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戦場へ



 Sideヨシュア・ガーランド


 ――――さて、目の前には燃える王城があるんだが、どうしたものか。


「……リーリア殿」


「言わなくてもわかってるわよ、コウノスケ。……依頼失敗だ」


 コウノスケとリーリアが青ざめた表情をしているのもある意味当然で、小高い丘で小休止を取っていた俺たちが見たものは、煙を上げる王城だった。

 城壁内部の市街地からもいたるところから煙が上がっており、明らかに蹂躙の真っ最中だった。

 何が行われてるかを察してしまったらしいアルドはひっ、と息をひきつらせた。


「まずい、あの人たちは……」


「手遅れ、だな。無傷じゃすまない」


 俺は冷酷に言いつつ、立ち上がった。


「だが、策がないわけじゃない」




 ◇




 村を出てから馬車で移動すること一日半、すでに日もくれて星が広がっているような時刻になってようやく、俺たちは戦場に到着した。ほんの数百メートル先に、突破された城壁が見える林の中だ。指揮官のものと思しき天幕もあり、槍兵や弓兵が待機しているため突破は容易ではない。

 それなりに高い山を強引に下ってきたため、各員の疲労も激しかったが、かまっている余裕はない。

 すでに城壁の守りは突破されており、王都内部への侵入および王城への攻撃が行われていたからだ。まだ陥落したわけではなさそうだが、残念ながらそうなる確率は高い。


 しかし、これ以上被害を広げさせない策というモノもあるのだ。


「今できるのは、特大のインパクトで動きを止めることだな。……フレイチェリ」


 こうなってしまった以上、斬り込んでも意味がない。物理的な手段での突破および逆転は限りなく不可能に近かった。だが、何事も物理的な手段だけではないのだ。


 アルド君はともかくとしても、ほかはおそらく白兵戦闘向きだ。ついてきた実力が読めない爺さんも、おそらくは白兵戦闘向きだろう。アルド君も、ひょっとしたら使えるのは剣術だけかもしれない。


 ただし、フレイチェリは違う。

 この方法はデメリットも反動も大きいが、彼女なら可能な技だ。


「……わかった。最大火力でぶっ放す」


 そういうと、彼女は虚空に手をかざし、高らかに詠唱した。




「――――始原の心臓より終末へ至る、崩壊よ。

 我が言霊によりて、流星となせ。

 天を裂き、地を轟かせ、世界を駆けよ。

 ――――〈天元烈星〉! 詠唱適当バージョン!」




 瞬間、空が裂けた。

 竜巻に巻き込まれたのではないかと疑わんほどの烈風が襲い掛かり、光の束が駆け抜けた。金属の悲鳴のごとき爆音のあとに残るのは、嘘のような静寂と、先ほどと変わらない満天の星空。


 そう、彼女は“狙撃手”兼“魔術師”なのだ。


 それも、この面々の中でトップクラスのチート級である。

 彼女の魔力は普通のものではなく、熟練の魔術師など目もくれないレベルのそれを内包しているのだ。その上、魔術に関してはお家芸と言って差し支えない古代文明の攻撃魔術をすべて教え込まれた(本人談)とのことなので、その気になれば天変動地すら引き起こすことも可能らしい。そもそも全力を出したことが滅多にないが。


「……さすがに疲れた」


「そりゃそうだ。……とりあえず気休め代わりにポーション飲んどけ、その分だと狙撃も厳しいだろう」


「……ん」


 地面にへたり込んでしまったフレイチェリに魔力回復ポーションを飲ませつつ、俺は敵の様子を観察していた。

 大体は、先ほどの光の柱に唖然となっているみたいだな。


「さて、先制パンチには十分だろう。この中突っ切って王城へ行くぞ」


「……敵将は討たないのか?」


 リーリアが疑問をぶつけてくる。


「……いわれるまでもない、討つさ。ただ、殲滅すると不都合が出るんだよな……うまくやれば、大逆転も目じゃない」


「……お前の頭の中には殲滅しかないのか」


「失敬な。……一番楽ではあるが、無理がある」


 不可能なことは可能にしちまえばいいが、そのための手段を失っているんだよな。

 さすがに、これだけで殲滅は不可能だ。


「とりあえず、行くぞ」


 そういって、俺たちは茂みを出た。


 堂々と、城門へと向かう。

 面倒なことは、正面突破に限るからな。


 おっと、俺たちの姿を見た何人かが槍を突きつけてきたな。当たり前だが。


「お……おい! 何者だ!?」


「別に怪しい者じゃないから通してくれるとありがたいんだが」


 後ろで何人か笑いをこらえる気配がしたが、そんなことには構わず俺は話を続ける。


「あー、俺はフルクラム王国直属特殊遊撃兵部隊隊長のジョシュアだ。援軍として派遣されてきた。そっちの隊長に話は行ってるはずだから確認してくれ。国王直々の急な命令だったから、もしかしたら伝わってないかもしれんが……」


