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現状を確認しよう

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Sideヨシュア・ガーランド



「さて、リーリア。一つ質問があるんだが、今セレアナ王国とやらはどこまで追い詰められている?」


 俺は、フレイチェリとコウノスケが落ち着いたところでリーリアに本題を振った。

 リーリアは、顎に手をやりながら告げる。


「……私が発った時には、すでに王都に一番近い城で包囲戦になってた。半月は経っているから、王都はもう……」


「今度は王都包囲戦、か。城塞都市か?」


「ええ。王都セレリウムは城塞都市、だから市街地戦までは猶予がある」


 城塞都市と普通の都市では、城塞都市の方が堅牢だ。敵の分断、各個撃破を狙う市街地戦に突入する前に、城壁で戦闘ができるというのは大きい。


 最善はその前の野戦で撃退することなのだが。


「……急がないとな。市街地戦になった場合、フレイチェリの魔術が封じられる。ここでこいつの殲滅力を失うのは痛い」


「……その時はその時。大丈夫、私の本職は狙撃手」


「さいですか」



 ……気を取り直して、次に行うべきは戦力の確認だ。彼我の戦力を見誤ると、悲惨な目に遭いかねない。


「まず、セレアナ連合王国軍は残り二千よ。王都にはわずか五百人。正直、蹴散らされる未来しか見えない」


「ちなみに敵はどうなんだ?」


「……フルクラム王国遠征軍、合計一万。しかも、魔術師も五百ときた」


「……普通は精々二十そこらなんだがな……まあいい」


 それくらいなら、やり方次第でなんとかできなくもない。


「……だから、私の知る中で一番力のある貴方に頼んだのよ。……『規格外』」


「それ、俺のあだ名?」


「まだまだあるわよ?……『地獄帰り』とか、『剣鬼』とか、『死神』とか……」


 やめてくれ、恥ずかしくて死にそうだ。


「というか、貴方がこの村にいることは意外と有名よ?それで私もここにきたくらいなんだし」


「なんで俺の居場所を知っていたのか疑問だったが……さすがに知られてたか」


「そりゃあね。なにせこの、リーリア様ですから」


「……馬鹿やってないで話に戻るぞ」


 危ない、俺まで奴のペースに持っていかれていた。気をつけないと、話がどこまでも脱線していく気がする。


「それで、セレアナの盟約とやらでかき集めた兵は」


「……集められて五百。焼け石に水ね」


「……私としては、ここから逆転を狙うならゲリラ戦しかないと思う」


 コウノスケが重々しく告げた。


 ゲリラ戦とは、少数の兵力で大軍に対抗する時の戦術であり、長期戦となる。死角から少人数による奇襲を行い、戦力と戦意を削り取っていくのだ。

 土地勘がある守備側は有利となり、逆に精神的に追い詰められる上に受動的な抵抗しかできない攻撃側は不利となる。


 しかし、大抵待ち受けている運命は守備側の全滅だ。数の暴力はそれほど圧倒的なのだ。その上、市街地でゲリラ戦を行った場合は住民や街への被害も甚大となる。


「ゲリラ戦だけじゃ勝てないな」


「……かといって、焦土戦術や遅滞戦闘を行うには追い込まれすぎているぞ」


「コウノスケさん、落ち着いて。……ヨシュア、策があるんでしょう?」


 リーリアだけではなく、全員の視線が俺に集中した。

 俺は、静かに言う。


「……頭を潰せば蛇は死ぬ」


 その意味を真っ先に理解したのは、コウノスケだった。


「……なるほど、親玉を討つのか」


「ああ。一万が相手だったら、絶対にその指揮官は有能な奴の筈だ。あるいは王様直々に出てきているかもしれん。――――そいつを殺す」


「……一騎打ちでもやるつもり?」


 そうなれば早いんだがな。

 どうせ騙し討ちされるに決まっている。


「……いや、その時になってから考えよう。最悪はフレイチェリに狙撃してもらう」


 アウトレンジから加圧魔力で撃ち出された金属の塊がすっ飛んでくるんだからな。回避のしようがない。ついでに言うならばフレイチェリの狙撃センスはかなり高く、エルフの弓レベルの精度を誇る。


