを貰ってから、パーティーの申請も早ければ3日後に出来上がるそうだ。
パーティー名はあれこれ考えた末に決めた。
「エスプリ」
才気という意味があるらしい。
フームさんが住んでいた北部地方の方言だ。
エスプリ…。
良い響きだと感じてそのままパーティー名をエスプリにしたのだ。
登録とパーティー申請を済ませた俺たちはギルドの施設内にある食堂で朝食を食べていた。
まずトーストを2枚。
スクランブルエッグに粗挽きソーセージ。
それにトマトとレタス、オニオンスープ付きの食事。
冒険者でも小食向けの人用らしい。
価格は25テルン。
子供の小遣いでも賄える額だ。
市場で働いている人たちもよく利用しているようだ。
これだけの価格で、こんなに種類が多く出されるのはうれしい。
「安くてとっても美味しいな…食事が進むよ」
「ええ、スープもまろやかで美味しいですわ」
朝食としてはかなりバランス重視だろう。
騎士団ではハードな仕事をよく引き受けていたので、朝食といえばもっぱら肉をガッツリ食べて昼食を取らずに夜まで強行することも多かった。
こうしてゆったりと食事を食べれるのはいい事だと思う。
初任務…俺はどんな仕事になるのか気になっている。
「あとは3日後にパーティーを組んで初任務という訳か…」
「いよいよ…ですね!」
「そうですね、階級が初級だけど…初級はどんな任務を任されるのでしょうか?」
「登録課のクルモさんはあまり口を出しませんでしたけど…確かに初任務の内容が気になりますね」
「…おや、君たちは新入りかい?」
会話に割り込んできたのは丸眼鏡をしてきた小太りの男だ。
片手に持っているのは「よくわかる冒険者の道筋」という冒険者向けの本。
物知りのようだが、なぜ俺たちに絡んできたんだ?
視線を向けると、男は身体をビクンと震わせた。
いや、俺はそう睨んでいない。
怯えなくてもいいぞ。
「おっと、すまない!誤解しないでくれ、悪気があってやっているんじゃないだ!ただ気になって言っただけなんだ」
「いや、確かに俺たちは今登録を済ませた新入りだ…まだ冒険者としては右も左も分からんよ、怒ってはいないから安心して」
「よ、よかった…。僕はドウアン。ギルドに入って3年…中級の冒険者だ。君のような戦闘スタイル…剣術が優れている人が新入りとしてギルドに入ってくるのは珍しいね…」
「…どうして剣術の事を知っているんだ?」
「いま君が手に持っているプレートには小規模だけど本人認証の為に証明魔法が込められているんだ。相手を意識すれば頭の中にプレートの内容が浮かび上がってくる仕組みさ」
このプレートにはそんな凄い力があるのか…。
いや、もしかしたら当てずっぽうで言ったかもしれない。
嘘かと思い、俺はドウアンの目を見ながら意識すると、視界に段々と文字が浮かび上がってきた。
「なんだ…これは…?」
「ね?言った通りだろう?」
俺は驚いた。
なぜ驚いたかといえば、今試しに目の前にいるドウアンの事を意識した途端に、彼のギルドの情報が頭の中で浮かび上がってきたからだ。
―― 冒険者ギルド「ナズイ」支部 有歴1508年5月10日 交付 ――
ギルドメンバー No.0734987
氏名 ドウアン・エスポット
年齢 28
血液型 B
出生地 西部平原
戦闘スタイル 槍術
階級 中級
―― ギルドメンバー本人であることを証明するものである ――
「こいつは…すごいな…」
俺の口から自然と言葉が漏れていく。
「これはあくまでも裏技みたいなものさ…受付担当者が冒険者になりすました詐欺師なんかを見分けるためにコッソリ認証魔法を仕組んだって寸法さ…ま、このことを知っているのは受付とかギルドでも限られた人達だけさ…」
「そんな重要な情報を、俺みたいな新入りに教えてしまっていいのですか?みんなに言いふらされたりでもしたらマズイんじゃないですか?」
「大丈夫さ、ギルドの規約には個人情報を漏洩してはいけないが、拝見してはいけないというルールはない。見る分には構わないんだ」
「中々肝が据わっていますね」
「そうやって新入りを驚かせるのが生き甲斐なんだ…フフフ…フフフ…」
そういってドウアンは不気味に笑いだす。
中々の悪戯好きの人のようだ。
本人は善意でやっているらしい。
でも隣で見ていたフームさんは苦笑いしていたけどな。
「さて、ではそろそろ僕は任務がありますのでこれにて失礼いたす。スパーダくんだったかな。また会ったらよろしくね」
「ええ、こちらこそ。任務頑張ってください」
「ありがとう、それじゃあね」
ドウアンはもっと話をしたかったようだが、他のメンバーに呼ばれていたようだ。
食堂の入り口でパーティーの仲間と思われる人達がドウアンを叱っていた。
「おいドウアン!新人に絡む暇があったら少しは手伝え!」
「すまんすまん、新入りで剣術スキルを持っていた奴がいたからつい…」
「剣術?確かにそれは珍しいかもしれないが、俺たちは野盗のリザード団への威力偵察のクエストを受けたんだからな!気を抜いたらやられるぞ!」
「そうだぞ、まったく…お前には緊張感というものが無いのか?早くしないと置いていくぞ」
「わ、わかったよ。すぐいくよ!」
どうやらパーティーでも彼の扱いには苦労しているようだ。
どことなく人付き合いが苦手な感じだな…。
そう俺は思った。
話題を変えていこうかな。
「…さて、朝食も済ませたことだし…武器屋や薬屋を見てまわりますか?」
「そうですね、3日後まで時間はありますから…改めて確認も兼ねて見に行きましょうか!」
朝食を済ませてから、俺とフームさんは再び市場に繰り出したのであった。