「は、はい、今確認してきます!」


 槍兵の一人が槍を置いて、全速力で天幕へ駆けていった。

 他の兵は隙なく槍を突きつけてきている。それなりの練度はあるらしいが……。


「お主ら、まだまだじゃの。……槍とは、腰から構えるものじゃ」


 おう、爺さんや、そんな講釈垂れなくてよいから。


「は、はい!……あれ?」


「ふぉっふぉっふぉっ、わしはこれでも現役での。この前など抵抗する貴族をめった刺しにしたものじゃ」


 爺さんがうまい具合に注意を引き付けている間に、先ほどの兵が戻ってきた。予想通り、指揮官らしき中年の男を連れて。怪訝な顔をしていた男は、リーリアを見た瞬間に表情を激変させた。


「貴様!……その傷跡は、傭兵“翡翠の弓手”だな!? よくものこのこと……!」


「カッカしている暇があったら、自分の身の安全を考えたら?」


「なんだと!?」


 おう、きれいに挑発してくれやがって。

 まあ、演技もここで終わりなんだがな。


「やあ、指揮官殿。貴官がセレリウム攻略部隊の最高指揮官で間違いないな?」


「そうだが、貴様は誰だ? 名乗れ、無礼だぞ」


「特殊遊撃兵部隊のジョシュア様ですよ、本当にご存知ないのですか?」


 脇に控えていた槍兵が耳打ちしているが……知るはずないだろうな。

 そう思いつつ、俺はにやにや笑いながら敵将を観察していた。


「……ふん、王弟にして、第一軍総司令官のわしが知らない部隊などあるはずがないだろう。隠密部隊はいくつかあるが、そのようなものは一つもないぞ」


 この瞬間、俺は相手の知能を理解した。

 こいつは、単純すぎる。あるいは己の力を過信しているかのどちらかだ。策を仕掛けてくる可能性はないに等しいな。絶好のタイミングでそのような対応をするあたりで、たかが知れている。

 ただし、それとなく間合いに踏み込んでくるその才能だけは素直にすごいと思うが。


「……死ね、セレアナの間者め」


 王弟サマは、腰に提げた大剣を抜き打ってきた。

 小細工なしの抜刀斬りだが、それゆえにかなりの剣速を持っていた。剣の重量と合わせればおそらく岩すら砕ける一撃だ。まともに喰らえば、身にまとっている鎧が薄っぺらいこともあって俺の体など軽々と吹き飛ばされてしまうだろう。


「だが断る」


 出し惜しみは、しない。

 こんな奴に命をくれてやる道理はない。


「……嘘だろ!?」


 そう叫んだのは、王弟ではなくコウノスケだった。

 王弟は、驚愕の表情で己の右手があったはずの部分を眺めている。


「あ……あ……?」


 しかし、その呻きにかまうことはないし、その必要もない。

 振りぬいた状態の右手の曲刀はそのままに、左手の拳を握りしめた。

 しゃがんだ状態から、勢いを殺さずに左手を振り上げる。


 手甲が、厳つい顔面にめり込んだ。

 ぐしゃり、という何かを潰すような音が左手の先から響くのを感じ取りつつ、追撃を放つために右手を返した。

 放つのは一撃、片手の横薙ぎ。


 相手の顔面を、引き切った。


 頭を上下に斬られ、即死する王弟。


 とりあえず、こんなものか。

 ちなみに俺が何をやったかというと、相手の抜き打ちの瞬間に下に潜り込んで抜刀しただけだ。しかし、相手のスピードゆえに圧倒的な斬れ味を発揮した。

 その結果として、右手を斬りとばしたのだ。


 彼の様子を見て、死んでいることを確信した爺さんが話しかけてきた。


「……勝負あったの。それにしてもヨシュアや、いつもこんなのなのかの?」


 そりゃあな。

 俺は最大ダメージを狙うから、指揮官の元に斬り込んで親玉を斬りとばすというのを常套戦術にしている。


「……ところで爺さん、おかしいとは思わないか? 敵は、どう考えても一万もいない」


「なるほどな……残りは相手の王様が率いている可能性があるのか」


「相手の性格によるが、俺はその可能性が高いと踏んだ」


 まあその前に、槍を構えて周りを囲んでいる槍兵たちをどうにかしなければならないのだが……。


「……槍兵たちに関しては任せなさい。見せ場取られたんだもの、やってやるわよ」


 リーリアがすでに弓に矢をかけており、完全に殺す気満々で待機していた。隣を見れば、コウノスケも小剣を取り付けた銃を隙なく構えている。

 アルド君なんか、大剣を肩に担ぐようにして構え、何らかの技の溜めに入っていた。





 数分後、周りに立つものはいなくなっていた。

 城門にいたのは恐らくは百ほどだが、たったの三人でここまでの惨事を生み出すとは、やはり只者ではない。


「ヨシュア、行こう」


「了解」


 フレイチェリが短銃を構えつつ、そう言った。

 俺は答えつつ、王城のある方角へ歩き出す。


 後には、無残に焼け焦げた大地と呻く負傷兵たちだけが残された。










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