 その時、アルド君が飛んでもないことを言った。


「……あとは、敵国の王を排除できたら話が早いんですが……」


「「それだ!」」


 俺とフレイチェリは、揃って指差した。

 確かに、相手が王国ならばそのトップである国王を排除してしまえば相手は大混乱に陥る。

 そしてそれは、王都に侵入さえできれば不可能ではない。


 よーし、ナイスだアルド君。


「……え、俺なんかヤバいこと言いましたか?」


「いや、世紀の名案だっただけ」


「フレイチェリさんがそんなリアクションするあたりでヤバいこと確定な気が……」


「大丈夫だ、問題ない」


「アッハイ」


 ……さて、アルド君も納得したところでこちらの戦力を確認しておくか。

 正確には、この村の。


「長老呼んでくる」


「ん、了解」


 フレイチェリに声をかけ、俺は部屋の扉を開けた。


 部屋を出てすぐそこの、囲炉裏のそばでわらぐつを作っていた長老に声をかける。


「長老、大体こっちの話は終わった。それで、聞きたいことがあるんだがいいか?」


「構わぬよ。ちょっと待っとき」


 そう言った老婆は立ち上がり、そして大声を張り上げた。


「オルテル! オルテール!」


「長老や、さすがにうるさすぎやしやせんかのう」


「死んだ亭主も私の声には敵わんかったからな!……それよりオルテル、村の若い衆のうち戦えるのは五人か?」


 さすが長老、俺がまだ質問の内容を言っていないのに当ててきやがった。まあ、間違ってないし聞く手間が省けたからいいのだが。


「……いや、わしのみじゃ。他はまともに戦えんし、意味がない」


 この村の人口は四十人そこらだ。

 六十五を超えた老人が爺さん込みで十二人、働き手世代の男が八人、女が九人。そして、若者と子供が十一人。


 しかし、全員動かさないときた。


 その理由は、すぐに判明した。


「……村の守備が緩くなるのは見過ごせん。猪などがきおったら腕っぷしが足りんのじゃ。……それに、その四人は皆戦争の経験がある。雑兵よりは頼りになるかろて」


 簡単な理由だ。いくら「盟約」なるものがあったところで、自分たちの村まで危険にさらすことはできない、ということだろう。


「なるほどな……」


「それに、お主らがおるかろ。足手まといもいいところじゃ」


 さいですか。






 翌日。


 消耗品の補充をした俺たちは、村の門に立っていた。防具類も装着しており、完全装備だ。

 腰に大剣と半曲刀を佩き外套をまとった俺は、仲間を見渡した。


 白いコートに黒いタイツ、革ブーツ姿で不敵に微笑むフレイチェリは長さ二メートルになろうかという長銃を担ぎ、腰に短銃を下げていた。短銃の方は、この村についてからはずっと装備していなかった代物であり、凶悪な性能を誇る代物だ。


 一方、昨日と打って変わって厳つい表情を浮かべているコウノスケは、昨日と変わらない緑の服――――軍服だが、どこから取り出したのかフレイチェリのそれよりも一回り小さい銃を装備していた。しかし、こちらは相当使い込まれているようで、使われている木材からは年月が感じられた。


 リーリアは、昨日と変わらず草色のチュニックとハードレザーの胸当て、そして大弓を携えていた。それだけなら体形も相まって可憐なエルフ弓手なのだが、残念ながら顔に走る傷跡と鋭い眼光、そして無表情がそれを完全に打ち消してしまっている。いわば、戦いに赴く前の狂戦士といったところか。


 最後のアルド君は、一行の中で最もおどろおどろしい防具をつけているのに、ほかの雰囲気がヤバイせいで一番まともになってしまっていた。そんな彼は覚悟を決めた若武者といった表情をしており、戦に赴くということは理解しているようだった。


 他に、まがまがしい槍を携えた爺さんもいるにはいるが……。


 そんな奇妙な一行を一瞥した俺は、言った。

 無意識にニヤリと笑ってしまっている自分を感じ取りながら。


「……さて、やることは一つだ。――――戦え」



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